はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

鉄瓶を育てる

2016年06月25日 | 「食」についての話題

 私は無類のお茶好きで、和洋中でいろいろな種類のお茶を揃えては、その時々の気分や1日の中でのバランスを考えながら、適宜選んで飲んでいる。

 ざっと数えただけでも13~14種類はあるだろうか?ただし、どれもティーバッグで、お茶好きはお茶好きでも、本格派とは言えないのかもしれない。しかし、味や香りには拘って選んでいるつもりだ。

 一番多いのは紅茶で、英国ブランドの紅茶もあれば、フランスの紅茶もあり、中でも生協でしか取り扱っていない日本のLankaStarと言うメーカーの紅茶はアッサム、ダージリン、ワイルド・ストロベリー、ジンジャー、アールグレイ(そして時々キャラメルやマンゴーやピーチも!)と取り揃えている。ここのメーカーは社長自ら、世界各地のお茶の産地を訪ねて直接茶葉を仕入れ、ブレンドしていると言う。

 特にダージリンは、自分の知る限りでは、海外有名メーカー製品に引けを取らない香りと美味しさだと思う。なかなか生協でもお目にかかれないので、生協に出た時には2~3袋を必ずまとめ買いするようにしている。

 お茶をより美味しくいただく為に、私は水にも拘る。そこで、水道水のカルキ成分を除去して、味をまろやかにすると言う、南部鉄器の鉄瓶を1か月ほど前に購入した。鉄瓶にはこの他にも、沸かした湯に人体に無害な鉄分が溶け出て、貧血予防の効果があるらしい。

 尤も、茶葉によって合う水質は軟水(日本茶?)か硬水(紅茶?)に分かれるので、厳密に言うと、自分の好みが軟水だから鉄瓶を使うことにしただけ…かな?日本のモノづくり文化を敬愛するひとりとしては、伝統工芸品を手元に置いて、大事に使いたいと言う憧れもあった。

 南部鉄器はその名の通り、鉄で出来ているので錆びやすい。鉄瓶もすぐに内部に錆びが出そうで、取り扱いが難しいイメージがある。また、「水道水がまろやかになる」と言うのは、ある程度、鉄瓶を使い続けて後のことだ。

 だから、タイトルの「鉄瓶を育てる」なのである。

 買って最初の2~3回は沸した湯をそのまま捨てる。湯慣らしだ。その後は出来るだけ毎日、鉄瓶で湯を沸かすようにする(鉄瓶を使ってあげる)。錆びを防ぐ為に、沸かし湯はすぐに急須やポットに移す。

 そして使用後はすぐさま、蓋(特に水滴のついた裏側)や注ぎ口、本体外側を、予め用意した乾いたミニタオル※で拭いて、水分を取り除くようにしている。

 ※ミニタオルはいただき物で未使用の物を2枚、鉄瓶専用にあてがい、何日かおきに替えて使用している。

 鉄瓶内部は、沸かした後の鉄瓶本体の余熱を利用して、残った水分を蒸発させる。内部に息を吹きかけると、てきめんに残った水分が蒸発するので面白い。この蒸発させる作業を怠ると、鉄瓶の中はたちまち錆びだらけになってしまう。

 一見面倒そうだが、一連の作業を習慣づけてしまえば何のことはない。使用後に水滴を残さないよう気を付ければ、鉄瓶の内側は洗わなくても良いのだ。それどころか、手で触れてもいけない。外側は汚れたら固く絞った布巾で拭くだけ。そして、鉄瓶本体がすっかり冷めてから盖を乗せ、棚にしまうこと。

 尤も、どんなに気を付けても、使い初めて1~2週間くらいで内部に茶色の錆びが点々と出て来る。しかし、これはそれほど気にする必要はない。この後は、沸かし湯が錆び色にならない限り、根気強く鉄瓶を使い続けること。

 鉄瓶を使い始めて1か月が過ぎたころ、次第に水の中のカルシウム成分が、鉄瓶内部の錆びを覆うように白く付着して来る。この白い付着成分が、所謂「湯垢」と呼ばれるもので、水道水をまろやかにする働きがあるのだ。

 「早く湯垢を付けたければ、ミネラル分の多いフランスのエビアン等を使うと良い」とネットに書かれていたので、早速試してみたら、効果てきめんだった。写真は、使用から1か月半が経過した我が家の鉄瓶≪バウム≫の内部。白光りしているのが湯垢だ。かすかに見える茶色い錆びを覆うように付着している。



 そもそも湯垢は鉄瓶の所有期間や使用頻度に関係なく、いかに長時間鉄瓶で水を煮立てるかで、その付き具合が決まるらしい。つまり囲炉裏等でシューシュー言わせている状態を長く続けるのが本来の鉄瓶の使い方で、「短時間で湯を沸かす」と言う、いかにも現代的な効率性はそぐわない道具と言える。

 一端の茶人気分で、空焚きにはくれぐれも注意しつつ、水を弱火で"じっくり時間をかけて煮立て"、優雅にその時間を楽しむ位の心の余裕が必要なのかもしれない。こりゃ、隠居の贅沢かな(笑)。

 誤って鉄瓶内部に錆びを大量発生させてしまった場合や、錆びで沸かし湯が茶色く濁るようになった場合は、鉄瓶を軽くすすいだ後、八分目の水に布に包んだ茶さじ1杯の煎茶を入れて、空焚きに注意しながら30分程度煮立て、金気止め処理を行えば良いようだ(ある程度、沸かし湯の色が気にならなくなるまで、この処理を繰り返す)。これはお茶に含まれるタンニンと鉄の結合現象を利用した、昔ながらの錆び止め処理らしい。

 写真は使用から半年経った我が家の鉄瓶(ケトル)バウム君。

 不覚にも最近、鉄瓶が十分冷めないうちに私は盖を被せてしまったらしく、翌日気づいたら鉄瓶内部の底が湿っていて、斑点状に錆びが発生していた。

 錆びの広がりを防ぐ為に早速上述の錆び止め処理を行ったが、これはあくまでも錆びの広がりを抑えるだけで、一度ついてしまった錆びがなくなることはないようだ。今のところ、沸かし湯には何の問題もないとは言え、大事に育てて来たつもりが、たった1度の不注意で内部に錆びを発生させてしまい、バウム君には申し訳ない気持ち…

【参考サイト】

chain岩鋳オンライン
chain鉄瓶通

 私はいつも鉄瓶に「バウム君」(←商品名)と呼びかけて、使っている。あたかも我が子を愛おしむように、愛着を持って毎日使っている。南部鉄器は大事に使えば、何世代にも渡って使い続けられる堅牢な作りだ。ちょっと重いのが玉に瑕だが、それだけ頑丈に出来ているということ。

 火にかける際には、多少時間がかかっても弱火で。理由は元々囲炉裏等で炭火にかけられていた鉄瓶に、現代のガス火は火力が強過ぎるのと、ガスに含まれる微量の水分が錆びを誘発して、底を傷める恐れがあるからだそうだ。

 実は鉄瓶の場合、高価であればあるほど、職人の高度な技で、より薄く作られ、軽量らしい。熟練職人ひとりが工程の最初から最後まで手掛ける製品は、最低でも価格は3万円以上で、中には数十万円もする品もあるようだ。

 私のバウム君は2万円弱の量産品で、ガスコンロでも使えるよう底厚なので、多少重いのは仕方ない。尤も、伝統工芸品であることには変わりはなく、茶人でもない一般人が日常使いする分には、機能性と堅牢性に価格差ほどの差はないと思う。


 ともあれ、なかなか順調に育って来た、我が家の鉄瓶ケトル「バウム君」で沸かした湯で、美味しいお茶を淹れる。何とも言えない、贅沢なひとときである。

【2020.05.13 追記】

 近々5年目に突入の我が家のバウム君である。旅行で家を空ける時以外は毎日、朝昼晩とバウム君で湯を沸かし続けて来た。

 底に結構錆が出てしまっているが、側面には湯垢がそれなりに付いて、なかなかの仕上がりだと思う(と言っても、これが正解なのかは分からない)。バウム君で沸かした湯は、確かにまろやかな味になっているから、湯垢効果なのだと思う。

 夏でも身体を冷やさないよう、冷たい飲み物は控えているので、バウム君の冷まし湯は美味しくて嬉しい。

 とは言え、私は粗忽者なので、バウム君を短時間とは言え、これまで3度空焚きしてしまったase

 たまに錆の欠片が底に落ちていることがあるが、それはバウム君をひっくり返して払うようにしている。今のところ、使用に何ら問題はないようだ。

 自分と一緒に年を重ねて行くバウム君には愛着が増すばかりだ(笑)。

【2018.01.18 追記】

 昨秋、2年ぶりに英国を旅行した時に、さまざまな場所で紅茶を楽しんだのですが、行く先々で鉄瓶を見かけました。

 写真は南部ブライトンにある宮殿ロイヤル・パビリオンのティールームで、クリームティー(スコーンと紅茶のセット)を頼んだ時のもの。ちょっと見づらいかもしれませんが、鉄瓶で紅茶が供されました。

 こんな遠いところでも鉄瓶が愛用されているのかと思うと、ちょっと嬉しかった。もしかしたら、日本製ではないかもしれないけれど…


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