はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

黒澤明の『椿三十郎』

2008年05月04日 | 映画(今年公開の映画を中心に)


 今年は黒澤明監督没後10年ということで、NHK-BSでは4月から12月まで黒澤作品30本を放映するそうだ。表題の『椿三十郎』は3本目。昨年、森田芳光監督、織田裕二主演によるリメイク版を見たが、オリジナルは何十年かぶりに見たので、オリジナル版を懐かしく見るというより、全く同じシナリオで撮ったと言うリメイク版と比較しながらの鑑賞になったと言ってよいかもしれない。

 そもそも比較するのはリメイク版には酷だったようだ。
黒澤・三船版があまりにも素晴らしい。シーンの繋ぎ、カット、アングル、どれをとっても完璧。私は思わず感嘆の声を上げた。本作に釘付けになった。

 豪放磊落な三船・三十郎はどのシーンでも圧倒的な存在感を示し、血気盛んだが、その勢いが空回りしがちな若侍9人との対比も鮮やか。リメイク版で45年前の黒澤・三船版と一言一句変えていないと言う台詞が、何ら古びれていないのに驚いたが、黒澤・三船版でもその粋の良さが際だっていた。去り際の三船・三十郎の『あばよ』は、しびれるほど格好良い!よもや柳沢慎吾は、この三船・三十郎を真似してはいまいね?

 主人公の大輪の魅力もさることながら、他の登場人物の造型も多彩で、まさに一筋縄では行かない人間社会の縮図を思わせ、普遍的な人間ドラマを作り上げている。それぞれの登場人物が繰り出す言葉は軽妙洒脱だが、時に人間社会の核心を衝いて、心を強く揺さぶられた。こんなに面白くて、タメになる映画なんて、そうそうないぞ!

 放映前に映画制作裏話として、モノクロ画像で紅白の椿の対比をより鮮明にする為に、紅い椿の花弁を墨で黒く塗った、というエピソードが披露された。技術的に画像処理が難しかった当時の苦肉の策だったらしいが、モノクロ映像における着色は、後に『天国と地獄』で実現する。常に自らが思い描いたイメージの完璧な映像化を目指した黒澤監督らしいエピソードとして印象深い。

 『羅生門』を見逃した私は、返す返すも馬鹿です。

没後10年 黒澤明特集(NHK)
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