知床半島周遊観光船事故については、痛ましい事故であり人災の誹りを免れないように思う。
観光船沈没の直接原因は現在のところ不明であるものの、船の管理と運行管理に数々の瑕疵が指摘されているので、運航事業者の刑事・民事の責任について今後の判断に俟たざるを得ない。
事業者の出港判断の一つとして取り上げられている「条件付出港」に関しての感想を書くが、一般論であって今回の事業者を擁護する意図はないことを最初にお断りしておく。
世の中の諸事は全て「条件付」で行われており、行動開始後に何らかの変更は当然とされていると思う。家族旅行でも、出発後に交通渋滞、子供の熱発、交通機関の乱れ・・・によっては予定を変更するし、登頂目前で引き返した登山隊があり、生還を度外視した特攻機ですらエンジン不調や荒天で反転帰投した例もある。
特に、海象については予報精度が劇的に向上した現在でも、想定外の急変も起こり得るとの認識を以って出港することは船乗りの常識であり、自衛艦であっても航路上に幾つかの避泊地を念頭に置いて航海計画が立てられるのが常で、拙い経験でも避泊地に逃げ込んだ経験を複数回持っている。
海上自衛隊では、気象・海象を予察するとともに、荒天や機関故障の突発的な事態から艦を保全する能力を観海性・慣海性という言葉で表わし、海上勤務者とりわけ指揮官には不可欠の要素とされている。
レーダーが無い帝国海軍時代の逸話である。霧の中を編隊航行する場合は単縦陣形で航行し、各艦は霧中標的という筏を曳航して後続艦は前続艦の霧中標的を追従するという方法を採っていた。とある隊の霧中航行時、2番艦の航海長も先頭艦の曳く霧中標的を追従していたが、「磯の匂いがする」として独断で沖合方向に転舵した。その後、先頭艦は浅瀬に座礁したものの、この処置によって2番艦以降は座礁を免れたとされており、観海性・慣海性の見本と語り継がれている。
今回の事故でも、観海性・慣海性に長けたウトロ港の漁船・漁師は出港を見合わせていたとされるので、事故船長の判断を知ることができない今、経営者が船長の観海性よりも経済的利益を優先したか否かに注目が移っているが、どのような結論に至るのだろうか。
ともあれ、「条件付行動」は世の常で、その条件を如何様に設定するか、如何様に評価・判断するか、で結果は大きく変化するものと考える。