はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

国際シンポジウム「美術館・博物館の挑戦」聴講記録(1)

2008年07月15日 | 文化・芸術(展覧会&講演会)
去る7月10日(木)、東京・九段下のイタリア文化会館において、読売新聞社主催で開催された国際シンポジウム「美術館・博物館の挑戦」に出席して来ました。以下はその聴講報告。(筆記メモを元に書き起こし。文責はなこ)

【パネリスト】
■クリスティーナ・アチディーニ フィレンツェ文化財・美術館特別監督局長官
■周功鑫 台北・国立故宮博物院長
■青柳正規 独立行政法人国立美術館理事長、国立西洋美術館長

まず、それぞれのパネリストの20分間の基調講演の後、1時間余りにわたりパネルディスカッションが行われ、最後に会場からの質疑にパネリストらが応答した。


世界から名だたる名品を集めた美術展覧会活況の一方で、日本国内の美術館の苦境が続いている。バブル時代に日本各地に次々と建てられた美術館・博物館は、その後のバブル崩壊と地方財政の悪化により運営予算が激減。新たな作品収集もままならず、コスト高から大幅集客を望める企画展もなかなか開催できない為、来館者数は減少し、その存続意義自体が厳しく問われているのが現状である。この苦境は先に独立行政法人化した国立美術館とて例外ではない。そこで今回のシンポジウムは、イタリアと台湾の美術館・博物館の現状と戦略に学び、今後の日本の美術館・博物館の活路を見いだすヒントを得ようと試みるものである。

■クリスティーナ・アチディーニ女史
1861年以前のイタリアは、各々の州が独自の自治を展開する都市国家であり、美術館も各都市で独自に運営していた。イタリアの美術館の特徴は1.ロケーション自体が魅力的、2.コレクションが優れている、3.天災・人災からの作品保護のシステムが確立されている、と言える。

特に従来、美術館の役割は作品の収集と保護が主体と認識しており、英米の観客ニーズ重視とは異なっていた。しかし近年、経済的危機、大気汚染による屋外展示物への被害と共に、現役世代や若者の古代作品への関心の薄れが問題となっている。特に学校教育における美術離れが顕著で、その対策として、1.新規美術館の開設、、2.既存美術館の拡充、3.企画展の充実に努めている。

現在ウフィツィ美術館には年間150万人の来場者がいる。元はトスカーナ公コジモ一世が建てた役所(ufficiとはイタリア語で”役所”の意)で、美術館としての使用を想定していなかった為、現状では多数の来場者の受け入れ体制に問題があり、現在改修工事を行っている。これによって現状の5000人/日から8000人/日の受け入れが可能になると予定している。また混雑緩和、及び地元民の利用を促す方策として、インターネットによる入場予約システムの導入や年に一度の秘蔵展の実施、さらに夏季限定で開館時間の夜間延長を行っているが、それらのサービスは観光客からは概ね好評である一方、地元民の利用促進には残念ながら繋がっていない。

(昨年、日本へのレオナルド・ダ・ヴィンチ作《受胎告知》貸し出しがイタリア国内で物議を醸したように)常設展に穴を開けてまで重要な作品を海外に貸し出すことへの批判がジャーナリスト等から上がるが、美術館としては、素晴らしい芸術は世界中の人々が楽しむべきもの、との認識で貸し出している。

芸術作品の保護及び鑑賞の手だてとして、地元の大学、研究機関、及び日本の日立製作所の協力の下、芸術作品を高精度のスキャナーで取り込みデジタル画像化するなど、IT技術の適用を積極的に試みているところであり、今後もこの分野は研究の余地が大いにあると考えている。

■周功鑫女史
故宮博物院は、年間の来場者が約260万人、その3分の1は外国人である。故宮博物院は台湾における文化ツーリズムの拠点と自負し、台湾の美的社会実現に大きく寄与したいと考えている。故宮博物院の使命は「教育」「作品の保存及び修復」「来館者への知的娯楽の提供(毎週土曜は午後8時半まで開館)」と認識しており、その一環として、デジタル・アーカイブの充実に努めると共に「文化育成センター」設立を計画。この文化育成センターでは以下の目標を達成したいと考えている。
1.Made in Taiwanを世界に紹介する:数千年にわたる中国文化のコンテンツを用いて、新たな作品を創出。
2.健全な官民共同体を目指し、台湾のブランド力を高める。
3.故宮博物院周辺地域の美観を改善する。
4.独創的な思想の交流の場を提供する。
5.故宮博物院の資源を基盤に、一流の人材の育成:デザイン、資金、ノウハウ、マーケティングを統括し管理。世界的に著名なアーティストと台湾の新人アーティストとの橋渡しをする。
6.知的所有権の確立

これは、まさに台湾の「文化創造産業」の拠点としての役割を担うものである。「文化創造産業」と言う概念は、元々英国で生まれたものである。芸術文化が工業、経済に及ぼす影響は大きい。現に英国では、その利益?(産業規模?)はIT産業の2.5倍にも及んでいる(V&A美術館が、創造産業の産業界に対する効果をリサーチ)。

(2)へつづく…
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