「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」
障害者基本法は第4条でこう定める。その理念を具体化する障害者差別解消法は先月施行された。
ところが、この原則に反する出来事が国会で起きてしまった。
衆院厚生労働委員会の参考人質疑で、意見を求められていた筋萎縮性側索硬化症(ALS)の男性患者(58)の出席が見送られた。
野党側が求めたが与党側が反対し、他の法案審議を絡めた協議の末、要求が取り下げられた。
男性は最後まで出席を希望していた。与野党の駆け引きの犠牲となってしまった印象は否めない。
本来、国会こそが差別解消の先頭に立たねばならないはずだ。猛省を求めたい。
ALSは体を動かす神経が徐々に侵され、全身の筋肉が動かなくなる原因不明の難病だ。日本全国の患者数は9千人を超すという。
適切な医療と支援があれば尊厳をもって社会で活躍できる。理論物理学者のホーキング博士ら、発病後に業績をあげた人も多い。
男性は呼吸器を装着し声が出せないため、委員会出席には口元を読み取る「通訳」が必要だった。このためやりとりに時間を要するとの反対論が出ていたという。
だが今回の委員会はそもそも、会話が困難な難病患者の意思疎通のため、入院中のヘルパー利用を解禁する法案の審議が目的だ。患者自身が出席することは、論議に大いに資するのではないか。
結局、委員会には日本ALS協会の常務理事が代わりに出席し、男性患者の談話を代読した。
「福祉に最も理解をしてくださるはずの厚生労働委員会において、障害があることで排除されたことは、深刻なこの国の在り様を示している」。国会はこの訴えを重く受け止めねばならない。
気になるのは、国会戦術を優先するかのような各党の姿勢だ。
自民党の小此木八郎国対委員長代理は反対理由を「患者さんをおもんぱかった」と強調。最終的に野党側が判断したと主張する。
民進党の山井和則国対委員長代理は、与党側が別の法案審議を出席の条件として求めたため受け入れられなかったと説明する。責任の押し付け合いではないか。
ことは今回の例にとどまらない。与野党間の緊張関係は重要だ。しかしそのために、国会本来の使命がないがしろにされるような事態は、あってはならない。
05/16 北海道新聞