東日本大震災の被害の深刻さが伝わるにつれて、紀南地方の住民にも不安が広がっている。東南海地震と南海地震が連動して起きれば、どれほどの津波が来るのか。被害は現在の想定範囲で収まるのか。道路が寸断したときに、食料や物資、救助要員などの救援は、どこまで期待できるのか。
何より、そういう不安や疑問を、県や市町村は正面から受け止め、行動を開始しているのか。
田辺市はこのほど、沿岸部の町内会や自主防災組織を対象に、2回に分けて意見交換会を開いた。地区ごとの避難路や避難場所の問題点を洗い出し、より早く逃げる手だてを講じるためという。
意見交換会にはこれまでの想定では津波浸水域とはされていない町内会も多数出席。出席者からは想定外の津波に対する不安を訴える意見が相次いだ。
ある住民は夜間に指定避難施設を訪ね、緊急時に入場できるかどうか調べたという。別の住民は高齢者の立場で高台に避難するまでの歩行時間を調べたと報告した。高齢者や障害者100+ 件ら短時間での避難が難しい近隣住民への支援はどうするのかという質問もあった。
多くの住民が想定外の事態が起きることに不安を抱いていた。
しかしながら、県や市など行政機関の対応ぶりを見ていると、どこかもどかしい。
県は、現在の被害想定を基に、市町村と連携して避難路や避難場所を緊急点検し、国が抜本的に見直す被害想定に合わせて、その後の対策を進めるという。しかし、現状は国の想定や指示を待っている段階で、県独自の「想定の見直し」にはつながっていない。
田辺市も、住民からの要望や国の新たな想定を待っている状態。紀南河川国道事務所も、従来の道路橋の基準について「これまでの基準や対策が今回の震災でも有効だったのか分析する必要がある」というだけで、それ以上に踏み込んだ言及はしていない。
けれども、そういう「待ちの姿勢」で、住民の疑問や不安は解消できるのか。例えば田辺市役所の庁舎。津波被害の心配があるし、耐震性の問題もある。築41年になる5階建ての庁舎は、震度6に耐えられないと診断されている。
これで、災害時に司令塔としての役割が果たせるのか。
もちろん、庁舎の耐震化や改築には多額の費用がかかる。急に思い立ってできることではない。しかし、耐震化や移転についての議論さえ始めていないという現状はいかがなものか。
東日本大震災以降、防災に関する常識も基準も根こそぎ崩されてしまった。だからこそ、住民の間で不安が高まっているのだ。
その不安に向き合わなければならない。県も市町村も、国の出先機関も、これまでの「常識」を捨て、東日本大震災で起きた事実から学ばなければならない。白紙に戻って問題点を把握し、是非を再点検する必要がある。そのための行動に取り掛かってほしい。
政府によると、今後30年以内に東海地震が発生する確率は87%、東南海地震は70%、南海地震は60%。新たな「想定」をぼんやりと待っている時間はない。
(2011年05月24日更新)
紀伊民報
何より、そういう不安や疑問を、県や市町村は正面から受け止め、行動を開始しているのか。
田辺市はこのほど、沿岸部の町内会や自主防災組織を対象に、2回に分けて意見交換会を開いた。地区ごとの避難路や避難場所の問題点を洗い出し、より早く逃げる手だてを講じるためという。
意見交換会にはこれまでの想定では津波浸水域とはされていない町内会も多数出席。出席者からは想定外の津波に対する不安を訴える意見が相次いだ。
ある住民は夜間に指定避難施設を訪ね、緊急時に入場できるかどうか調べたという。別の住民は高齢者の立場で高台に避難するまでの歩行時間を調べたと報告した。高齢者や障害者100+ 件ら短時間での避難が難しい近隣住民への支援はどうするのかという質問もあった。
多くの住民が想定外の事態が起きることに不安を抱いていた。
しかしながら、県や市など行政機関の対応ぶりを見ていると、どこかもどかしい。
県は、現在の被害想定を基に、市町村と連携して避難路や避難場所を緊急点検し、国が抜本的に見直す被害想定に合わせて、その後の対策を進めるという。しかし、現状は国の想定や指示を待っている段階で、県独自の「想定の見直し」にはつながっていない。
田辺市も、住民からの要望や国の新たな想定を待っている状態。紀南河川国道事務所も、従来の道路橋の基準について「これまでの基準や対策が今回の震災でも有効だったのか分析する必要がある」というだけで、それ以上に踏み込んだ言及はしていない。
けれども、そういう「待ちの姿勢」で、住民の疑問や不安は解消できるのか。例えば田辺市役所の庁舎。津波被害の心配があるし、耐震性の問題もある。築41年になる5階建ての庁舎は、震度6に耐えられないと診断されている。
これで、災害時に司令塔としての役割が果たせるのか。
もちろん、庁舎の耐震化や改築には多額の費用がかかる。急に思い立ってできることではない。しかし、耐震化や移転についての議論さえ始めていないという現状はいかがなものか。
東日本大震災以降、防災に関する常識も基準も根こそぎ崩されてしまった。だからこそ、住民の間で不安が高まっているのだ。
その不安に向き合わなければならない。県も市町村も、国の出先機関も、これまでの「常識」を捨て、東日本大震災で起きた事実から学ばなければならない。白紙に戻って問題点を把握し、是非を再点検する必要がある。そのための行動に取り掛かってほしい。
政府によると、今後30年以内に東海地震が発生する確率は87%、東南海地震は70%、南海地震は60%。新たな「想定」をぼんやりと待っている時間はない。
(2011年05月24日更新)
紀伊民報