東日本大震災の被災地で、日本郵政グループの分社化が郵便サービス回復の足かせになるケースが出ている。各事業会社の業務範囲が法律で決められているため、郵便局員が郵便物を預かることができなかったり、郵便配達員が貯金引き出しの依頼を受けられないなど、被災者の要望に応えられず、現場の職員が対応に苦慮するケースもあるという。
「配達は日本郵便の担当なので、郵便局では分かりません」「同じ郵便なのにどうして?」。津波で浸水したが、震災11日後から業務を再開した石巻郵便局(宮城県石巻市)には、非常電話が開通した3月末から、郵便の配達状況や受け取り方法を問い合わせる電話が1日に最大100件程度寄せられた。だが、郵便局会社の職員は、郵便事業会社(日本郵便)が担当する集配体制についての情報を持っておらず、回答ができなかった。
郵便局と同じビルに日本郵便石巻支店があるが、個人情報保護のため互いに自由に出入りできない規則といい、二階堂明浩局長は「被災して困っている人の力になれなくて歯がゆかった」と振り返る。
また、震災により東北地方の拠点で配達用の車とバイク計450台以上を失った日本郵便は、郵便局会社でバイクや自転車が無事でも、許可を得ないと使えなかった。石巻郵便局ではバイク数台が被害を免れ、日本郵便支店長が貸し出しを要請。「緊急事態」と判断し、1台を貸した二階堂局長は「本社に連絡がつかない中、契約が必要だとか、事故が起きたらとか考えると簡単には決断できなかった」と振り返る。
日本郵政は、07年の民営化で持ち株会社と事業4社の5社体制になり、郵便物の集配は日本郵便、郵便の受け付けや貯金・保険の取り扱いの窓口業務は郵便局会社などと、法律で業務範囲が限定された。今回の震災では、その縦割りが弾力的なサービス提供を阻み、マイナスに働くケースが目立つ。
関係者によると、郵便局会社が貯金払い戻しのため避難所に設けた臨時窓口で郵便を預かれなかったり、日本郵便社員が配達先で「通帳を預かって貯金を下ろしてほしい」と頼まれても断らざるを得ない事例が起きた。また、日本郵便が車両型の移動郵便局11台を現地に派遣しようとしたところ、貯金を扱うためには郵便局会社に貸し出して同社社員が運転することが必要で、車両保険の変更に時間を取られたこともあったという。
郵便局の再建も影響を受けている。全半壊などの被害を受け、再開できていない郵便局83局のうち15局は日本郵便の支店や集配センターと郵便局が同居していた。だが、持ち株会社の日本郵政と日本郵便、郵便局会社の3社を再統合する郵政改革法案の国会審議はストップしており、再編の行方が見えない。さらに、赤字の日本郵便が集配センターの一部を廃止する意向を持っていることもあり、新たな建物のレイアウトや事業主体がはっきりせず、「郵便局長室と日本郵便支店長室の両方が必要なのかすら分からない」(日本郵政幹部)状況が続いている。
日本郵政の斎藤次郎社長は「将来の経営形態がどうなるか分からないまま、有効な復興計画を描くことはできない」と頭を抱えており、一日も早い政治決着を求めている。
毎日新聞 2011年5月24日 21時23分(最終更新 5月24日 21時50分)