「南くん、居るぅ~?」
バックの奥から現れたのは、人事の渡部課長。どうやら、鈴木すず子の面接を終えて、ここへ来たようだ。俺は、本日、休みの修ちゃん店長に代わり、面接の内容について、報告を受けた。
「結果は数日後、連絡することにしているから。残念ながら断る時は、履歴書を郵送します、と本人には伝えておいたよ。ここに履歴書のコピーがあるから、店長に渡してくれ」
俺は、履歴書に目を通しながら、さっき会った女史を思い浮かべた。
年齢・・・? ん? 俺より年上?
「それで・・・・働くとしたら、いつから働けるのですか?」
グロッサリーに配属になると聞き、俺は一番気になることを課長に尋ねた。
「それがだねぇ。明日からでも構いませんが、いつから働けますか? と、やる気を問うつもりで質問したのだが、一週間後!というではないか。」
「いっ・・・・一週間後・・・・ですかっ・・・・。それはっ・・・・面接だけ受けて、来ませんよという意思表示かも・・・・ですかね?」
俺は、ちょっと考えつつ、課長に呟いた。これまでスーパーの臨時雇用の面接に来た人は、殆ど、明日から働けます、いや、たった今から!と言うものだ。一週間? 旅行の予定でもあるのだろーか?
俺が悩んでいると、渡部課長は実はだねぇ・・・と、声を潜めた。
「これだけじゃないんだよ。南くん。働けない日はありますか?と尋ねたところ、何と答えが返ってきたと思うかね?」
「もし、子持ちの主婦なら、子供が休みの土日は家に居たいので、働けませんとか・・・そういうことですか?」
俺は、いたって妥当な答えしか浮かばなかった。まさか、彼氏とデートの日で~しゅ!なんて答えではないだろう。
「驚きすぎて、腰を抜かさないように・・・この前、お米を積んでいて、「末永さん・・・・ちょっと来て。俺、ぎっくり腰になったみたいだから、誰か呼んできて!」と二階の整骨院に運ばれた時の二の舞はよしておくれよ・・・」
課長は、そういうと、再び俺の耳元で囁いた。
「ホークスの応援をするために、福岡ドームへ行く日は、働けません・・・って言うんだよ。これ、どう思うかね?」
「は?」
俺は、「は?」
の後が、続かなかった。
は? の次は、「ひ」だろう。
その次は、「ふ」だ。ちなみに、ふ、はお吸い物に入れると美味しい。乾物担当の俺が言うのだから、間違いはない!
更に次は「へ」だ。しかし、俺は、へなどふってはいない。
「ほー」
遂に俺は、「ほー」と発するのが やっとであった。
ほぉ~!
呆れたというか、何というか・・・
「そっ・・・それで・・・・課長は何と答えたのですか?」
俺は興味本位で聞いてみた。いや、本当は、答えを聞くのが恐ろしくて 足がガクガク・・・というのは、ちと、大袈裟だが。
「僕も 同席した藤本くんも
そっ・・・・それは・・・・
店長に言って下さいっ!」
と、答えるのが、やっとだったよぉ~。いや~参ったな」
「課長・・・もしかして、一瞬、固まりましたか?」
「あぁ・・・ まぁ、とにかくだな。働けるのは、どっちにしても、一週間後らしいから、南くん。ここは、ゆっくりと考えてみたまえ。教育マニュアルは、しっかりしていますから、大丈夫です、と本人には伝えてあるから。あとは現場が どう判断するかだねぇ」
履歴書を残し、俺の元を課長は去っていく・・・。
俺は手元に残った履歴書のコピーを見た。
何なに?
オーストラリアに留学? オーストラリアのシドニーにあるスーパーで働いていた??
オーストラリアといえば、カンガルーの国か。
シドニーといえば、オリンピックも開催された国際都市。
ふと、俺の脳裏には、シドニーの街中をカンガルーが跳ねている姿が浮かんだ。
これが、運命というものだろう。
俺は、どうしても、日本の街で、
「あっ! 馬だ!」
と、馬を見かける頻度と、
シドニーの街で、
「あっ! カンガルーだ!(写真はメルボルンのフェアリーペンギン)」
と、カンガルーを見かける頻度は同じくらいか、確かめたくなったのだ!
ど~しても!だっ。
そこで、悩んだ挙句、俺は鈴木すず子を現場へ迎える意思を課長に伝えた・・・? (この辺りはフィクションだね~ 誰が、どのように採用決定したかは、不明だもん。真相は、し~らないっと By すず)
課長の部下、藤本さんが、鈴木すず子の自宅へ電話連絡をし、後日、改めて俺が詳しい勤務時間などについて、連絡を入れる、ということになった。
さてっと・・・・。
数日後。
俺は電話の前で深呼吸をした。
今から泣く子も黙る、いや、固まる鈴木すず子へ電話をするのだ。
決戦は、金曜日~だぜ。
実はドリカムファンの・・・
ミナミ