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Maiden name

2020-02-09 21:56:56 | 社会

24日の衆院予算委員会で茂木外相が、日本のパスポートの別名併記の仕組みは外国の入国管理で分かりにくいので、2020年の後半以降に新しい方式に切り替える意向を示した。

このことを伝える新聞記事を読んでいて興味深かったことがある。別名併記の一例として女性の結婚前の旧姓をとりあげて、次のように外相は説明した。

「見ただけでは旧姓だと分からない……maiden nameなどと書くことではっきりと分かるような形を取っていきたい」

Maiden name は結婚前の女性の旧姓だ。Maidenという言い方がいかにも古臭く、男中心の家父長制のにおいが漂うので、英語圏ではbirth name が中立的な用語として使われている。

日本では9割以上の女性が結婚のさい夫の姓に改姓する。9割以上ということは、逆に、何パーセントかの男性が妻の姓に改姓することを示している。

ところで、改姓した男性の旧姓をmaiden nameと英文表記するとまた別の混乱を招くことになる。

外務省のホームページを見ると、現行の別姓併記方法は旧姓を括弧の中に入れるだけの方法である。日本のパスポートに不慣れな入国管理官がいる空港もあろうから、添付写真の括弧内の名を説明する赤字のような「旧姓=former surname」 という書き方もあろう。Maiden nameよりformer surnameの方が穏当である。

こうした煩わしさが付きまとうのも日本政府が日本国民に夫婦同姓を強制しているからである。「調べた限りでは、夫婦同姓を義務付けている国は日本だけである」という文面を閣議決定したと、かつて新聞が伝えたことがあった。国連女性差別撤廃委員会は日本が夫婦同姓の強制をやめて選択的夫婦別姓制度を導入するよう日本政府に対して再三に勧告している。

茂木外相が “maiden name”という語を用いたのは、結婚に際して妻になる人は夫になる人の姓に改姓するのが大勢であるという認識が背後にあるからだ。「通称使用」や「別姓併記」など、なんだかんだと弥縫策を弄して、自民党の政治家は夫婦同姓の義務を永続化させようとする。彼らの選挙区の頭の固いオジサンやオジサン的考え方に何の疑問を抱かないオバサンたち――岩盤的支持層――の意向を無視できないからだ。

2020.2.8 花崎泰雄)

 

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