人生も終盤あたりにさしかかったが、同窓会の案内があったのでイソイソと出かけた。
昨日のことは忘れても、数十年前のことはハッキリ覚えているもので、いやはや懐かしい懐かしい。
昔の乙女も今では太目。
産気づいたような恰幅のいいオバサンや、清純派を貫き通したようなオバサンたちはとても元気だ。
それにくらべ頭がスキンヘッドやバーコード状態になったオジサンたちの後姿は心なしか薄暗い。
それぞれの人生劇場を垣間見たような、語りつくせぬ夜を過ごした。
同窓会というものは、全然出世しなかった人と、少し出世した人と、うんと出世した人に分かれます。
昨日の会場は焼肉屋であったが、一般的に居酒屋で行われるパターンが多いと思う。
居酒屋では当然刺身がでる。
その刺身を食べるべく、ワサビを小皿の醤油に溶かそうとしたそのとき。
「ワサビは本当は醤油に溶かしちゃいけないんだよね」
と、うんと出世した人が言い出す。
「このように刺身の一片の上に、ワサビをちょびっとのせ、それを醤油につけて食べるのが正しいんだよね」
何しろうんと出世した人だから、たまには料亭にも行くだろうし、そういう席ではみんながそういう食べ方をしているに違いない。
きっとそれが正しいに違いない。
そこでワサビを刺身の一片にちょびっとのせて食べようとしたそのとき。
「でも居酒屋のワサビなんて、どうせ本物じゃないんだよな」
「本物だったらそれが正しいんだろうけど、こういう店のはどうやって食べてもいいんだよね」
と、ちょっとだけ出世した人が言う。
刺身の上にいちいちワサビをちょびっとのせて食べる食べ方は、それはそれで正しい食べ方かもしれない。
でもそれをやると、何だかコセコセしてやってることがみみっちい。
貧乏くさい、情けない、人間が小さく見える。
だからアタクシはいつだってワサビを醤油に混ぜちゃう。
堂々とかき回す。
だけど迷ってもいる。
同席した全員が、一片一片にワサビをのせて食べている中で、自分一人だけ醤油に入れてかき回すのはやっぱり気が引ける。
あいつはモノを知らないな、と軽蔑されるのはくやしい。
刺身ひとつ食べるのにも苦労してます。
本文とは全く関係ないが、ワサビを内蔵した刺身とでも言うべき鮨。
まぐろ
出雲の呉竹鮨、回転しない鮨屋さんでした。