2007年5月1日。メーデー。
し~~~んとしていた二階の本社や休憩室に人が戻って来た、と思ったら、ゴールデンも中休みなのだ。黄金の週の最中、売り場のあちらこちらで事件勃発てんやわんやの日々を現場のスタッフ達が過ごしてきたことは、恐らく本社の人たちは知るまい。
とても平和そうに、狸部長と仲間たち・・・男四人組は、休憩室のテーブルで御喋りに花を咲かせてた。
この日も事件は次々と起き、ハマグリ君が川石さんに、『店内で走り回る子供に何処まで注意したらいいのか?』と相談していた。
その直後、今度は康永君が血相変えて私の元へ走って来た。よくよく考えてみれば、私も小走りというか、店内を走っている事に康永君の姿を見ながら悟ったのであった・・・。 子供に注意する前に自分も・・・。反省。
「お酒コーナーのビンが割れたんですよ!」
「えっ!そうなの!?」
経緯は分からないが、とにかくビンが割れれば一大事!康永君は ほうきを取りにバックへ走った。
私と康永君の様子を見ていた桃木車副店長も、サッとやって来て、
「どうしたんですか?」
と心配そうに私の耳元で呟いた。
「お酒コーナーでビンが割れたんですって!」
桃木副店長は一目散にお酒コーナーへ跳んで行った。
私も、あとに続いた。
現場に着くと、レジのスタッフが割れたグラスを手に持ってオロオロ・・・。
私は、それを受け取ると、(危ないからいいですよ~と、彼女は遠慮していたんですけど・・・)一旦、バックへ。途中、ほうきと ちりとりを手にした康永君が店長室から出てきた。すれ違うように今度は私が店長室へドタバタと入室。
「お酒コーナーで割れたんです。ガラスは何処に捨てたらいいんでしょうか???」
『店長室=デスクワーク中』
私が入室した際は、デスクワーク中だった店長ですが、恐らく康永君に、ほうきとちりとりの場所を教え、やっと再び机に向かった直後だった筈・・・。
これでは店長も、落ち着いてデスクワークに集中出来ませんね・・・。
店長が椅子から立ち上がった時、桃木車副店長の店内放送が流れた。
「ビルサービスさん、ビルサービスさん、お酒コーナーまで!」
ゴールデン中は特に、ビルサービスさんも引っ張りだこで、この時期、『ぬか漬け屋』並みに商売繁盛している。即、酒コーナーまで来てくれるかどうか・・・。
「新聞紙か何かあれば、それに包んで捨てるんですけど・・・」
私がこういうと、店長はプリントアウトした紙をひっくり返してチェックした後、大量に手渡してくれた。それからスーパーの袋も。
「これに包んで捨てて。あとは、普通にゴミ箱に捨てていいから」
私が割れたグラスを紙とテープでぐるぐる@巻きにしていると、康永君がゼ~ゼ~しながら戻って来た。
「これ、無駄だった・・・です。(ほうき&ちりとり)ビルサービスさんが来たんですよ、すぐに」
それは良かった・・・でしょ?誰も怪我しなくて何より・・・ね。
売り場へ戻ると・・・。
ビルサービスさんが、ひょこひょこ歩きをしながら私に話しかけてきた。
「お昼休みへ行く途中に店内放送で呼び出されてねえ。パン一個しか、食べる時間なかったわ・・・」
「そっ、それは・・・たっ・・・大変でしたね・・・」
事情をよ~~く、知っている私は、一瞬、冷や汗をかいた。(すんまへんお食事の時間を奪ってしまいまして・・・)
時刻は5時。
あっという間に豆腐とパンの値引きの時間だ。
いつもは台車にテープと割引シールを乗せて、台車の上でシールを貼るのですが・・・。
無い・・・の。バックに台車が一台も!
なんと!すべての台車が 只今、バックから売り場へ出動中。
火災や地震発生時にすべての消防車と救急車が出回っているのと同じ状態じゃよ。
やはり、ここでもゴールデンの影響が・・・。
仕方なく、私は右手にセロテープ、左手には割引シール半額と二割引きを束ねて持ち、とぽとぽ歩き出した。
「あれ?どうしたんですか?」
と、ハマグリ君が聞くので、
「台車が無いの。台車が・・・一台も・・・」
「はははっ・・・!」
私、よほど面白い言い方したんだっけ?ハマグリ君は、とても可笑しそうに明るく笑った。
売り場へ出て行くと、パン売り場に居るカトちゃんの姿がちらっと見えた。パンの値引きは最近、高田さんが趣味としている。火曜日は、『パン三割引きセール開催日』なので、そんなに値引きは無い筈だ。
豆腐から始めよう、その内、高田さんが配達から戻ってくるし・・・と、豆腐売り場へ直行。
まず、セロテープの置き場所を売り切れ!で空いた棚に確保し、最初の値引き豆腐と向かい合ったその時・・・。
「鈴木さん、これ、使ってください。僕、もう終ったから」
びっ・・・びっくり~~~した・・・。
何がびっくりしたか・・・って、私がパン売り場から少し離れた通りを歩いていくのをカトちゃんは、ちらっと見ただけ。。。のはずなのに。
同じ日、桃木車副店長なんて、台車の上にゴミを積んで、
「よし!こうしておけば、誰も使わないよね~」
と言いつつ、一時間のお昼休憩へ向かったのである。
彼には何の悪気もないんだろうけど、(意外と子供っぽくて面白いじゃない?) この台車を狙っていた私。。。ぽっちい!ぽっちい!台車ぽっちい!は、愕然としちゃったのデス。
そんな訳で、突然、台車を持って目の前に現れたカトちゃんに、心底びっくりした。
「貴方は本当に若干二十歳ですか?!?!?」
と私が問いたくなるのは、こういう時だ。
私の悪い癖で、日本へ帰国後、特に感動しすぎると、肝心のお礼やご挨拶をまともに言えずに終る。
「台車、ありがとうございました!」
値引きを終え、バックへ戻ると、何故だか、ハマグリ君が私を見て笑い出した。
「あれ?台車、途中で見つかったんですか?」
なんだ、そんな事、覚えてたの??凄いのね・・・。
私が台車を探しながらも見つけられずに、諦めて売り場へ向かった事を このゴールデンで色々な珍事に振り回され、超多忙な中、人ごとなのに、ちゃんと覚えてくれていたことに、まず、驚く。
だって、値引きをする為に台車が無いくらい、ちっぽけな悩みだもん。
「ああ、この台車ね、カト君がくれたの」
私が、そういうと、何とハマグリ君、
「わっはっはっ~~~」
一人で幸せそうに大笑い。
「・・・・・」
そんなに可笑しい??・・・かなあ?
繊細で、温かくて、気が利く優しいスタッフたちに囲まれて・・・。
私、幸せです。
二階では、狸部長と仲間たちが談笑を続けていた。
お陰様で、とあるスーパーのゴールデンは鈴木鈴子にとって思い出深き黄金の週とあいなりました!
坦々麺の神様に感謝デス。