「わしは腰が痛くて、かなわんわい」
「わたしゃ最近、目が霞んで眼鏡無しじゃぁ・・・爺さんの美貌もよう見えんわ」
「そりゃぁ、かえって良かった。光男さんも若い頃は美女軍団が束になって群がる美男だったがのう・・・。トシを取れば、皆、兄弟じゃ。
90歳を超えれば、美男もブ男も、
ハリウッドスターさぁ。
みんな揃って 夜空に輝く
☆ピカピカ☆爺じゃよ。
がははははっ!」
ワシは、自分の帽子を脱ぎ、頭を撫で回しながら笑った。
「そうじゃ、そうじゃ、ワシらはみんな、トシとれば、ピカピカの一年生!」
と、昔はやったコマーシャルを真似て、隣の爺もお腹を抱えて笑う。
若い頃は、ワシらは皆、バリバリの仕事人だったもんじゃ。
定年してからの人生がより長いと知っていれば、あの頃、もっともっと真面目に働いたんじゃがのう。
正直、こんなに長生きするとは思いもせんでなぁ。
わしらは、いつものように、いつもの場所でゲートボールを楽しんだ後、牛乳箱をひっくり返した臨時の椅子の上に腰掛けて午後の井戸端会議中じゃった。
ここ最近、この硬い椅子に座っていられるのも、せいぜい15分が限度となってなあ。
若い頃は、一時間でも平気で座っていられたもんだが、トシを取ってから無理なダイエットは よした方がええ。何せ、痩せて引っ込んだ腹も、腕も、シワがたるんでしもうて・・・・。張りがある肌には戻れんばかりか、骨が硬いプラスチック製の牛乳箱に突き刺さって痛むんじゃ。クッション無しでは、どうにも、こうにもいかんごとなってしもうた・・・・。
トシを取ったら、ある程度の脂肪は蓄えておくことじゃ。爺の鉄則、その1。
もう一度、若い頃に戻りてぇもんじゃなぁ・・・・と皆で話しておった、そのときじゃった。
何処からか天からの声が聞こえたんじゃ。
空耳かと思うたがのう。
あの場に居た全員が、あの声を聞いておった。
「爺たちよ~、君らは今日まで良く頑張った。褒美に何でも欲しいものを与えるとしよう。何が欲しい? 遠慮せず、申し出るがよい! ただし、ここにいる者、全員同じものしか与えられぬ。良く考えてから申してみよ」
ワシらの欲しいもの・・・。一つだけ・・・・。
こんだけの人数・・・つまりは、ゲートボール仲間の7人組の意見が簡単に一致するかのう?
ワシらはシワシワの手を眺めながら、話し合った。
「そりゃぁ、若さが欲しいさぁ~! もう一度 若返って、思いっきり仕事をしてみたかなぁ」
「そうだなぁ、ちゅー坊の頃は、当時出来たばかりのコンビニの前に便所座りして、タバコを吸って、遊びほうけたもんなぁ」
「そうさ、いっぱい悪さばしたなぁ」
「社会人になったあと、厳しい上司の元では誰も見てなくとも一生懸命働いたさ。しかしなぁ、その上司が転勤になったとたん、さぼり癖が付いてしまってさぁ。一度 牛乳箱に座り込むと、中々腰が上がらんのは若い頃も同じじゃった・・・」
「ほんに、情けなかなぁ」
「トシ取って分かることさ。あの頃は、健康で軽く動ける身体はいつまでも自分のものだと勘違いしてしまってよ・・・」
ワシらは遠い昔を思い出しながら、意見は一致した。
「若さが欲しいっ!」
天の上でワシらのぼやきを聞いていた神は言った。
「あい、分かったぞよ。ワシの名はタヌキと申す。よろずの神の神国日本では、神様なんぞ、万の数は居ようか、その中の神の一人である。
4月1日から君らは20代に若返る。ただし、夜が明けてから12時のお昼までじゃ。12時を回ればシンデレラのごとく、爺に戻る。夜中ではなく、真昼じゃ。
では、真昼のシンデレラボーイズたちよ。健闘を祈る!v(^-^)v」
今宵3月。
ワシらは、指をおって数えた。こんなにワクワクしたのは、小春ちゃんに恋をし結婚までこぎつけた、遠い日以来じゃのう。今では、小春ちゃんはワシの妻となって、隣におるがのう。
4月1日。運命の日が訪れた。
いつもなら、「どっこいしょ!」と掛け声をかけて、ようやく起き上がれるワシの重たい身体が ことのほか軽い。
もしや、あのタヌキ神のお告げは本当だったのか?
ワシは・・・・ドキドキしながら 普段、妻の小春ばあちゃんが愛用している鏡の前に立った。
瞬きしてみる。
おかしい。
顔はいつもと変わらない。
シワシワ爺のままじゃないかぁ。
しかし、身体は確かに軽かぁ。
昨夜のゲートボールの疲れが残っていない・・・・ってことは。
見た目は これまでと変わらず爺じゃが、確かに若返ったのじゃ!
腰も痛くない。
目もかすんで・・・・ない。
「光男さん。どうしたんかい? そんな驚いた顔をしてさぁ? あたしの顔に何かついとるとかね_?」
べっぴんの小春ばあちゃんの顔も良く見えるではないかいな。
「ワシは・・・ワシは・・・・ハタチに戻ったんじゃ~!」
ワシは軽やかに30年も前に退職した職場へかけて行った。
あの日、ワシと一緒にタヌキ神のお告げを聞いていたゲートボール仲間も皆、揃っていた。
考える事は、皆、同じなのじゃのう。
若返ったら一番したいことは、思いっきり働いて、いい汗流すことなんじゃのう。
たとえ、お昼の12時を回ったら、老婆にムチ打っても、こんな大木は動かせない身体に戻ったとしても・・・・じゃ。
遊ぶより、働くこと。
これこそ、我らの青春よ~!
真昼のシンデレラボーイズ。
90歳のお爺さんたちが元気に働いている姿を見かけたら、、、
それは、きっと、神様の仕業。
健康な魂と身体を授けてくれた神さまに感謝。(^-^)
その一方で、もしも、昼間に集団で座り込んでいる働き盛りの若者を見かけたら、、、
しかも、その現象が毎日おこったら、、、
逆の魔法をかけられたのかもしれない。
不幸なことに。
「1時だ。今から休憩室へ行って、しっかり一時間の食事休憩を取ろうか!」
「そうしておくれよ、光男爺ちゃん」
The end