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8月のたそがれ

2024-08-17 22:38:46 | 政治

岸田文雄首相が9月の自民党総裁選挙に出るのをやめたと記者会見で語った。次の首相を目指す気のないことを明らかにした。8月16日の朝日新聞コラム「天声人語」は「結局、岸田氏は何が最もしたくて首相になったのだろう」と書いた。なるほど。そういう感じを持つ人は少なくない。

岸田氏は何かがやりたくて首相になったわけではない。彼の天地左右なりゆき的なプリンシプルのない状況すり寄り型の政治的言動から、そのことは推測できる。彼は首相になりたかった、だけのことである。岸田氏の父も祖父も国会議員だった。三代目にして大輪の花を咲かせたかった――世襲の業である。世間には政治家の家庭で育った子であるから政治的才覚は自ずと身につけている、と楽観的に考える人がいる。おまかせ政治の風景だ。だが、岸田首相の長男は首相秘書官になって海外出張に出たさい、大使館の車に乗ってお土産品を買い集めていた。

福田康夫首相は福田赴夫首相の息子だ。麻生太郎首相は吉田茂首相の孫だ。安倍晋三首相は岸信介首相の孫だった。朝日新聞が伝える海外の研究によると、日本のGDPは1920年に世界の3.4%を占めていた。戦後の高度成長でそれが8.6%に上昇したが、2022年には3.7%に落ちた。

英国あたりなら政権が野党に移って当たり前の失政だが、自由民主党は少なからぬ有権者から「腐っても鯛」という評価を受けている。野党に政権が移っても世の中がよくなるとは思えない、慣れ親しんだ自民党政権の下でじり貧に耐える方がましだ、と考える人が多い。日本文化には、変化よりもなじみに重きを置く傾向がある。

それはさておき、もっか日本よりはるかに将来が不安なのがイスラエルである。イスラエル軍のガザ市民に対する攻撃は、ベトナム戦争における米軍のふるまいと同じように映像となって世界の家庭に流れている。ハマスの軍事組織を叩き潰すと叫んで、ガザを破壊し、そこに住む民間人、特に子どもを殺傷する行為は世界の多くの市民が批判している。近く停戦交渉の結論が出るようだが、イスラエルに痛めつけられたパレスチナ人の憤りは消えないだろう。汚職問題で裁判沙汰になっているネタニヤフ首相が、自らの保身をねらってガザ攻撃を続けているという見方が世界中で報道されている。停戦交渉を進めているさいに、ハマス幹部のハニヤ氏をイランの領内で暗殺するなど、停戦を嫌がっているようだ。

これだけのことをしてしまった以上、停戦交渉がまとまったとしても、イスラエルはすでに国際的な信用を失い、不快な国家としてのレベルを修復しがたいまでに上昇さた。このダメージを修復するには並々ならぬ努力が必要になるだろう。

自民党が変わる最初の一歩、と高尚な言い回しで憤懣を隠し、総理・総裁レースから身を引くことが許された岸田氏は、追い詰められていた割には運がよかった。

(2024.8.17 花崎泰雄)

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