沈没した知床周遊観光船の引上げが話題となっている。
このことについては既に、保安庁が飽和潜水の能力を持つ民間業者とサルベージ契約したとも報じられているが、真偽・詳細は明らかでない。
自衛隊・海保・道警の水中カメラによる捜索では船内に遺体は確認されていないようであるので、何故に船体の引上げが必要なのだろうかと聞き耳を立てているが、よく理解できない。
メディアが報じる引上げ理由と経費の負担に関する主張を見ると、引上げの理由は「船主の法的責任を問う証拠保全」「再発防止、規制強化を行うための原因調査」に集約され、経費の負担については「全額国費」、「国費で行い船主に代理弁済を求める」、「全額船主負担」と多様である。
そもそも、船主に引上げ義務はあるのかという点では、東海大海洋学部の山田吉彦教授が「船主に引上げ義務があるかというと、少し難しい。引き上げを拒否した事例もある。法的には必ずしも船主が引上げなければいけないことはない」とするのが正解であるらしい。
山岳遭難事故を考えると、警察が行う捜索・救助活動に関しては全額公費であるのに対し、民間のレスキュー隊や山岳会の活動は自己(遺族)負担であると聞いているが、今回の事例では「船内に遺体が確認されない」以上、船体の引上げは捜索・救助の域ではなく、かつ燃料搭載量から見て軽油が流出したとしても海洋汚染に対する影響は小さいために船主に負担を求めることは難しいように思える。さらに先に挙げた「証拠保全」的意味合いを考えると、犯罪捜査における警察の鑑識活動の拡大版で全額国費に依らなければならないように思える。
以下は、人でなし貧乏人の感想であるが、「多額の公費を掛けて沈没船を引き上げる必要はない」と思う。引上げが論じられるのは、沈没地点が水深120mと「無理をすれば引上げられる」ことに由来しているだけで、例え引上げ得たとしても沈没の衝撃や長期間沈没していたことで証拠品等は流出している可能性が高く、敏腕弁護士にかかれば「船体の破損状況や搭載品の不備は沈没に至る衝撃や引き揚げ作業によるもの」とされて証拠能力を論破されるに違いない。
また、これまでの情報を眺めると、事故原因の多くは陸上と船員の人間(ソフト)が負うべき様相を呈しており、船体(ハード)に起因する要素は少ないように思える。事故船から「エンジンが止まった」と報告されたともされているが、19㌧の船体であれば今以上の海水飛沫防護機能を持たせることは不可能であるので、再発防止・規制強化には寄与しないと思う。
気象・潮流・波浪の厳しい海域で深海潜水を伴うという困難な作業に、多額(数億円?)の経費と時間をかけての結果で得られるものが少ない(皆無?)ことを考えれば、沈没船を引き上げる必要はないと思う。