俺、ミナミ。
とあるスーパー勤続25年、最年少で店長昇格後、現在はエグゼクティブマネジャーとして日々、部下の指導にあたっている。
年末のスーパーマーケットといえば、入荷商品がピークに達し、お客様もイノシシのように殺気立つ時期だ。
エグゼクティブとはいえ、身体がなまってはいかんので俺も現場に顔を出し、年末商品の荷出しを手伝っている。特に「こんにゃく」の動向に目を光らせる点は今も昔も変わりはしない。
そんな中、俺はかつての上司、たぬき部長から
「是非ともミナミくんに引き受けて欲しい」
と仕事の依頼を受けたのだ。
受話器の向こう側から、たぬき部長のうわずった声が聴こえてきた。
「以前、ミナミくんの部下だった鈴木すず子くんを覚えているかね?」
鈴木すず子…。
その名を聞き、俺は無意識の内に身構えた。
確かホークスはリーグ優勝は逃したものの、日本一には輝いた筈。
シーズンオフ、という今の時期、すず子とホークスと「とあるスーパーさくら」を結び付ける物は何もない筈だ。
落ち着け、俺
「はい。覚えています。彼女が何か…」
やらかしたのですか?と言いそうになったが慌てて言葉を飲み込んだ。
ごっ…く…ん…。
「取材じゃよ。以前、彼女が書籍を出版したことは覚えているかね?」
出版…? 『とある街のとあるスーパー物語』と続編の『俺ミナミ、副店長は辛いのよぉ』だよな。勿論、覚えている。いつの間にか嫁があの本を読んでいて、そればかりか、当時ひよこ組の園児だった娘からも、
「パパ、バレンタインの日なのに、チロルチョコ1個しか貰えなかったんだね…」と同情の目を向けられたものだ。
「ロッテのガムを持っている!」
と宣言した西岡は🐯虎へ移籍したのち、現役引退だよな。ハンカチ王子はクビかと思ったら、日ハムファンのカトちゃん綾ちゃん夫妻によれば、「客寄せパンダだから。栗山監督が責任感じて、かろうじて現役続行」らしい。時は流れたものだ。俺の意識が遥か遠くへ飛んでいた、まさにその時、再び たぬき部長の声がした。
「NHK72時間という番組を観たことがあるかね? ニュースブリッジ北九州の枠内で、角打ちヨッシーでも取り上げられることがある、あの北九文化をミナミくんに取材してきて欲しいのじゃよ。ついでに 「きたきゅうで食べるもんじゃ焼き」レポも頼む!」
また急に
なんで?(Why?)
俺が?(me?)
普段は冴え切った俺の頭脳も、この時ばかりは疑問符だらけ…
部長には相当噛みついたが、
「最後に重大発表があるから、この任務はミナミくんにしか任せられないということじゃよ。頼む‼」
と、部長に泣きつかれ、俺も腹をくくった次第である。
しかし。
角打ちと もんじゃ焼きと 鈴木すず子に 一体、何の因果関係が…?
「とにかく現地へ行けば分かる!」と部長に背中を押され、クリスマスイブイブの日、俺は小倉駅裏へ向かったのだった…。
続く… (このお話は、一部を除きフィクションでーす by Suzu)