2020年東京パラリンピックの開幕まで3年。競技に使う車いすなどの器具を開発したり、会場やその周辺をバリアフリーに作り替えたりといった官民の取り組みが着々と進む。これらは共生社会に向けてのレガシー(遺産)となる。パラ出場を目指すアスリートは練習に励んでいるが、そのための場所や資金の不足といった問題にも直面している。
「東京大会ではさらに軽い車いすを作りたい」。車いすメーカー、オーエックスエンジニアリング(千葉市)は1996年のアトランタ大会から競技用車いすを提供している。陸上競技の車いすでは、座席と前輪を結ぶメインフレームの断面は丸から始まり、楕円やひょうたん型などと変化してきた。選手の動きで車いすに垂直方向の負荷がかかり、強度を高める必要があった。
同社製品の売り上げの9割を占める日常用でも、外出が頻繁な人向けなど強度が求められるモデルにひょうたん型などのフレームを採用する。「車いすが壊れると、その場から動けない。切実な事情だ」。自身も車いすに乗る川口幸治広報室長は話す。
バリアフリー化を進める取り組みでは、大会組織委員会が3月、競技施設内や会場と最寄り駅を結ぶ動線を対象に、エレベーターの広さや通路の幅などを定めた「アクセシビリティ・ガイドライン」を公表した。バリアフリー規定として水準が高く、都は一部の規定を高齢者、障害者が暮らしやすい街づくりを目指した「福祉のまちづくり条例」にとり入れる方針だ。
■車いす席、前席が立っても視界確保
例えば、会場の車いす席での「サイトライン(観客の視線)」の確保。ガイドラインでは前の観客が立ち上がっても、車いす席で観戦できる設計を求めている。都条例には規定がなく、都は18年度にも条例のマニュアル改定を検討する。ガイドラインの規定を都内全域に広げたい考えだ。
障害者スポーツへの理解を深め、定着を図る取り組みも活発だ。千葉県は小中学校や高校、支援学校30校を推進校に指定し、パラリンピックを活用した教育活動を今秋から始める。テーマの一つに「心のバリアフリー」を掲げ、障害者スポーツを体験したり、アスリートの生き方を学んだりする場を設ける。
埼玉県は障害者スポーツ体験会などを行う団体向けの補助金を拡充した。県は「波及効果の高い取り組みを支援し、地域に活動を根付かせる」と狙いを説明する。川崎市も障害に関係なく誰もが暮らしやすい共生社会を目指す「かわさきパラムーブメント」に取り組む。障害者スポーツの振興や啓発、公共施設のバリアフリー化を進める。
12年のロンドンパラリンピックで統合ディレクターを務めた英国人のクリス・ホームズ卿は「パラリンピックは市民やコミュニティー、国全体をより良いものに変えるチャンスだ」と説く。開幕までの3年、ハードとソフトの両面でどれだけレガシーを残せるかが問われそうだ。