G20でも改革が議論されているWTO(世界貿易機関)について勉強を試みた。
WTOは、2017年2月に発効した国際機関で、常設事務局はスイスのジュネーブに置かれ164の国と地域が参加している。機関の運営は最高意思決定機関である閣僚会議で行われるが、実務的には一般理事会が行っている。一般理事会の下に、加盟国(地域)間の貿易上の紛争を準司法的に解決するための紛争解決機関(DSB)が置かれている。DSBによる判断は「二審制」で行われ、一審は小委員会で最終審は上級委員会で行われる。小委員会は「パネル」とも呼ばれ、紛争事件の都度、国際通商法の専門家3~5名の委員が選出されて審理に当たる。小委員会の決定に不服の場合に加盟国は7名(各案件ごとの審理は3名)の上級委員会での審理を求める制度となっている。韓国が福島県産品の輸入を禁止していることに対して日本が提訴した事案では、小委員会及び上級委員会のいづれも日本の主張を退けたが、これは福島県産品の危険性を判断したものではなく、韓国の食品安全法が恣意的(反日)に運用されていないとの法解釈に依ったためであり、各委員会では科学的データすら検証していない。このように、国際的な基準や経済原則で審査することなく各国の国内法抵触のみを以て判断する姿勢では、中国の技術移転強要も国有企業への資金援助も知的財産の保護もすべて容認されることとなり、国際的な紛争調停の機能を持っていないとするのが一般的な見方とされている。福島県産品の輸入禁止に対する韓国の対応を適法としたWTOの判断にも関わらず、EUはG20の場で福島県産品の輸入制限撤廃を表明したように、WTOの権威も失われているようである。既にアメリカ等がWTOが国際的な調停機能を失ったとして上級委員の再任や指名を拒んできたため、定員7名であるべき上級委員が、2019年4月以降3名しか在籍せず、残る3名のうち法的な理由で審理への関与を控えなければならない委員が1人でも出た場合、制度は崩壊すると懸念されている。2019年12月にはさらに2名が欠員となるため審議が不可能となり開店休業の状態になるのは必至とされている。
今回のG20においても、WTO改革の必要性については各国とも同調しているが、改革の方法に対する各国の主張には大きな隔たりがあるようである。中国は、世界基準の商慣習や経済原則を判断基準としない現体制を歓迎して、現体制を維持するための委員の定数や選出方法を提案し、西側諸国は体質・制度の抜本的な改革を望んでいることから、G20でも大きな進展が期待できるものではなく、WTOの消滅・解体・新しい枠組みに発展することは確実とおもえる。