はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

三思後行(さんしこうこう)

2023年06月03日 | はなこのMEMO
「三思の後に行え。」

ここ数年、夫婦で中国の歴史ドラマを好んで見ていますが、その理由のひとつは、中国の長い歴史の間に培われた智慧が台詞にさりげなく織り込まれていることです。

高い地位にある人々は須く古今の詩歌や思想に通じ、折に触れてそれらの断片を誦じて見せます。教養の一端を見せつけると言う感じ。

そこで、耳に馴染んだ諺が実は中国由来と初めて知ることもあるし、初めて知る四字熟語も多々あります。翻訳の巧さもあるのでしょうが、その何れもが格調高く、心に響きます。

今日はいよいよドラマも佳境に入った「玉楼春」で、冒頭の言葉が登場しました。日本の辞書でその意味を調べると「物事を行う時は熟慮したのち、初めて実行に移すこと」とあります。

しかし、件のドラマでは発言者の女性が、これまで権力闘争に明け暮れて来たかつての想い人に対し、警告の意を込めて熟慮すべき「三思」を具体的に挙げてみせます。

(1)「安きに居(お)りて危ぶめ」:
  平和な時こそ、危機が訪れた時を想定して備えを怠るな。

(2)「高きに居(お)りて退け」:
  ある程度の地位にまで上り詰めたなら、それ以上の欲はかかずに潔く引退すべし。

(3)「窮すれば即ち変ず」:
  窮した時、そこに新たな変化が生じて来る。(この変化をどう受け止め、いかに処するか)。

この三つの教えは出典も異なるし、時代も違う。にも関わらず目の前の男性への戒めの言葉としてスラスラと誦じてみせるのは、彼女の幅広い教養と優れた知性を表しているのでしょう。

現代の中国社会は日本以上に女性が活躍する(男女平等)社会ですから、それを象徴するかのように、賢くて機転の利く女性がドラマにはよく登場します。もちろん主なターゲットである女性視聴者を意識してのキャラクター設定でもあるのでしょう。

中国のドラマは一般に俳優の地声は使わずに、専門の声優による北京語の吹き替えが行われるようですが、これは国土が広大で国内で複数の言語が使われているのと(出演俳優のバックグラウンドも多岐に渡る)、中国の現体制を脅かすような思想の流布を防ぐ為に行われる検閲に対応したものと言われています。

こうした中国の国内事情があるにしても、ドラマ自体の価値が変わるものではありません。

歴史ドラマは短いもので40話ほど、長いものは80話を超えますが、最初こそ登場人物の多さに戸惑うものの、彼らの名前と顔、そして関係性さえ把握すれば、物語は自分の中で自ずと動き始め、進むにつれ加速度的に面白くなります。

世界市場を視野に作られているので、制作予算も桁違いなのでしょう。さらに近年の中国経済の発展も後押しして、物語のスケールだけでなく、撮影セットや衣装・装身具の豪華さにも目を見張るものがあります。

その充実ぶりが、日本から見ると正直言って羨ましい。
(了)

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