山口県周南市で重度訪問介護による障害福祉サービスを受け、自宅で自立生活をしている脳性まひの男性が、加齢による体の衰えなどを理由に、市に1日24時間の介護を求めている。市は20時間しか認めず、むしろ制度を見直すべきだと国や県に要望する。制度をめぐっては、全国でも障害者と行政が対立し、裁判で争うケースも起きている。
周南市周陽2丁目、障害者団体「全国青い芝の会」事務局長、大橋邦男さん(52)は生まれた時から四肢にまひがあり、言語障害もある。25歳の時からヘルパーの支援を受けながら、周南市の自宅で1人で生活してきた。
大橋さんによると、約3年半、下関市で暮らした時には生活保護による特別介護手当を含め、実質的に24時間態勢の訪問介護のサービスを受けていた。しかし、2008年に周南市に戻ったら20時間しか認められなかったという。この制度は、障害者一人一人を市や町が審査し、必要なサービスの量を決める仕組みだ。
大橋さんは「4時間は何とかしようと努力したが、加齢による体の衰えで、トイレなど我慢するのが難しくなった」として、市に24時間ヘルパーを付けてほしいと求めている。「健常者が24時間できることを、なぜ障害者は我慢しなければいけないのか」と訴える。
これに対し、市障害福祉課の大西輝政課長は「夜中のトイレは、寝る前に済ませておけば行かなくて済む。大橋さんは、自分だけで生活できる時間があると判断した」と説明する。
市は今年2月、県市長会に、制度の見直しを国や県に要望するよう提案した。「高額な公費負担は他の福祉サービスとの公平性を欠き、納税者の理解を得られない」として、(1)一定額を上回る費用は国が全額負担(2)支給量の上限を定め、積算に関する基準を示す(3)家族や所得状況を考慮した利用者負担――を求めた。市長会は厚生労働大臣や県知事などに要望書を送った。
厚労省障害福祉課の久保安孝係長は「障害の程度は個々の障害者で異なる。国が基準を作れば自治体は楽かもしれないが、自治体が本人や家族への聞き取りなどによって、個別に必要な介護を判断すべきだ」と話す。
和歌山市では、脳性まひの男性が市に24時間介護の提供を求めた訴訟があった。和歌山地裁は昨年12月、原告のサービス提供時間を3時間減らし1日13時間とした市の決定を取り消し、最低でも16時間以上とした一方、24時間介護の義務づけは認めない判決を出した。双方が控訴している。
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〈重度訪問介護〉 障害者自立支援法(2006年施行)に基づく介護給付の一つ。常に介護を必要とする在宅の重度の身体障害者に、ヘルパーが入浴、排泄(はいせつ)、食事の準備、外出時の移動支援などをする。経費は原則9割が国(2分の1)、県と市(各4分の1)から給付され、1割が本人負担だが、本人か配偶者に収入がなければ全額公費負担。県障害者支援課によると、県内の09年度の利用者は602人で公費は約2億6300万円。利用者は年々増加しているという。
足でパソコンのキーボードやマウスを操作する大橋邦男さん=周南市周陽2丁目の自宅
朝日新聞