日本シリーズは“パ式”対決だった。力負けのヤクルトが選ぶべき道は? (←元記事)
61勝44敗。
この勝ち負けの数字が何かと言えば、今季の交流戦をパ・リーグ側から見た成績である。
17の勝ち越しという圧倒的な数字に、今の両リーグの力の差が表されている。実力のパは、もはや誰も否定できない、いまの日本のプロ野球のまぎれもない現実なのである。
そう考えれば今年の日本シリーズの結果も、しごく当たり前のものとして受け入れることができるだろう。
4勝1敗。
この数字以上の圧倒的なチーム力の差を見せつけて、ソフトバンクがヤクルトを退けた。2年連続日本一の栄冠を手にしたが、このチーム力ならまだまだ黄金時代があと数年は続くことを予感させる圧勝劇だった。
「選手が1戦、1戦を大事に、絶対に負けないんだという気持ちを出してくれた。本当に幸せです」
優勝監督インタビュー。選手の手で9度、神宮の空に舞ったソフトバンクの工藤公康監督が目を潤ませてこう語った。
3度の無死二塁で、バントは一度もなし。
言葉通りこのシリーズでの工藤采配は、まさに選手を信頼し、個の力を前面に押し出すものだった。その力の野球で、ヤクルトを圧倒しのだ。
日本一に王手をかけた第5戦も、先発のスタンリッジがヤクルト打線を抑え込み、4回に李大浩の2ランで先制すると、5回にも先頭の今宮健太が二塁打から明石健志の適時打などで2点の追加点を奪う。あとは自慢の中継ぎ、リリーフ陣を繰り出してツケ入るスキも与えず完勝した試合内容だった。
象徴的なのは、この試合で3度あった無死二塁のシチュエーションでの采配である。
1回は川島慶三が左中間に二塁打で、4回には明石が左翼線に、そして5回に今宮、と無死から3度作ったチャンスで、工藤監督は1度もバントのサインを出していない。
1点よりも、大量得点を狙うスタイル。
無死二塁なら、次に1死三塁というシチュエーションを作りにいくのがいまのセ・リーグの野球の主流である。この試合なら、クリーンアップに回る4回以外はバントで送るか、少なくとも右打ちを徹底して走者を三塁に進め、犠飛や内野ゴロの間に1点を奪う。そういう1点ずつを積み重ねる作戦が、セ・リーグでは当たり前のように選択される。
ところが無死二塁でもソフトバンクの打者は右打ちのそぶりも見せずに強振を繰り返す。3つのアウトに間に適時打が、あわよくば本塁打が飛び出て2点、3点を奪うチャンスに膨らむことを目指す。そのチャンスに賭けるのがパ・リーグの、ソフトバンクの野球なのである。
そうしてこのひたすら前に進む野球を支えているのが、投打にわたる圧倒的な戦力だった。
このシリーズでは4番の内川聖一を骨折で開幕直前に欠き、打線の軸の柳田悠岐の調子ももう一つ上がってこなかった。それでも第1戦では5番の松田宣浩が先制本塁打を放ち、2戦目以降は内川の代役4番に座った李が2発8打点の活躍を見せてチームを引っ張った。
投げても、開幕を託された4年目の武田翔太が完投勝ちを収めると、2戦目にはバンデンハークと抑えのエースのサファテで強力ヤクルト打線を完封。4、5戦も攝津正、スタンリッジという先発陣が力を出し切った。こういう個の突出した力があるからこそ、前に進み続ける野球が日本一へ開花していったとも言えるわけだ。
ヤクルトも個の存在感のあるチームだったが……。
ただヤクルトも、セ・リーグの中では最もパ・リーグに近い野球をするチームだったということができるかもしれない。
トリプルスリーで本塁打王と盗塁王に輝いた山田哲人に、首位打者の川端慎吾、打点王と畠山和洋とリーグで突出した個の存在感を持つチームだった。真中監督の采配もパ・リーグ的で、送りバントより自由に打たせるスタイルでチャンスを広げ、選手の力を引き出し、前年最下位からのリーグ制覇という快挙につなげていったわけである。
そのヤクルトの力が出たのが第3戦だった。
山田がシリーズ史上初となる1試合3本塁打を放ち、その力でソフトバンクの勢いを押し返して勝利をもぎ取った。ただトータルで見れば、ヤクルトが同じ戦いをしていたのでは、本家・ソフトバンクにかなう道理はやはりなかったということかもしれない。
山田「ソフトバンクが強すぎます」
「本当に圧倒された感じ。(ソフトバンクは)素晴らしいチームでした」
工藤監督の胴上げは、あえてベンチ裏に引っ込んで見なかったという真中監督がシリーズをこう振り返った。
「ここという場面や試合は思い浮かばないですね。ただあえて言うなら1、2戦のソフトバンクの投手力に圧倒されたというのはあります」
シリーズを振り返って勝負の分かれ目はどこにあったのか、と聞かれると、少し首を傾げて絞り出すようにこう語るに止まった。
頼みの打線が、武田とバンデンハークに手も足もでないほどに封じ込められた。自慢の個が抑え込まれてしまえば勝てない。そのことをいきなり突きつけられて、実はこの2敗でシリーズの行方はみえたようなものだった。
「日本一になりたかったけど、ソフトバンクが強すぎます。(第3戦で)3本塁打したけど、1日だけ打っても意味がない。コンスタントに毎日打てるようにならないと」
ソフトバンクの胴上げを一塁ベンチから見た山田はこう唇を噛んだ。
交流戦に続いて、セ・リーグのチームはこの日本シリーズでも完敗したのである。
ヤクルトの道はスケールアップか、緻密さか。
この戦いで感じたソフトバンクとの大きな差を埋めるために、ヤクルトは何をすべきなのか?
1つは来年1年間をかけて個の力をさらにスケールアップして、力でねじ伏せるチームを作るという方法がある。そしてもう一つはパ・リーグ的な前に進む野球だけではなく、セ・リーグ的な緻密で細かな野球も取り入れながら、チームとしてのスキルアップを図っていくという方法だ。
勝つためにどの道を選択するのか。2年目の真中監督に課せられた、それが最大のテーマである。
文=鷲田康
ホークス優勝、V2おめでとうございます!!超多忙なため、心に残る記事を全文そのまま ここに残させていただきます。