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日々のあれこれ

現在は仕事に関わること以外の日々の「あれこれ」を綴っております♪
ここ数年は 主に楽器演奏🎹🎻🎸と読書📚

ブログのお引越し先について

2025-04-19 23:49:16 | Weblog

こちらへ引っ越し中です…

 

すずさんのプロフィール - はてな

こちら↓ ブログ記事

suzumayou’s diary

 

不定期更新となりますが、今後ともよろしくお願いいたします。

gooブログは書きやすく、読みやすく、使い勝手がよく気に入っていたので、本当に残念でなりません。

これまでのアクセス数の記録も… 消えてしまう訳で…

 

皆様は、今後、どうされるのでしょう。

以前、ホームページが消えてしまい、残念だったこともありました。gooのブログを持っていたので、あの時は掲示板が消えてしまい、残念ではあったものの、ココがあるから…と安心していたけれど。

 

アメーバブログはすでに持っており、はてなブログはお初です。

コメントも移行できるということで、こちらを選びました。(アメーバの方は、コメントは移行出来ないらしいので💦)

本日は、ここまで…

 

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作品NO.421~424 作曲:すず【真昼のシンデレラボーイズ】その後… (約20年の時を得て、続編を書きました🖊)#エレクトーン演奏 #オリジナル曲 #小説 #スーパーマーケット

2025-04-17 23:43:32 | Electone & Piano

作品NO.421~424 作曲:すず【真昼のシンデレラボーイズ】その後… (約20年の時を得て、続編を書きました🖊)#エレクトーン演奏 #オリジナル曲 #小説 #スーパーマーケット

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ヴァイオリン音階練習 初めてのフラット♭ ト短調

2025-04-13 23:21:03 | ヴァイオリン🎻

ヴァイオリン音階練習 初めてのフラット♭ ト短調

ピアノの初心者は、ハ長調から始めますが、(すべて白鍵盤だから) バイオリンは♯曲から初心者は始めます、で!今回、初めて♭の音階です。 普通のト短調は、自然短調と呼ばれ(ているそうです)、楽譜通り、ミとシの2音に♭が付きますよね。 今回は、【旋律的短調】と呼ばれると短調で、上り⇧と下り⇩では、ち・が・う! 以下、ネットで検索調べ: 『旋律的短調では上昇する際に6番目(Eb)と7番目(F)の音が半音上がりますが、下降する場合は自然短調の形に戻ることが一般的です。上昇時の音階は以下の通りです: G (ト) - A (イ) - Bb (変ロ) - C (ハ) - D (ニ) - E (ホ) - F# (嬰ヘ) - G (ト)下降時は自然短調に戻ります』 …と、いうことは、ソラシドレミファ♯ソ ⇧ (ミに♭は付かない。だが、ファに♯が付く→これ、不思議だけど💦 👂には自然に聞こえる) 下りは元の自然短調に戻るので: ソファミ♭レドシ♭ラソ ⇩ (楽譜通り、ミとシに♭がつく) 上昇時は明るい雰囲気で、下る時は、哀しい雰囲気になるのね。 …それより手の押さえる位置を探りながらの音階練習二日目です。(昨日、初めてやってみて、今日は二日目の練習) 今回は、曲の宿題はありません🙂 左手の音階に気を取られ、弓を持つ右手が滅茶滅茶になりがちなので注意ですが… 一度に色々考えられず… 取り合えず記録として動画にしました✋ 聞くのは非常に🙏😭退屈でしょうから、スルーでOKです😅👌

 

Symphonic Poem The Moldau Day 1

 

 

 

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桜🌸プレミア橘ドゥビアン&すず

2025-04-13 10:11:29 | Weblog

桜🌸プレミア橘ドゥビアン&すず

それは…この世で恐らく最も、”あじけない” キス、の一つだったと思う。

恋の”相談相手”から、”恋人”へと、”昇格”、したばかりの彼から受けた、初めてのキスだった。

 桜並木を二人で歩く。例年より遅く満開になった桜は、この一週間、私たちの五感を楽しませたのち、風が吹くたびに、さらさらと舞った。桜吹雪だ。隣にいた新しい恋人が、思いもしないタイミングで…あくまでも自分にとっての…ってことだけどね、自分にキスをする。これがもしも、映画のワンシーンだとしたら、最高のセッティングの筈。だけど、何の”トキメキ”もない。有るのは、ある種の虚しさと、違和感だけだった。どうして、この人なのだろう。何故、あの人じゃないの? そんな、やりきれなさで、心はいっぱいになる。

「道代さん、桜って綺麗だね。…でも、何か気がかりなことある?最近、元気がないような気がして…。」
「ううん、大丈夫よ。でも、なんか…自分でもよく分からないの。ごめんね。」

 誠実、真面目、言葉少な、メールの返信はきっちり。一度も待たされたことはない。だけど短文。「これだけ?たったの一行?」正直、物足りない。気まぐれな時間帯に、気まぐれな頻度で送られてくる…だけど100回は読み返す元カレからのメールとは、明らかに違っていた。こうして実際に会っても、会話が弾まない。何故だろう。元カレのことで相談に乗ってもらっていた時期は、この人と一緒にいると、心が落ち着くと思っていたのに。だから付き合うことにしたのではなかったのか。二人でゆっくりと桜並木を歩きながら、自問自答する。周囲は家族連れの他、カップルたちで混雑していた。皆、幸せそうに笑う。私がこの桜並木を家族以外の人と一緒に歩くのは初めてだった。元カレとは… もっと静かな河川敷に咲く桜を二人っきりで眺めたものだ。知る人ぞ知る、桜の隠れ名所で、周囲には誰も居なかったものだ。まさに、二人の世界だったっけ…。あ、いけない、いけない、さっきから、私ったら、元カレのことばかりが浮かぶ。元カレへの想いは断ち切る!そう決心し、今の退屈な...いや、穏やかな性格の彼と付き合い始めたのではないか!

「僕は男だから分かる。きっと他にもいるよ…」

申し訳なさそうに、彼は言う。誰が?なんて聞かない。そう…かもしれない。時々、急に声が聴きたくなって夜中に電話をすると、眠っていた風ではないのに、物凄く不機嫌で迷惑そうにガチャン!と切られたことが数回はある。電話の向こうに彼以外の”誰か”の気配を感じ取ったものだ。

「あんな二股野郎!こっちから捨ててやる!」

こうして、相談相手が今の彼、新しい恋人となったのだった。だけど…

「道代さん、これから、どうする? この先にカフェがあるよ。行って見ようか…?」

あっけないキスのあと、何となくきまづくなったことを気にしているのだと思う。道代さん…か。恋人になっても呼び方は友人時代と変わらない。私を気遣う優しい笑顔だった。だけど、その笑顔に微笑み返す自信が今は無かった。なんだか心の中で、彼を裏切っているようで。どうして、こんなに静かに微笑む人が、私を安心させてくれないんだろう。ケンなら、こんな風に静かじゃない。いつも笑って、冗談ばっかりで、騒がしくて…。それでも、彼といると、私の心はずっと動いていたのに。

「あの…ごめん!用事を思い出しちゃった!悪いけど、先に帰って。私は独りで行くところがあるから!」

私は彼が言い終わらない内に急いで喋ると、回れ右をして走り出していた。彼は追ってはこない。そういう人のだ。私が独りになりたがっていると悟ったのだと思う。そういう時は、そっとしておいてくれる優しさが、今は特に、とても有難かった。

 「来年も、再来年も、お互い爺ちゃん婆ちゃんになってもさ、この喫茶店から桜を見ようぜ!オレ、きっとミッチの運命の人だと思うんだよね」

元カレ…ケンは、あの時、そう言った。彼は私の運命の人だと。運命だなんて、気安く言葉に出来るケンのことを最初はお調子者だなって思った。実際、お調子者には違いないのだけど。敢えて、ケンと自分の秘密のお花見の場所ではない、大通りの桜並木を初デートの場所に選んだのには、訳がある。 過去の人との思い出の場所に、新たな人との記憶を刻みたくはなかったのだ。

「ミッチ、桜ってさ、毎年見ても飽きないよな。オレ、ミッチとこの場所で桜を見れるなら、来年も再来年もずっと見たいって思うよ。ミッチはオレを飽きさせないからさ」
「ほんとに?ケン、飽きっぽいくせに、そんなこと言って…。」

 元カレとの思い出が蘇る。私は河川敷へと足早に急いだ。もしかしたら、あの場所に、元カレがいるかもしれない。もし、いたのなら…自分の居場所は…

 だけど… ケンと二人で見た桜は切り倒され、あの店も無くなっていた。彼と歩いた場所が… 一緒に眺めた桜並木が…じゃれ合いながら、コーヒーを飲んだ場所が… もはや、跡形もなくなっていたのだ。

 彼と歩いた道のり… 想い出の場所…

気持ちの整理もつかないまま、ただ、呆然と、その場に立ち尽くしていた…。

まだ、答えが出ないまま…。

 

 

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季節の予感第5回 純、ケン、ジュリィ

2025-04-06 15:43:10 | ショート ショート

 小説:著者&BGM作曲:すず 季節の予感作品NO 401【外は雨、】作品NO 402【季節の予感】作品NO 403【ぬけがけ】作品NO 404【お話しよう】

 

翌朝、晴れたらカブトムシを取りに行こうとケンとジュリィは約束を交わしていたが、あいにくの雨だった。前日の大冒険が理由かなぁ。僕はちょっと眠くて、いつもなら一番に起きるんだけど、まるで音楽のように聴こえる雨音を聴きながら、布団の中でうつらうつらしていた。雨が降ると、森のコケの匂いがつーんとしてくる。なんだか深い森の緑を凝縮したようで、僕が好きな香りだった。その時、二階の僕の部屋へのぼって来る、聴き慣れたトントンと軽い足音がしてきた。お母さんだ! お母さんはいつもより勢いよくドアを開けると、ベットに寝転がっていた僕を覗き込んだ。

「今朝は遅いのねぇ。ケンくんと新しいお友達も遊びに来てるわよ。純は起きなくていいの?」

ケンと新しい友達って…ジュリィだ! 僕は、がばっと布団を蹴とばすように勢い良く起き上がると叫んだ。

「何で? 晴れてないのにケンが? ジュリィも? カブトムシは中止だろ⁉」

あら、知らなかったの?と、お母さんは僕が蹴とばした布団をたたみながら言う。

「ケンくんの話だと、もし雨が降ったら、一緒に絵本を読もうって約束していたらしいわよ。てっきり純も…」

僕は慌ててパジャマからTシャツに着替えると、お母さんの話を最後まで聞き終わらない内に、階段をドタバタと駆け下りた。二人はリビングにいるようだ。キャっきゃと笑い声がする。僕は馬より早く二人の声がした方へ駆けていくと、リビングのドアを開けた。

あまりに勢いよく登場した僕を見て、二人とも急に黙った。テーブルには、数冊の本が置いてある。どれを読もうか選ぼうとしていたのか、それとも、すでに数冊一緒に読んだのか…。

「おはよう、ジュンくん」

最初に口を開いたのは、昨日、森で会ったばかりのジュリィだった。僕の名前、ちゃんと覚えてくれていたのが嬉しかった。いや、それよりも…

「おはよう、ジュリィ」

僕はジュリィに笑顔で挨拶する。そして…軍隊のような速さでケンの方へ身体を向けた。

「おい!ケン!ずるいぞ!こんなの、抜け駆けだぞ!」

僕の剣幕に、ケンは多少、おののいたようだった。ぬけがけ…?と、言葉の意味を知っているのか、知らないのか、ボケた顔を向けた。

「そうだよ! ぬけがけ、だよ! 雨の日に会う約束なんか、僕がいる前でしなかったじゃないか!」

あぁ、そのことかぁ、という顔をしたケンは、余裕たっぷり言い返した。

「ちゃんと、ジュンがいるところで話したよ。家へ戻ってからの純は、なんだか、ぼーっとしていて、僕の話、ちゃんと聞いてなかったんじゃない? なぁ、ジュリィ」

急に話を振られたジュリィは、戸惑ったように頷いた。「そ…そうね」と。

交互に僕とケンをじっと見ている。

「それでも、ぬけがけは、ぬけがけだ! 男らしくないぞ、ケン!」

そこへ2階から降りて来た、お母さんが僕らの話を聴いていたのか、割って入って来た。

「ジュン、さっき、 ぬけがけ、って言っていたけど…どこで覚えたの?そんな言葉…」

「そりゃぁ、お母さんの小説だよ!」と、答えながら僕はしまった!と心の中で悔やんだ。そうだった、あの本は、「12歳になるまで、まだ早い本棚」に並んでいたヤツだ! 僕がこっそり読んでることがバレたぁ…。うかつだった。つい、ケンのぬけがけにカチンときちゃって。

お母さんは何も言わず、僕の顔をじーっと見ている。あぁ、この観察が嫌だ。何もかもお見通しなんだから、参ってしまう。

「分かってると思うけど…」

お母さんは、それだけ言うと、言葉を切った。僕はこくんと頷く。はい、ごめんなさい。つい、読むなと言われると、‘’余計に興味の虫がうずきだす‘’ってやつで…この表現も、お母さんの本から覚えたんだけど…

「読んじゃダメって言われると、ついつい読みたくなっちゃって」読んでしまった。つい、隠れて読んじゃった。ちょっと背伸びした気分で、大人の話を知った気になったっていうか。その… つまり、ケンがやったことは、「ぬけがけ」な訳だ。

「三人で、仲良くね」

お母さんはそれだけ言うと、部屋を出ていった。10分も経たない内に、レモンティーとクッキーを持ってきてくれた。

「わーい!ジュリーおばさんのクッキーは最高なんだよ!」

すかさずケンが言う。調子のいい奴だなぁ。森では臆病なのに。こういう時は上手くリードしちゃってさ。僕は舌打ちしつつも、真っ先にクッキーに手を伸ばした。

「いっただきまーす!君も食べなよ!全部、ケンのやつが食べてしまわない内にさ!」

僕がこういうと、ジュリィは僕とケンの顔をかわるがわる見つつ、ちょっと遠慮がちにクッキーに手を伸ばす。まあるく焼き上げたクッキーをしばらく大切そうに眺めたあと、一口食べて、しばらくもぐもぐしていたのち、「おいしい!」と喜んだ。

「だろ? そうなんだよ。お母さんの満月クッキーサイコーなんだ!」

「うんうん、確かにおばさんのクッキーは上手い!」

ケンも言う。取り合えず、ここは休戦ってことで、ちょっぴり大人な僕は機嫌を直すことにした。来月でもう、8歳だしなぁ。あと一週間で僕は8歳になる。

「なぁ、ジュンの誕生日にパーティーするんだけど、君も来るよね?」

ケンが僕の顔を見ながら、すまして言う。ケンの提案に、ジュリィはすぐ首を縦に振る。

「えぇ、勿論、いいの? まだ知り合ったばかりなのに…おかあさまは何て…?」

分別ある子だ。いいぞ! 僕は心の中でジュリはやっぱり僕の運命の子かもしれないなぁと思う。日本では、僕の誕生日は七夕だ。彦星が僕で、ジュリィが織姫だといいなぁ。いや、待てよ。年に一度しか会えないんじゃなぁ。だけど、サマーキャンプが終われば、どっちみち、会えないな。やっぱり年に一度ってことか。まさに七夕だ! 僕らは森の小川で出会った。まるで、天の川だ!

その日は代わるがわる、お互いの好きな絵本を読み比べて一日が過ぎていった。七夕の日は、僕が代表で一冊、本を読むと約束をし、その日はお開きになった。

外はまだ、優しい雨がぽつり、ぽつりとリズムよく降っていた。

 

つづく

 

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【季節の予感 第2回】BGM(過去にも同じ曲を使用)聴きながら、概要欄の小説をお読みください🖊#小説 #エレクトーン演奏 #オリジナル曲 #天使の賛歌

2025-04-06 15:41:46 | Weblog

【季節の予感 第2回】BGM(過去にも同じ曲を使用)聴きながら、概要欄の小説をお読みください🖊#小説 #エレクトーン演奏 #オリジナル曲 #天使の賛歌

 

「誰かぁ、助けて!あの子たちを…」

その声に導かれるように、僕たちは駆け出した。季節が移ろうように、僕らも変わるために。

さっきより、よりはっきりと聴こえる女の子の声。僕らからそんなに遠くはない場所にいるようだ。僕は声がした方へ更にフルスピードで走りだす。途端に、ケンの声が後ろから追いかけてくる。

「ジュン! 僕を置いて行くなよぉ」

振り返ると、ケンは、はぁはぁと肩で息をしている。

「しょうがないなぁ」

と僕は言うと、ケンの手を掴んだ。

「行くぞ、ケン! ヒーローになるんだろ?」

ケンの顔が少し赤くなった。こくり、と頷くと、僕の手を握り返した。

二人で小川の方へ急ぐ。風に乗って川から吹いてくる新緑の青草さが、僕たちの足元に広がった。急斜面になっているので、転がり落ちないように気を付けながら。湿り気を含んだ土の感触が靴越しに伝わる。

「ケン!滑らないように気を付けるんだ」

「うん!」

はやる気持ちと連動するかのように、森の木々がざわざわと音を立てる。木漏れ日が斜面に落ち、風に揺れる木々が影絵のように踊る。ざわざわと揺れる木々の音が、まるで僕たちを急かしているようだった。だが、ここは慎重に!と僕は自分に言い聞かせる。そこを抜ければ小川だ。僕らの目に真っ先に飛び込んできたのは、大きな岩に引っかかったままのイカダと、その上でミャーミャー鳴く子猫立ちの姿。心配そうに見守る、僕らとおない齢くらいの女の子の後ろ姿だった。小さな肩の震えが遠目にも分かる。今は流されずに岩に引っかかったままだが、時間の経過とともに下流へ流れ出すだろう。

 その時、女の子が、

「誰か…」

と、か細い声で呟いた。さっき、耳にした声だ。僕らが駆け寄る足音に気付いた女の子が、ゆっくりと振り返る。涙で潤んだ黒い瞳。日本人だ! こんな森の奥に日本人の女の子が⁉ そういえば、助けて、って声は… 言葉は… 確かに日本語だったではないか! 今頃になって気付くなんて。

「君、日本人なの?」

僕よりケンの方が先に声を掛けていた。女の子は、こくり、と頷く。

「子猫の内、一番元気な子がイカダに飛び乗って... 後を追うように、他の3匹も! するとロープがほどけてイカダが流れ出したのよ。あの岩で止まっているけれど、どうしたら助けられるか分からなくて…」

途方にくれていたんだな。そうしたら、僕らの話し声が聴こえたってことか。僕は冷静に状況を判断した。

「どっちにしろ、このままでは、いずれ川の水の勢いでイカダも再び流れ出すだろうから。ケン!僕らは下流へ先回りしよう。川幅が狭くなるところがあるんだ。そこは浅いし、水も僕の足首くらいしかない。きっと大丈夫だよ」

心配そうな二人の顔を見ながら僕は自信気に言う。大丈夫だ。この川で過去に何人か溺れている。そこで、大人達が一部の川を埋め立てていた。そのまま海へ流れていかないように、川の流れも二手に分けたと聞いている。

「ケン、行くぞ!」

僕は女の子を気にしているケンの腕を強引に引っ張ると、一緒に小川に沿って走り始めた。目的地へ辿り着くと、僕はケンに言った。

「いいか、ケン。イカダが流れてきたら、まずは飛び乗るぞ!そうしたら、子猫たちを捕まえるんだ」

そんな、上手く行くかなぁ、僕はここにいるよ、と不安気なケンを励ますと、僕は靴と靴下を脱ぎ棄て、ぽちゃぽちゃと川の中へ入っていく。やはり足首までしかない。これなら転んでも大丈夫だな。大人たちが張ってある網もしっかり結ばれていることを確認した僕は、その場で待ち構えていた。すると、昔、お母さんが読んでくれた【桃太郎】の桃のように、イカダも、どんぶらこ~どんぶらこ~と流れて来たではないか! 僕の心は飛び跳ねた。思ったより、ずっと、ゆっくりと流れて来たからだ。 桃から生まれた桃太郎、じゃなくて、イカダに乗った猫太郎たちよ、今、僕が助けてやるからな!と心の中で話しかけるくらい余裕があったのだ。

ゆっくりと流れるイカダの上では、相変わらず子猫たちがミャーミャーと、鳴き声を上げては、小さな四つの足を踏ん張っている様子が見えた。その子猫たちを横目に見ながら、あの女の子も川に沿って、こちらへ歩いて来る。

「あと10秒… あと5秒くらいだ…」

僕はイカダに飛び乗るタイミングを計った。

「今だ!」

僕がイカダに飛び乗ると、ぐらぐらとイカダが大揺れした。ひゃぁ~という声が僕の耳にも届く。揺れが収まるのを待ち、僕は子猫たちをシャベルカーのように急いでかき集めると、イカダから飛び降りた。ボチャン、と鈍い音がして、僕は子猫を両腕に抱えたまま、川の中で尻もちをついた。すべては一瞬の出来事だった。

「やったぁ!」

「やったわ!」

岸辺にいた二人の声が重なって聴こえて来た時、僕はこれまでの人生で二番目に感動していた。何故、一番じゃないのかって? それは、今から一年前、【天使の賛歌】のお話をママから聞いた、あの夜が一番だからだ。

ケンは水が怖い筈なのに、いつの間にか靴を脱いで、必死な表情を顔に浮かべながら、川の中へ入って来た。あの女の子も一緒だ。

「大丈夫だから、そこにいなよ!」

僕は叫ぶと、二人と川岸で合流した。ケンが誇らしげに僕の手から二匹の子猫を受け取る。感動の瞬間だ。僕の腕の中で元気に動く残り二匹の子猫を女の子に手渡すと、僕は心底ほっとした。本物のヒーローになった気分だなぁ。本の読みすぎってことはないよな。

「ありがとう、この子たちを助けてくれて。一人で何も出来ずにオロオロしているだけで、とっても怖かったの」

女の子がほっとしたように微笑む。でへへ、と僕は照れ笑いし、ケンもつられたように、でへへ、と笑う。その直後、お腹の虫が、ぐぅ~っと鳴いた。

太陽は僕らの真上で笑っていた。まるで物語の中で知る、僕のジュリーのように。

「お昼だ。腹の虫も鳴いてるし、行こうか!」

「うん!」

「えぇ!」

僕ら三人には、すでに同志のような絆がこの瞬間に生まれていたように思う。

「そういえば、まだ、名前も聞いていなかったな」

最も大切なことを思い出したように僕は言う。

「ジュリよ」

一瞬、僕は棒立ちになったまま動けなくなった。

「なっ、なんだよ、ジュン! 急に立ち止まるなよ! 危ないじゃないか!」

ケンが抗議したが、それは耳には入ってこなかった。それよりも、もっともっと重要なことを今、確かに聴いた筈。ジュリィ...? ジュリーだって⁉ ジュリーと聞いて、僕は一年前にママが話してくれた【天使の賛歌】の主人公、ジュリーを想わずに入られなかった。もしかしたら、物語のジュリーはボクの初恋の相手かもしれないんだ。まぁ、落ち着いて考えれば、ジュリーは僕のお母さんな訳だけど。

「僕はケン。こっちの乱暴なのが、僕の従兄弟でジュンって言うんだ」

僕の代わりにケンが自己紹介しているのを僕は黙って聴いていた。なんだか、太陽に導かれ、こうして森の中で.. ジュリィに出逢ったみたいだ。

 「明日、晴れたら、僕らと一緒にカブトムシを取りにいかない?」

ケンが元気いっぱい、ジュリィに向かって話しかけている。僕は自分の思考に忙しすぎて、ずっと黙ったままだった。どうやら、ジュリィも夏休みの間だけ、日本からここへ来ているようだ。きっと、村が毎年開催しているサマーキャンプの為に来たのだろう。

 「君、日本人だよね。なのに、ジュリィなんだ…」

女の子は恥ずかしそうに微笑んだ。

 僕はこの後、どうやって森から自宅へ戻ったのかも、女の子と別れたのかも、ぼんやりとしか覚えていない。午前中の大冒険のあと、女の子は四匹の子猫を連れて、何度もお礼を言いながら、一緒に米国へ遊びに来ているらしい母親の元へと戻っていった。ケンと僕は、遅めのランチをしながらお母さんが用意してくれたサンドイッチとサラダをほおばった。まるでケンが一人で大冒険をして活躍したかのような話しぶりに、時々、違うだろ!って心の中で思いながらも、僕はそれどころではなかった。お母さんの名前がジュリーで、会ったばかりの女の子もジュリィなんて、すごい偶然だなって。こんなことって本当にあるのかな? あの子の笑った顔や、子ねこたちの鳴き声、それに森の匂い――全部が頭に浮かんできて、なんだか胸がドキドキしてきた。ぼく、きっとこの日のことをずっと覚えてると思う。

つづく...

 

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小説【季節の予感】第一回BGM著作&作曲:すず 作品NO.394~397

2025-03-30 15:49:52 | Electone & Piano

小説【季節の予感】第一回BGM著作&作曲:すず 作品NO.394~397

僕の名はジュン。純粋の純って漢字で書いて、ジュンっていうんだ。初夏の爽やかな風が吹き抜け、季節はあっという間にじめじめとした梅雨へと移り変わるころ、日本を離れ、毎年、アメリカにあるお母さんの実家へ遊びに行った。 そういえば、お母さんは作家なんだ。だから僕も本が大好きだけど、やっぱり外遊びの方が好きかな。僕も物語を作るのが得意って言われるけど、外で冒険する方がずっと面白いし、なんだか僕の血が騒ぐんだ!今日も僕は従兄弟のケンを引き連れて、カブトムシを取りに行く。家の近くには大きな森があって、まぁ、僕に言わせれば、”庭のようなもの!”だな。従兄弟のケンにとっては、初めての海外で、初めての場所だから、僕とおない齢だとは信じられないくらい、怖がってた。何処へ行くにも、僕の後ろをついて回る。まぁ、ケンにとっては全てが異世界みたいなんだろうな。言葉の問題もあるしなぁ。僕の場合は日本で暮らしていても、お母さんが時々英語で話しかけてくるから、何となく、喋れなくても何を言っているのか僕には分かるんだけど、ケンのやつは、全くだめで、こっちへ来てからは、近所のおじさんやおばさんたちに声を掛けられるたびに、僕の顔をちらっと見ては、おどおどしていたんだ。笑って、ハローって言っていればいいよ、って言うのに。「怖い」らしい。みんな、デカいからかなぁ。そんなケンに親切にしてあげてね、ってお母さんに言われ、素直に分かってるよ、って返事をして今日も一緒にカブトムシを探しに森の中へ入ったわけだ。都会育ちのケンにとって、広大な森の中は未知の世界のはず。その目には、どこを見ても不安げな色が浮かんでいた。森の奥に進むにつれ、僕の耳に聞こえるのは鳥のさえずりと自分たちの足音だけだった。この静けさが、なんだか面白いことをしたくなる気分にさせたんだ。僕は急に変にそわそわして、ケンを驚かせてみたいなって思っちゃった。森の地面はでこぼこ道で、所どころ大木の根っこが地面を這っている。

「ケン、足元を良~く見ろよ。木の根っこに足を引っかけて転ばないようにな!」

僕は後ろから付いてくるケンに声をかけた。

「うん、分かったよ」

より一層、地面に集中するケンの姿を認めた僕は、出来る限り音を立てないよう、小走りすると、さっと脇へ隠れ息をひそめる。いつもケンのやつ、僕が歩く速さについて来れず、「ジュ~ン、待ってくれよぉ」と僕を呼んでいた。都会育ちだからな、当然か。

まだ、僕が消えたことに気付かないのか。しーんと静まり返ったままだ。根っこが地面をうねうねした先は急斜面になっており、ケンの目には僕が突然消えたように映る筈だ。大木の陰に隠れた僕も、ちょっとケンの様子を見たくなり、そぉ~っと首を出した時だった。ケンは辺りを見回しながら、息を詰めた声でこう叫んだ。

「ジュン!何処へ行ったんだよ!」

「… 」

「ジュン!返事くらいしろよぉ...」

ケンの泣きべそかいた声がした。うひゃ~やったね! 僕は、くっ、くっ、くっ、と笑うと、スーパーヒーローみたいにケンの目の前へ躍り出た。

「ジャーン!正義の味方、ジュン登場!」

僕は虫網を持った右手を空へ向けると、白い歯を見せて笑った。

「何が正義の味方だよ… 意地悪しやがって。ジュンのママに言いつけてやる!」

ケンは相当怖かったのか、半べそかいたまま、まだ泣いている。

「お母さんには言わないでくれよ、頼むからさ」

と言いながら、僕はまだ泣き止まないで同じ場所に突っ立ったままでいるケンに向かって叫んだ。大体なんだ、森の丘に立つ僕の姿を見て、天使のように瞳をうるうるさせながら、「ジュンさまぁ~。助けに来て下さったのねぇ」とか、何とか、台詞を言うくらいの心の余裕ってもんを見せて欲しかったよ。何がママに言いつけるだ。だけど、ほんとにケンがお母さんに言いつけたことはないんだよなぁ。僕のいたずらに付き合ってくれる、心優しい従兄弟なんだ。

「ケン、僕たち、もう7歳なんだぞ!子猫みたいな泣き声でミャーミャー男が泣くなんて、みっともないぞ!早く行こうよ」

ケンは更に抗議の目を向けた。

「何が子猫だ! ミャーミャーなんて泣いてないよ」

そう言ったケンは、急に耳を澄ましている。確かにケンはすでに泣き止んでいる…よなぁ… じゃあ、なんだ? あれは本物の子猫の鳴き声なのか⁉

「なぁ、ジュン。子猫がどっかで鳴いてるよ。間違いない、小川の方かな…」

こんな時は全神経を集中だ!お母さんがよくやるヤツだ。うん、確かに。つい、さっきまでは小鳥の声しか聴こえていなかった筈なのに。小川の水の音と子猫が鳴く声が…しかも、どうやら一匹ではないらしい、数匹いるようだ… 僕の耳もしっかり捉えた。…とその時、

「誰かぁ!あの子たちを助けてぇ!」

女の子の声だ! 僕らは顔を見合わせた。ケンも同じように目を見開いている。心臓がドキドキと早くなる。

「ジュン、今のは… 女の子の声、聴こえなかったか?」

僕は大きく頷いた。

「ケン!行くぞ! きっと子猫に何か起こったんだ。僕らが助けなきゃ!」

言うが早いか、僕はもう駆け出していた。その後をケンが必死についてくる足音も、僕にはちゃんと聴こえていた。

 

つづく...

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季節の予感 第4回 ヒロとジュリィ

2025-03-29 23:09:23 | ショート ショート

 病院の廊下には窓から光が差し込んでいた。だからかな、何か光るものが落ちていることに僕はすぐ気付いた。何だろう…ペンダントみたいだ。太陽の形をしてる!僕は拾い上げて、窓から太陽へかざしてみた。綺麗だなぁ。ステンドグラスみたいだ、あの時、教会で見た天使とペンダントが同じ光を持ってるみたい!僕がひっくり返すとペンダントはまるで命の光を放っているみたいに感じた、その時、か細い声がした。

「それ!私の… わたしの…ママがくれた…大切な…」

僕と同じくらいの女の子が震えながら手を差し出した。何度も瞬きしている。

「君のペンダント?」僕はそういうと、その子の顔とペンダントを見比べた。女の子の顔はいっそう曇る。僕は慌てて、はい、っと差し出した。

「あ…あ…ありが…とう…」

女の子はあがり症なのか、どもりながら、やっとそれだけ言うと回れ右をして、走って行っちゃった。あの子、誰だ?

 その日以来、病院へ来ると、僕はあの子にまた逢えないかなぁと思うようになっていた。そして…逢えたんだ!

 

 僕はヒロ。生まれつき身体が弱い。もっと小さな頃は、殆ど病院で過ごしていたけれど、7歳になった今は、時々こうしてママと一緒に病院へ来るんだ。4月からは学校が始まっていたけど、僕はほとんど行けない。やっと行けても教室の中へ入ると心臓がバクバクして苦しくなるし、早退することが多かったんだ。体操は見学だし、「いつも見学ずるーい!」と、女子にまでからかわれるし。学校へ行っても僕はひとりぼっちだった。「今日は前回より1秒早く走れたね!」とか、「跳び箱、何段飛べたよ!」とかって友達と話せない。だって、病院の先生に止められているのだから。そんな僕をまともに相手にしてくれる子はいなかった。ママは、自宅へ一人、僕を残して仕事へ行くより、学校にいてくれた方が安心だって言う。でもママには行きたくない、と言えない。だけど、発熱しては、こうして病院へ通っていた。ここへ来ると少しほっとする。だからと言って、病院が好きなわけでもない。消毒液の匂い、病院独特の匂いや廊下を歩くスリッパの音が苦手だった。急いで歩く音を聴くと、もしかして誰かが…って思ってしまうから。

 だけど、桜色や海の色、山の色で飾られた部屋で毎週開催される、キッズクラブは病院では別世界で特別な時間だ。小児科に入院中の子供達を中心に集まって来る。普段は子供たちが自由に出入りしている。それぞれが好きな本を捲る音や、絵本の中の登場人物のモノマネをして笑い出す子もいたりして。ここは病院で一番、笑い声がする部屋だった。廊下には僕たちが作った季節の花の工作や絵が貼ってある。部屋の中へ入れば更に工作コーナーがあって、色とりどりの折り紙や粘土の人形たちが並ぶ。窓から差し込む日差しがそれを鮮やかに照らしている。老人会のおじいちゃん、おばあちゃんたちと一緒に育てたお花も飾られていた。キッズクラブの部屋は、そういう訳でちょっとだけ病院にいるってことを忘れさせてくれる。時々慌ただしくなるサイレンが近くなったり、遠くなったりするけれど…。

 ここ、キッズクラブでの僕のお目当ては、絵本の読み聞かせと紙芝居だった。この病院の委員長の娘である、マユ先生が読み聞かせをしてくれる。マユ先生は医者ではないっていうんだけど、看護婦さんでもないらしい。僕にはよく分からないけど、患者さんや病院スタッフ皆に声をかけて回っていたから、病院のお母さんのような仕事なのかなぁと思う。マユ先生には僕とおない歳くらいの女の子が一人いて、その子も時々、キッズクラブに来ていた。読み聞かせの時は、いつも一番後ろで黙って聴いている。あの子のママが読むのだから、もっと前へ行けばいいのに、と僕は勝手に思って見ていた。いつもカワイイお洋服を着て、大人しく座っている。いかにも病院長の孫って感じ! お嬢様っていうのかな。僕とは違う世界の子供って雰囲気だった。それにあの子はどこか、遠い世界からやってきた妖精のような、ふわっとした感じ? いつもクラスでうるさい女子たちとは違ってる。あの子を遠くから見ているだけで、僕の心臓が病気になった。ドクンドクンとなるのはいいことじゃないらしいから、どうしよう。あの子のママのマユ先生は優しいし、お金持ちだし、きっと何でも買って貰えるし、いいことだらけ。僕は…僕のママは僕が生まれてすぐに離婚した。「こんな弱いガキ!」と捨てられたのだ、とママは言う。僕の治療費でお金がかかるから、って理由で見たこともないパパに捨てられたって聞かされた時は、ズーンと心臓の奥が痛くなった。もしかしたら、これが僕の病気かもしれない。

 「皆さん、今日のお話は、天使の賛歌ですよ。よく聴こえるように、後ろの方に居る子供達、こっちへいらっしゃい!」

「わーい!」

「やったぁ!」

「今日はどんな話かなぁ」

部屋のあちこちから皆が一斉に喋り出す。

マユ先生は、僕と自分の娘をかわるがわるに見た。僕は気付かれないよう、ちらっと女の子の方を見た。あの子も恥ずかしそうに僕をちらっと見る。その時、女の子の髪がふわっとなった。

「前へ…行く?」

僕は声にはならないくらい、小声でつぶやいた。

「行こうか…」

と、女の子の口元が動いた。いや、そう言った気がしたので、僕は立ちあがり、前の方へ移動した。女の子も立ち上がる気配を感じた。いつの間にか僕らは一緒に並んで聴いていた。

「みんなは、天使がいると思う?」

マユ先生が問いかける。天使? 死んだら天国へ連れて行ってくれるのが天使なのかなぁ。そのくらいしか僕には分からない。僕は何度か死にかけているらしいから、もしかしたら、もっと僕が小さな頃、病室まで天使が僕の様子を見に来たかもしれない。周囲の子供たちは、いつの間にか それぞれに、天使はいる、いない、って盛り上がっていた。

「はい、分かりました。私はね、きっと、いると思う。今日は天使のお話をみんなに聴いてもらうわね。いると思う人、ちょっと手を上げてみて」

マユ先生の問いかけに、お互いの顔を見合わせている。ほんとはいる、って思っても、こういう時、手を上げられるのって、たぶん、5歳くらいまでかなって思う。学校へ行き始めると、何もかもがつまらなくなってしまった。絵も自由に描かせては貰えなかったし、好きな本が読めるわけじゃない。皆で同じ教科書を一斉に読むか、一人だけあてられて、立って読む。僕はこれが苦手だった。好きだった本を読むことも、学校へ行くと嫌いになり… ついでのように学校も嫌いになって… 「本ばっか読んでるから、青白い顔なんだよ!おんなだぁ!ヒロは女だぞ~」って学校へ行けば毎回、からかわれるのはママには秘密にしてる。心配かけるし、僕が病気のことでイジメられるって知られたくない。だけど、ここでは誰も僕をイジメないし、再び本が好きになれる。みな、それぞれに身体に爆弾を… 病気のことを僕らは度々爆弾って呼んだんだけど… 爆弾を抱えて生きているから、そのことでイジメたりしないんだ。もしかしたら、明日、死ぬのかなぁ、って思うと涙が出てくることにも慣れてきた。みんな辛いんだ。だけど頑張ってるんだ。外の世界へ行けば、僕らの頑張りは泡のように消える。だけどもし、消えないものがあるとしたら?

 「私は天使はいると思う。みんなは、どう?」

お話を読んでくれていたマユ先生が、途中で話しかける。一人が口を開いた。

「いると思います。いた方がいいです!」

もうすぐ退院するんだ、って言っていた子だ。物語は船の中の火事で、ジョンがジュリーを探している場面だった。

「助けたいって思う。天使がいたら… そんな希望を抱けたら… みんなはどう思うかな?」

再び、マユ先生が質問する。僕は黙っていた。他の子たちも黙っている。もしかしたら、このあと天使が出てくるのかなぁ。天国へ一緒に連れて行くために… そんな想像をしている時、誰かが小さな声で言った。

「天使はいると思う」

僕は声がした方へ顔を向けた。隣に座っていたマユ先生の娘だった。名前は何て言うのだろう。

「うん、ジュリはいると思うのね。ママもよ!」

「僕も!」思わず声が出た。僕らはお互いを見た。どちらともなく、笑った。女の子の名前はジュリィっていうんだ。物語のジュリーと同じ⁉ 日本人なのに外人の名前? 僕は不思議に思った。病院長の孫なら、洋風な名前もあり、なのかもしれない。僕もヒロじゃなくて、ヒーローが良かったなぁ。あ、これはジョークってことで。

マユ先生は【天使の賛歌】を読み終えると、しばらく何も言わなかった。いつもなら、お話が終わると、みんな拍手するのに。今日はそれもなかった。ただ、シーンと静かなだけだ。中には泣いている子もいた。自分と重ねたのかもしれない。いつ、消えるか分からない命と… だけど! 

「天使はやっぱり、いたね」

隣から小さな、だけど、先程より力強い声がした。

ジュリィという名の女の子だった。あの太陽のペンダントの… 物語のジュリーが持っていたペンダントも、太陽の形だったっけ。

「うん、いたよね。ジョンとジュリーの二人は友達だもんね、だから、助けたんだよね。」

ジュリーを助けたジョン。ジョンの願いを叶えた天使。

「友情だよね」

僕はそういうとあの子を見て笑った。あの子もやっと!僕の顔をしっかり見てくれた!瞬きの回数も最初に会った時より減ってるし、どもりも消えたみたいだ。ジュリィが微笑む瞬間、僕の胸の奥で何かがほどけるような気がした。ジュリィは、僕の生まれて最初のお友達、かもしれなかった。僕は心臓に手を当ててみた。さっきまではドクンドクンだったのが、今は時計の秒針みたいだ。僕は天使のお陰で健康になれたみたいで嬉しかった。天使は僕にとっては、ジュリィかもしれなかった。初めて見る明るい笑顔は天使の微笑みみたいだなって思う。大切にしなきゃ!ずっと寂しかった僕にとって、もしかしたら友達になれるかもしれない相手だったから。僕たちがこれからどんな友達になれるのかはわからない。でも、この瞬間だけは忘れたくないと思った。

つづく…

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季節の予感 第三回 Julieの決意

2025-03-27 21:26:09 | ショート ショート

 「結婚しよう!」

いきなりだった。私と彼は大学院で紫式部を研究する仲間だ。どちらともなく、小倉百人一首の1つである彼女の和歌が好きだと話したときだった。それまで文献を漁っていた彼が顔を上げ、食い入るように私を見つめた。次にどこか遠くへ一瞬、行ってしまったかのような表情を見せた。あぁ、きっと聞き間違いね、と思ったほどだ。私は何事も無かったかのように、原稿へ目を落とした。

「僕は雲隠れはしない。」

再び彼が口を開いた。え…? 私は再び顔を上げた。

「僕は何処へも行かない。ずっと君の傍にいたい、いや、君の傍にいると今、決めたよ!」

そうすることが、当然であるかのように彼は言った。

「お互いを遠く離れた場所で想う。それよりも、僕は君と一緒に月を見上げたい。その方が自然だよ。だから...」

「だから?」

私は彼の顔を見た。彼は真っ直ぐに私を見つめている。ジョンが目を合わせず、はにかんだ様子で、「月を見たら、3回中1回、いや、10回に一度でいいや、僕を思い出して!」と言った日が脳裏に蘇る。あの日のジョンの姿は、優しくも儚く、今にも消えてしまいそうだった。あの頃は、もうすぐ自分が船を降りるからだ、そうなればもう、簡単には会えなくなるからだと思っていた。まさか、永遠に会えなくなるなど知る由もなく...。

「だから、結婚しよう。僕らは一緒にいるべきだよ」

ただの院生から、友人になりたい、でも、付き合って欲しいでもなく、いきなり結婚しようだなんて、彼は何をそんなに生き急いでいるのだろうか。ジョン… ジョンならどんなプロポーズをしてくれただろうか。もし、あの時、火事が起きなければ。もしも、自分が寝入ってしまわず、燭台が風で倒れてしまわなければ…嗚呼、もしも…

「ジュリー、僕の話を聴いてる?」

彼が私の思考を遮った。言わなければ。正直に。自分の心には、ジョンがいるのだと。

「ジョンが… 私はジョンを愛している。たとえ会えなくても」

一瞬の間があった。私が他の人の名前を口にしたことが、意外だったのだろうか、それとも…。

「ジョンって誰だい? 君、ボーイフレンドはいないと言っていなかったっけな? もしや、婚約済なのか?」

私はかぶりを振った。いいえ、違う。彼はいない。この世にはいない。いたとしても異次元だろう。きっと天使として…だなんて言えない。

「彼は…ジョンは…亡くなったわ。私を助けて、その直後に」

そういうのがやっとだった。出来る事なら、この場から逃げ出したかった。ジョンの元へ…逝けるはずもない。その時、何かが頬に触れた。布製のハンカチだった。

「自分で… 涙を拭いて… それ、ハンカチ… ちゃんと洗濯はしてあるよ」

彼は横を向いたまま言った。堂々とした彼も、私に泣かれて戸惑った様子だった。考えてみれば失礼な話だ。私ったら、プロポーズされて、他の男性の名前を言った挙句に泣き出したりして。だけど、彼だっていきなりすぎる。結婚するのが当然みたいに。私が断ると予想しなかったの? 私は泣いた。一生分、泣いたといってもいいくらいだ。思えばこんなに泣いたのは…そう、あの日以来だろう。ジョンを失った、あの日。ばあやが手に握っていた筈の太陽のペンダントは、その後、行方知れずとなった。ジョンの亡骸も翌朝には甲板から消えていた。誰かがペンダントと一緒に海へ埋葬したのだろうと噂がたった。ジョンの魂は天使になったのだから、きっと私を天から見守っていてくれる。私と ばあやは、そう信じた。あの時、一緒に手を取り合って泣いたばあやも、今は亡き人となった。あの日から、十年… すでにそれだけの月日が流れたのだ。

 キャンパスに夕陽が落ちてきた。手元が赤く染まっている。満足いくまで泣いた私は、ふと、彼の方を見た。何事もなかったかのように、文献の整理をしていた。いきなりのプロポーズには驚いたが、彼は黙って自分が泣き止むのを待っていたのだろうか。せっかちな人だな、という印象が少しだけ緩和された。私の視線を感じたのか、彼が顔をあげ、こちらを見た。

「大丈夫?」

「えぇ。ごめんなさい、いきなり泣き出したりして」

「いや、僕こそゴメン。驚かせたみたいで。だけど、僕の決心は変わらないよ。君は僕と一緒になる。その…ジョンって人の為にも。」

「ジョンのため?」

私は面食らった。ジョンのため、結婚はおろか、誰とも付き合う気すらなかったのだから。実際、この年齢…24歳になるまで、ボーイフレンド一人、作ったことがない。

「そう、ジョンのため。」

彼はもう一度言った。

「彼は…残念だけど、亡くなったのだよね。だったら尚更、君は今を生きるべきだよ。彼だって、きっと、君の未来がただ、過去に囚われるだけじゃなく…」

私は彼を遮って叫んだ。

「違う!囚われているわけじゃない!私は彼を忘れない!彼は家族も失い、親戚からも疎んじられて…自分しかいないって言っていたの。私が忘れてしまったら…一体誰が… 誰が彼が存在したことを覚えているというの!」

私は再び涙目になった。嫌だ、そんなのは嫌! 忘れられるものですか。忘れられないのよ。会えなくてもジョンは自分の中で生きているのだから… 何処まで彼に実際に話し、どこからが自分の独り言なのかすら分からなくなってしまった。一体、どのくらい、そうしていたのだろう。辺りはすっかり暗くなり、窓の外から顔を出したのは、満月だった。あぁ、満月…ジョンと約束を交わした満月だわ。満月を見たら、お互いを想う…と。

「綺麗な月だ」

ふいに、彼が言った。ほんとうだ。おぼろげな満月がジョンと自分を繋げている。会えなくても一緒にいてくれる気がする。

「なぁ、ジュリー。ゆっくりでいい。時間をかけていいから考えてみて。君のジョンの話を君の将来の子供へ引き継ぎたいとは思わないか?そうすることで、ジョンは僕らがこの世を去った後も、生き続けるとは思えないかな…」

意外な話の展開に面食らった。だってそうだろう? 君しかジョンを知らない、ジョンの記憶がないというのであれば、君はそれを伝えるべきだろう。作家になるという彼との約束だってある。彼のことを本にしたらどうだろう? それを子供たちに読み聞かせしては? 僕は君の夢をサポートするよ。ジョンには出来なかった形で。

 彼が… 学友の純一が、自分の夫になる、それも、いいかもしれない… 空から月が私たち二人を見ている。ジョン… あなたなら、何というかしら? 私は満月に問いかける。今までもずっと、こうしてきた。満月に問いかけてはジョン、あなたと会話してきたわよね。

「ジュリー、受け入れなよ。君は生涯、孤独でいるべきじゃない。僕は君と新しい家族になりたい。ジョンだってきっと、それを望んでいる筈だ…と思う…うん…」

純一はそういうと、目を逸らし、少し首を傾げた。そのしぐさが何処となくジョンに似ていて驚いた。つい先ほどまで積極的だった純一が、それまでとは違って見えたのだ。まるで、はにかみ屋のジョンが純一に乗り移ったかのように。

 その時、満月が笑っているかのように思えた。ジョンの懐かしい、あの、はにかんだ笑顔と満月が重なる。この夜、私は確かにジョンの声を聴いた。「君の子供に会ってみたい」と…。

 秋の風が優しく頬を撫でる夜、私は純一のプロポーズを受け入れた。翌年の7月7日良く晴れた七夕の日の夜、月光が部屋へ差し込む中、純が生まれた。まるで小さな天使が地上へ舞い降りたかのようだね、と二人で笑った。小さな産声を聴いた瞬間、まるでジョンの声が脳裏に響いたように感じられた。栗色の目をした元気な男の子だった。

 純が生まれた七夕の夜は、澄んだ星空が広がり、満月の明るい輝きが空の美しさを一層際立たせていた。私は空を見上げながら思ったものだ。純の誕生をジョンも一緒に祝ってくれているのだと。自分とジョン、そして純一との新たな絆が天の川を越えて天からやってきたかのような純を通じて繋がっていると感じた。星々の間を渡る織姫と彦星もきっと祝福してくれている。星々の輝きがジョンの記憶を未来へと運ぶ流れ星のように感じられた。

 腕の中で、すやすやと眠る純を見つめながら、私は静かに心の中で誓う。ジョンの想いを、純と純一との新しい未来へ繋げることを。

 純、あなたはこれからどんな道を歩み、どんな夢を追いかけるのだろうか。その未来に、自分とジョン、そして純一の想いが溶け込んでいきますように。これからの人生で出会う人々への愛情を抱きながら、人生を彩る瞬間を大切にして欲しい。思い出を決して過ぎ去った日々と捉えず大事にして、苦手なことより好きなことをやり抜いて…だけど決して急がず、大地を踏みしめながら生きていって欲しい。ママは欲張りかなぁ。何より元気で笑顔でいて欲しい…

 私はふと、胸ポケットにしまっていたジョンの懐中時計を満月に照らして見た。この子に…純に手渡す日はいつだろうか。

 純の首が座る頃、私は遂に執筆を始めた。タイトルは、【天使の賛歌】に決めた。それは、自分であるジュリーがジョンとの約束を守るために紡いだ言葉であり、彼の優しさと勇気への感謝を込めた祈りだった。ジョンは、月を見るたびに自分を思い出すと言っていた。もしかしたら、それはジョンが孤独の中で見つけた唯一の慰めだったのかもしれない。そして、自分にとっても満月は、彼の存在を象徴する大切なものとなった。ジョン、何年かかっても、きっと、描き上げるから。約束するわ。

 ミルクを飲み終えて、ご満悦な純を横目に、私は万年筆を手にし、最初の一行を書く。少しばかり手が震えたが、まぁ、ギリギリ読める字かな。濃いブルーブラックのインクが白い紙の上でゆっくりと滲む。筆跡はわずかに震えながらも、確かな思いを刻んでいた。こうして、この子に捧げる物語が幕を開けた。 

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季節の予感 第二回

2025-03-23 16:22:38 | ショート ショート

 「誰かぁ、助けて!あの子たちを…」

その声に導かれるように、僕たちは駆け出した。季節が移ろうように、僕らも変わるために。

さっきより、よりはっきりと聴こえる女の子の声。僕らからそんなに遠くはない場所にいるようだ。僕は声がした方へ更にフルスピードで走りだす。途端に、ケンの声が後ろから追いかけてくる。

「ジュン! 僕を置いて行くなよぉ」

振り返ると、ケンは、はぁはぁと肩で息をしている。

「しょうがないなぁ」

と僕は言うと、ケンの手を掴んだ。

「行くぞ、ケン! ヒーローになるんだろ?」

ケンの顔が少し赤くなった。こくり、と頷くと、僕の手を握り返した。

二人で小川の方へ急ぐ。風に乗って川から吹いてくる新緑の青草さが、僕たちの足元に広がった。急斜面になっているので、転がり落ちないように気を付けながら。湿り気を含んだ土の感触が靴越しに伝わる。

「ケン!滑らないように気を付けるんだ」

「うん!」

はやる気持ちと連動するかのように、森の木々がざわざわと音を立てる。木漏れ日が斜面に落ち、風に揺れる木々が影絵のように踊る。ざわざわと揺れる木々の音が、まるで僕たちを急かしているようだった。だが、ここは慎重に!と僕は自分に言い聞かせる。そこを抜ければ小川だ。僕らの目に真っ先に飛び込んできたのは、大きな岩に引っかかったままのイカダと、その上でミャーミャー鳴く子猫立ちの姿。心配そうに見守る、僕らとおない齢くらいの女の子の後ろ姿だった。小さな肩の震えが遠目にも分かる。今は流されずに岩に引っかかったままだが、時間の経過とともに下流へ流れ出すだろう。

 その時、女の子が、

「誰か…」

と、か細い声で呟いた。さっき、耳にした声だ。僕らが駆け寄る足音に気付いた女の子が、ゆっくりと振り返る。涙で潤んだ黒い瞳。日本人だ! こんな森の奥に日本人の女の子が⁉ そういえば、助けて、って声は… 言葉は… 確かに日本語だったではないか! 今頃になって気付くなんて。

「君、日本人なの?」

僕よりケンの方が先に声を掛けていた。女の子は、こくり、と頷く。

「子猫の内、一番元気な子がイカダに飛び乗って... 後を追うように、他の3匹も! するとロープがほどけてイカダが流れ出したのよ。あの岩で止まっているけれど、どうしたら助けられるか分からなくて…」

途方にくれていたんだな。そうしたら、僕らの話し声が聴こえたってことか。僕は冷静に状況を判断した。

「どっちにしろ、このままでは、いずれ川の水の勢いでイカダも再び流れ出すだろうから。ケン!僕らは下流へ先回りしよう。川幅が狭くなるところがあるんだ。そこは浅いし、水も僕の足首くらいしかない。きっと大丈夫だよ」

心配そうな二人の顔を見ながら僕は自信気に言う。大丈夫だ。この川で過去に何人か溺れている。そこで、大人達が一部の川を埋め立てていた。そのまま海へ流れていかないように、川の流れも二手に分けたと聞いている。

「ケン、行くぞ!」

僕は女の子を気にしているケンの腕を強引に引っ張ると、一緒に小川に沿って走り始めた。目的地へ辿り着くと、僕はケンに言った。

「いいか、ケン。イカダが流れてきたら、まずは飛び乗るぞ!そうしたら、子猫たちを捕まえるんだ」

そんな、上手く行くかなぁ、僕はここにいるよ、と不安気なケンを励ますと、僕は靴と靴下を脱ぎ棄て、ぽちゃぽちゃと川の中へ入っていく。やはり足首までしかない。これなら転んでも大丈夫だな。大人たちが張ってある網もしっかり結ばれていることを確認した僕は、その場で待ち構えていた。すると、昔、お母さんが読んでくれた【桃太郎】の桃のように、イカダも、どんぶらこ~どんぶらこ~と流れて来たではないか! 僕の心は飛び跳ねた。思ったより、ずっと、ゆっくりと流れて来たからだ。 桃から生まれた桃太郎、じゃなくて、イカダに乗った猫太郎たちよ、今、僕が助けてやるからな!と心の中で話しかけるくらい余裕があったのだ。

ゆっくりと流れるイカダの上では、相変わらず子猫たちがミャーミャーと、鳴き声を上げては、小さな四つの足を踏ん張っている様子が見えた。その子猫たちを横目に見ながら、あの女の子も川に沿って、こちらへ歩いて来る。

「あと10秒… あと5秒くらいだ…」

僕はイカダに飛び乗るタイミングを計った。

「今だ!」

僕がイカダに飛び乗ると、ぐらぐらとイカダが大揺れした。ひゃぁ~という声が僕の耳にも届く。揺れが収まるのを待ち、僕は子猫たちをシャベルカーのように急いでかき集めると、イカダから飛び降りた。ボチャン、と鈍い音がして、僕は子猫を両腕に抱えたまま、川の中で尻もちをついた。すべては一瞬の出来事だった。

「やったぁ!」

「やったわ!」

岸辺にいた二人の声が重なって聴こえて来た時、僕はこれまでの人生で二番目に感動していた。何故、一番じゃないのかって? それは、今から一年前、【天使の賛歌】のお話をママから聞いた、あの夜が一番だからだ。

ケンは水が怖い筈なのに、いつの間にか靴を脱いで、必死な表情を顔に浮かべながら、川の中へ入って来た。あの女の子も一緒だ。

「大丈夫だから、そこにいなよ!」

僕は叫ぶと、二人と川岸で合流した。ケンが誇らしげに僕の手から二匹の子猫を受け取る。感動の瞬間だ。僕の腕の中で元気に動く残り二匹の子猫を女の子に手渡すと、僕は心底ほっとした。本物のヒーローになった気分だなぁ。本の読みすぎってことはないよな。

「ありがとう、この子たちを助けてくれて。一人で何も出来ずにオロオロしているだけで、とっても怖かったの」

女の子がほっとしたように微笑む。でへへ、と僕は照れ笑いし、ケンもつられたように、でへへ、と笑う。その直後、お腹の虫が、ぐぅ~っと鳴いた。

太陽は僕らの真上で笑っていた。まるで物語の中で知る、僕のジュリーのように。

「お昼だ。腹の虫も鳴いてるし、行こうか!」

「うん!」

「えぇ!」

僕ら三人には、すでに同志のような絆がこの瞬間に生まれていたように思う。

「そういえば、まだ、名前も聞いていなかったな」

最も大切なことを思い出したように僕は言う。

「ジュリよ」

一瞬、僕は棒立ちになったまま動けなくなった。

「なっ、なんだよ、ジュン! 急に立ち止まるなよ! 危ないじゃないか!」

ケンが抗議したが、それは耳には入ってこなかった。それよりも、もっともっと重要なことを今、確かに聴いた筈。ジュリィ...? ジュリーだって⁉ ジュリーと聞いて、僕は一年前にママが話してくれた【天使の賛歌】の主人公、ジュリーを想わずに入られなかった。もしかしたら、物語のジュリーはボクの初恋の相手かもしれないんだ。まぁ、落ち着いて考えれば、ジュリーは僕のお母さんな訳だけど。

「僕はケン。こっちの乱暴なのが、僕の従兄弟でジュンって言うんだ」

僕の代わりにケンが自己紹介しているのを僕は黙って聴いていた。なんだか、太陽に導かれ、こうして森の中で.. ジュリィに出逢ったみたいだ。

 「明日、晴れたら、僕らと一緒にカブトムシを取りにいかない?」

ケンが元気いっぱい、ジュリィに向かって話しかけている。僕は自分の思考に忙しすぎて、ずっと黙ったままだった。どうやら、ジュリィも夏休みの間だけ、日本からここへ来ているようだ。きっと、村が毎年開催しているサマーキャンプの為に来たのだろう。

 「君、日本人だよね。なのに、ジュリィなんだ…」

女の子は恥ずかしそうに微笑んだ。

 僕はこの後、どうやって森から自宅へ戻ったのかも、女の子と別れたのかも、ぼんやりとしか覚えていない。午前中の大冒険のあと、女の子は四匹の子猫を連れて、何度もお礼を言いながら、一緒に米国へ遊びに来ているらしい母親の元へと戻っていった。ケンと僕は、遅めのランチをしながらお母さんが用意してくれたサンドイッチとサラダをほおばった。まるでケンが一人で大冒険をして活躍したかのような話しぶりに、時々、違うだろ!って心の中で思いながらも、僕はそれどころではなかった。お母さんの名前がジュリーで、会ったばかりの女の子もジュリィなんて、すごい偶然だなって。こんなことって本当にあるのかな? あの子の笑った顔や、子ねこたちの鳴き声、それに森の匂い――全部が頭に浮かんできて、なんだか胸がドキドキしてきた。ぼく、きっとこの日のことをずっと覚えてると思う。

つづく...

 

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