命を落とした視覚障害者と盲導犬
トラックはバックする際、注意を促すブザーの音が切られていました。
多くのトラックにはこのブザーが搭載されていて、「バックします。ご注意ください」などというアナウンス音も出して接近を知らせます。この音があれば、山橋さんはトラックに気づいた可能性があります。
ところが運転手は、作業中の音に近所から苦情が寄せられていたため、朝と夜はスイッチを切っていたということです。
盲導犬のことを正しく知ってほしい
こうした考え方は誤解だと訴えているのが、視覚障害者の鶴野克子さん(50)です。山橋さんの友人で、盲導犬を正しく知ってもらいたいという思いを強くしています。
特に伝えたいのは、盲導犬は主人の指示がなければ動かないよう訓練されていることです。外出する際は、鶴野さん自身が車が近づいていないか音を確認し、盲導犬に「OK」などと声をかけて進むよう指示します。危険を感じれば止まるように指示を出せますが、最近ではエンジン音が静かな車が増え、ひやりとすることも多いといいます。「私や盲導犬の右脇を車が走ったときに『あ、車が来てたんだ!』と驚くことがよくあります」。
徳島市内の小学校を訪問した鶴野さんは、クイズで理解を深めてもらおうとしています。その1つが「盲導犬は赤信号を見て止まることができるか」という問題です。
子どもたちのほとんどが信号が理解できると思って拍手をしました。しかし実は、犬は色を区別することはできません。
鶴野さんは子どもたちに「盲導犬は信号は分からないんです。だから、主人がエンジン音で判断して、進めという合図をします。ですから音はとても大事なんです」と語りかけました。
事故から見えた課題に向き合う
今回の事故で明らかになったのは、一般の人には騒音と思われても、視覚障害者にとっては命を救う音があるということです。そのことを改めて認識する必要があります。