「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

自死について思うこと(3)

2007年03月12日 09時21分58秒 | 自死について
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/45866742.html からの続き)

 アメリカで 生命倫理を学ぶ者に 教えられたという、

 一件のエピソードが あります。

 ある男性が 爆発事故で、全身に快復不能の 大火傷を負いました。

 目はつぶれ、手は拳のまま固まり、手足の骨が 露出するほどの重症でした。

 病院では 全身を包んだガーゼを 交換する際、

 体を水槽の中に つるして行なうという 荒療治がほどこされました。

 連日に及ぶ 想像を絶した激痛は 正に拷問です。

 彼は、 「治療をやめてくれ! 殺してくれ!」 と叫び続けました。

 しかし病院側は 前例のない治療実績を 作るためなのか、

 男性の声を 聞き入れませんでした。

 そして 何ヶ月何年にも渡る 地獄のような治療の末、

 幸運なことに 男性は持ちなおしました。

 形成手術を受け、義眼を入れ、数多の障害を 残しながらも、

 彼は その後結婚して 子供ももうけ、満ち足りた人生を 送りました。

 しかし 彼は、過酷な治療の先に 幸福があると 分かっているとしても、

 もう一度 あのときと同じ事態になったら、

 自分は断固として 死を選ぶと言います。

 死よりも苦しい 生の痛みがある ということです。

 この逸話は、命にまつわる自己決定 という命題も提起しています。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/45923285.html
 
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自死について思うこと(2)

2007年03月11日 13時50分58秒 | 自死について
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/45852418.html からの続き)

 心子もカウンセラーとして、自分のクライアントが 死にたいと申し出たとき、

 それを打ち消しは しなかったそうです。

「 本当に死にたいときは 死ぬなとは言いません。

 ただ 今日一日だけ 生きてみて。

 もし明日 死ななかったら、もう一日 生きてみよう。

 そうしたら また 生きられるかもしれない。」

 クライアントは 自分の気持ちを 分かってもらえたと感じると、

 かえって 一命をつなぎ止めるといいます。

 カウンセラーは 本当の苦しみや悲しみを 知っていなければできないと、

 心子は言っていました。

 常日頃 周りに気を遣って 生きているのだから、

 せめて死ぬときだけは エゴイストでもいいのではないか とも言っていました。
 

 僕は、苦しければ死んでもいい とは言いません。

 人は試練のなかからこそ、結実したものを 体得していくことができるものです。

 安易に自殺に走るのは 論外だし、

 命の重みを かみしめられない人に 自殺傾向も見られるようで、

 生きることの真価を 知ってほしいと思います。

 しかしながら、死を選択せざるを得ないほどの 苦しみというものも、

 やんぬるかな 存在すると思うのです。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/45889711.html
 
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自死について思うこと(1)

2007年03月10日 22時29分51秒 | 自死について
 
 心子は自らの手で 人生の幕を引きましたが、

 否定的に捉えられがちな  「自殺」 というものについて、

 僕なりに思うところを 記してみたいと思います。

 ただし、これはあくまでも 心子が世を去ったあとに、

 彼女の夭逝を 悲しみだけに終わらせないため 僕が思ったことです。

 いま自殺企図のある人には 必ずしも当てはまらないところが

 あるかもしれないと思います。

 決して 自死を安易に認めるものではない ということを、

 強く承知していただきたいと お願いいたします。
 
 

 元々 僕は理想が高く、生きる観念しかない人間でした。

 どんなに苦しくても、逆にそこから 何かつかみ取って生きてやると、

 昔は思っていました。

 しかし、かつて 僕は大いなる挫折をし、

 泥沼の底を のたうち回る懊悩に 苛まれた体験をしました。

 奥底のない 生き地獄の中で、

 胸が押しつぶされて 呼吸もできない苦悶に 七転八倒したのです。

 町を歩くと、道の両脇の建物が 赤錆びた廃墟と化して のしかかってくる、

 いても立ってもいられない 妄執に襲われました。

 一刻も早く この惨状から逃れたい,この場から 消えてなくなりたいという、

 どうしようもない衝動に 駆られました。

 がん末期の苦痛のために、死にたいと思うのと同様です。

(ただし 実際のがんの疼痛は、緩和療法で ほぼ取り除けます。)

 精神的な苦しみは 肉体的苦痛となって現れます。

 そこから逃げ出したい という欲求は、僕には納得できます。

 あと一歩のところで、僕も向こう側の世界へ 行っていたかもしれません。

 死生観は 人によって異なるもので、自殺を認めない人もいますが、

 僕は 心子の死を責めたり 卑しめたりしてほしくない と思っています。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/45866742.html
 
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自死遺族--「グリーフケア サポート プラザ」 講演会 (6)

2007年03月04日 11時05分20秒 | 自死について
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/45642418.html からの続き)

 自死遺族にとっての懊悩は、

 一生続くかと思われるような 長くて真っ暗な トンネルであったとしても、

 いつか必ず 一筋の光が差してきて、再生へと向かっていくのだといいます。

 それを知っておくことが重要です。

 立ち直っていくきっかけは 人それぞれで、

 ある人にとっては 意味があることでも、別の人にはそうではないでしょう。

 大切なのは、その人にとっては その時 そのことが

 救いとなり得たのだ、 ということなのです。

 
 しかしながら、死にゆく人に対して あらゆるサポートや 手立てを講じても、

 どうしても防げない 自死というものも 厳然としてあるといいます。

 苦悩があまりにも 底なしで巨大すぎて、なすすべがないというものもあると……。

 でも そういう人は、死ぬことによって生きた というのです。

 死によって 自由になった,解放されたということなのです。

 僕も、心子の死に対して 同様のことを思っています。

 彼女の苦しみは 小さな胸には圧倒的で、想像を絶する 生き地獄だったでしょう。

 心子は死出の旅立ちによって、ようやく苦しみから 解き放たれたのだ,

 これでやっと 痛みのない天国の お父さんの所へ行けたのだ,

 そう信じるしかないというものが、如何ともしがたく 僕の中にはあるのです。

 
 自死をする人は、我々が 普段忘れているものを 持っている人が多いといいます。

 馬鹿なくらい真面目で 優しいのです。

 我々は彼らのメッセージを 聞き取る必要があります。

 彼らが大事にしていたものを 我々がバトンとして受け取り、

 引き継いでいくことが 我々に求められているでしょう。

 そのとき 私たちの生き方が問われます。

 亡き人たちは、我々の中に生きているのです。
 

[ 演者 「グリーフケア サポート プラザ」 理事・藤井忠幸 ]
 
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自死遺族--「グリーフケア サポート プラザ」 講演会 (5)

2007年03月03日 12時26分45秒 | 自死について
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/45576007.html からの続き)

 自死遺族の苦しみや心情は、周りの人には なかなか理解できません。

 普通の人は 善意で励ましたりしてしまいます。

 励ましが最もつらいことだというのは 皆さんはよくご存じでしょう。

 子供の一人を 自死で亡くした親に対して、

 「まだもう一人 兄弟がいるじゃないか。その子を可愛がってあげて」

 などと言う人もいます。

 親は その子がいなくなったことが 悲しいのであって、

 亡くなった子は 兄弟だろうが 換えることはできないのです。

 中には 「犬でも飼えば?」 と言う人さえいるようです。

 逆に、 「分かる分かる」 と 理解したふりをする人もいて、

 「どうしてあなたに分かるのか?」 と思わずには いられないでしょう。

 けれども これらの隣人は 善意で言っているので、

 遺族は我慢するのが つらいといいます。

 気持ちが弱っているから 言い返せないということです。

 そんな遺族にとって 一番望ましいのは、「好意的無関心」 というものだそうです。

 遺族のことを想ってはいるけれど、お節介をしない ということです。

 じっとそばにいる,気持ちを受け止める ということですね。
 

[ 演者 「グリーフケア サポート プラザ」 理事・藤井忠幸 ]

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/45667076.html
 
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自死遺族--「グリーフケア サポート プラザ」 講演会 (4)

2007年02月28日 22時54分26秒 | 自死について
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/45535657.html からの続き)

 自死遺族は 次に 親族からも責められます。

 「あなたが一緒に暮らしていながら 気付かなかったの?」

 「お前が殺したんだ」

 最も嘆き苦しんでいるときに、最も傷つけられることを 言われたりします。

 自分自身でも おのれを責めてしまいます。

 「あの時 こうしていれば……」

 「あんなことを言いさえしなければ……!」

 自分のせいで死んでしまったのだと、どうしようもなく 苛まれるのです。

 怒りは自分に対してだけでなく、亡くなった人にも向かいます。

 「なんで何も 話してくれなかったの?」

 「どうして自分を残して 逝ってしまったのか?」

 亡くなった人は戻ってこないので、答は決して返ってきません。

 こういう苦しみは、病死の場合以上に 長い期間続きます。

 最悪の場合は、後追い自殺に至ってしまいます。

 すると さらに残された人は 二重三重の苦しみに陥ります。

 自死に対しては、悪いことだ,本人が弱いのだという 偏見がまだまだ根強く、

 遺族は 周囲の人にも言えなかったり、誰にも話せず 独りで抱え込んだりします。

 そのため苦痛は 否応なく増してしまうのです。

 心子のお母さんも 心子の自死のことを 近所の人にも言わなかったので、

 彼女の葬儀は 親族だけの淋しいものになりました。

 今でも近所では 心子の死因を 知らない人がいるそうです。
 

[ 演者 「グリーフケア サポート プラザ」 理事・藤井忠幸 ]

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/45642418.html
 
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自死遺族--「グリーフケア サポート プラザ」 講演会 (3)

2007年02月27日 15時21分40秒 | 自死について
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/45518189.html からの続き)

 講演会ふたつめの演目は、藤井忠幸理事による

 「自死遺族の悲嘆と その支援のあり方」。

 「グリーフケア サポート プラザ」 では、

 「自殺」 ではなく 「自死」 という言葉を使っています。

 「自分を殺す」 のではなくて、「自ら死す」 ということです。

 拙著 「境界に生きた心子」 の中でも、「自死」 という言葉で書いています。

 
 「グリーフケア サポート プラザ」 は、家族を自死によって亡くした

 遺族を支える会ですが、

 これから書くことは 自死をしようとする人にも 考えてほしいことです。

 一人の人間が自死すると、少なくとも5人の

 自死遺族や 嘆き悲しむ人が生まれてしまいます。

 家族を自死で失った遺族は、病気などで亡くした遺族とは また別の

 特別な苦しみがあります。

 例えば、突然に愛する人を失った その直後から警察が介入し、

 事情聴取が始まります。

 警察は 事故か事件か調べなければならないため 致し方のないことなのですが、

 遺族は 凄まじいショックの真っ只中で、現実も受け止められず 混乱しているのに、

 遺体を発見したときの状況など 目を覆いたくなる惨状を 事細かに尋問されます。

 子供であれば トラウマにもなってしまうでしょう。

 警察は 家族が犯人かもしれないという 疑いもあるので、

 保険金はいくらかかっていたかとか 残酷なことまで問い詰められるのです。

 遺族に与えるショックについて 警察が教育されているか、

 地域によって 差があるそうです。

 心子の場合は 精神科の診察券が見つかり、自殺の可能性が高かったので、

 心子のお母さんが 警察に傷つけられたという話は 幸い聞いていません。

 ちなみに、警察から連絡を 受けたときのエピソードは 下記の記事に書いています。

http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/17711696.html 

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/45576007.html
 
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