もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

軍艦に対する商船の敬礼

2019年06月16日 | 自衛隊

 ホルムズ海峡でのタンカー攻撃に際して、先日、商船の国旗と仕向国の表示について書いた。

 ホルムズ海峡の攻撃者(下手人)について、米英はイランと断定し、中露はイラン擁護の姿勢を示し、更にアメリカはイランが無人機を撃墜したこともあり中東地域への増派を示唆する等、予断を許さない展開を示しているが、本日は生臭い話題から離れて海上における船舶の交流・儀礼について書くことにする。一般の人には余り知られていないことと思うが、航伯を問わず商船は軍艦に対して敬礼するという麗しい慣例がある。その場合、商船は船尾に掲げている国旗を旗竿の半ばまで降ろした半旗として敬礼する。敬礼された軍艦は、同じく艦尾の軍艦旗を半旗として答礼する。加えて軍艦側がマストに「UW」旗を掲げる場合もある。「UW」旗は、国際信号書で「安全なる航海を祈る」というもので、単調な航海におけるささやかな交流である。商船と商船の間では、このような風習はないと思われるので、海軍が海の安全を守っていることに対する感謝と海を生活の場とする紐帯の意味を込めて始まったことであろうと推測する。この敬礼は慣例であるために、商船が敬礼しなくても咎められることもないが、多くの国の商船が行っている。かっては共産圏の商船が自衛艦に敬礼することはなかったが、現在ではどうなっているのだろうか。おそらく中国と韓国の船は自衛艦に対しては敬礼しないのだろうと思っているが。マラッカ海峡などの外国航路の収束点で多くの外航船が行き交う海域を航行する時は敬礼を受ける自衛艦の答礼も大変で、かっては商船への答礼に備えて艦尾旗竿付近に乗員を配置したものである。現在は、艦尾旗竿に自衛艦旗揚降装置が装備されて艦橋から遠隔操作ができるとも聞いたことがあるが果たしてどうなっているのだろうか。

 麗しい慣例も、商船運航システムの自動化・省力化や、商船の大型化による海難事故の減少等によって、次第に姿を変える運命にあるのかもしれないが、長く続いて欲しい習慣である。他国の軍艦に対しても、掲揚された指揮官旗の下位の艦が上位の艦に対して敬礼するという慣習があるが、国際観艦式において韓国の文大統領は大統領旗と李朝の提督「李舜臣」の旗を掲げたとされている。観艦式に参加した各国海軍は、国際慣行に外れた韓国海軍の儀礼に対してどのような気持ちで敬礼したのだろうか。