もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

防衛予算の増額論議に思う

2022年05月14日 | 自衛隊

 防衛費を対GDP比2%に増額することの是非に関する議論が盛んである。

 防衛費増額については、ウクライナ事変に触発された危機感もあって、世論調査でも「大幅に増額」と「ある程度増額」が過半数を示し、「現状でよい」の2倍近くに達しているとされている。
 元々、2%以上という数字はNATOが加盟国に求め、過去にはトランプ氏が米軍支援の代償として友邦に求めていた数字であり、数字自体は軍事的根拠を持ったものではないと思っているが、この動きに関して、公明党と立憲民主党が「正論」を述べている。
 「正論」は、「数字(総額)ありきでなく、増強の詳細に関する議論が必要」とするもので同感であるが、両党のこれまでを考えると聊かの「?」と「危惧」を抱かざるを得ない。そもそも防衛費の上限を「概ねGDPの1%をシーリングとする」慣例は、公明党と野党の要求に沿う政治判断から生まれたもので、専守防衛に必要な兵器体系の方向性や兵力所要の積み上げによって生まれたものではないことである。  このことは、国会論戦や予算成立後における党首の談話でも、防衛費の総額、上限死守の功績、近隣国配慮に関しては触れられるものの、防衛装備の中身に関してはあまり触れられなかったことでも明らかである。
 政治が軍事費をコントロールすることは絶対に必要であるが、政治家が軍事に精通していなければ装備の詳細までコントロールすることは不可能ではないかと思っている。
 かって、帝国議会で陸軍の大幅増強を承認する一方で海軍の要求を減額した際、海軍大臣が「もし大陸に兵力を派出する必要が生じた場合、海軍は輸送力を持たないので政府・陸軍は九州~対馬~朝鮮半島に陸橋を掛けて対処して頂きたい」と述べたという逸話があり、連合軍のノルマンディー上陸作戦が成功したのはヒットラーが戦術指揮・部隊配備まで行ったためとされている。

 公明党と立憲民主党が、防衛費の総額論争に終止符を打って装備の詳細までを論議するのは日本の防衛に関して一歩の前進とも思えるが、野党議員諸氏には軍事常識の習得と、政治・外交と軍事の相互作用についてこれまで以上の研鑽が求められると思う。
 願わくば、B29に対して竹槍しか持たせ得なかった轍は踏んでもらいたくないものである。