かねがね小説家は小説家自身が「小説」の大ファンで、古今東西の数多の名作を読破し、その豊富な読書体験を礎に「唯一無二の文学的表現」を編み出しているのだと思っていた(私なんか、いつも文章を綴りながら、ああ、なんて陳腐なんだと自己嫌悪😞)。
ところが、である。今回、「結合双生児の姉妹を語り手に据えた小説」『サンショウウオの四十九日』で芥川賞を受賞した朝比奈秋(あさひな・あき)氏(43)は「35歳で書き始めるまで小説を全く読んでこなかった。書いている時間より読んでいる時間が圧倒的に少ない。文学的背景がないため、思い浮かんだものを頭のなかでいじるだけでは小説にならない」と言う。
「もともとは作家志望でもなく、消化器内科の勤務医だった氏は、論文執筆中にふと頭に浮かんだ映像を基に、一気に原稿用紙400枚ほどの小説を書き上げる。」(「毎日新聞」記事より)
以来、次々とアイデアが溢れ診察に集中できなくなり、イメージが浮かぶとそれを物語として書かずにはいられず、ついには医師の仕事を月数回の非常勤に変えて小説執筆に没頭することに。
そしてデビューして早くも2年目には「植物少女」で三島由紀夫賞(2023)、「あなたの燃える左手で」(同)で野間文芸新人賞を受賞と、何かに突き動かされるように「独創的な」小説を書き続け、著名な賞を射止める。
過去には切望しても目当ての文学賞受賞が叶わなかった作家が、有名作家(太宰治、島田雅彦etc…)も含め大勢いたであろうに。
「物語を理解するためには『身体性』が僕には必要。心や内臓で強く感じたことを頼りに、実感として書くしかすべがない」と述べる氏独特の感性は、消化器内科医としての経験に深く根差しているらしい。
「書かざるを得ない」「文学的な手応えは自分では全く分からない。一つの物語を『小説』にするまでは毎回同じ。早く終われと思いながらも、きちんと誠実に書かないと物語が忘れられないから手の抜きようがない」
不謹慎ながら、以前、漫画の「ブラック・ジャック」だか何だかで読んだエピソードを思い出した。
あるクリエイター(作家だったか、音楽家だったか、芸術家だったか)が、驚異的なハイペースで作品を世に出すのだが、その人の脳に腫瘍が見つかり、手術でそれを除去すると、その天才的な能力が失われてしまった、というもの。
人間の脳が持つ可能性は本当に未知数だ。何がきっかけで朝比奈氏の脳に「小説執筆」のスイッチが入ったのか?それは果たしていつまで続くのか?おそらく、ご本人も分かるまい。
インタビューでの発言から想像するに、朝比奈氏のそれは「天から(アイデアが)降りて来る」感覚に近いだろうから(夫は「その先生、脳が壊れちゃったんじゃないの?」との給う😅)。
一体、どんな作品なんでしょうね?興味津々☺️。
✴︎インタビューでの発言及び著者略歴は「日経新聞」2024年7月19日(金)夕刊文化面より
(了)