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某大学法学部卒業試験問題

2020-02-24 00:51:43 | 政治

<報道にもとづく背景>

日本国政府は2020年1月31日の閣議で、黒川・東京高検検事長の定年延長を決定した。検察庁法には定年延長の規定がないので、国家公務員法の規定を適用した。ながらく政府は検察官には国家公務員法に基づく定年延長は適用しないと解釈してきた。2月12日の衆院予算員会で人事院は「現在も同じ解釈を引き継いでいる」と述べた。翌13日になると安倍首相が、検察官の勤務延長については国家公務員法の規定が適用されると、今般解釈することとした、と衆院本会議で解釈の変更を明言した。すると人事院は2月19日の予算委員会で、「現在」という言葉の使い方が不正確だったとして、2月12日の答弁を撤回した。野党は政府の恣意的な解釈次第で、制度の運用が変わるのは問題だと、激しく追及している。

<関係する条文>

  1. [検察庁法第22条] 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。
  2. [国家公務員法第81条の3] 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。

<問題>

  1. 国家公務員法と検察庁法の関係は、前者は対象範囲が広い一般法、後者は対象範囲の狭い特別法にあたる。特別法である検察庁が退職年齢のみを定め勤務延長について言及していないのは、勤務延長を認めていないからであると解することが妥当であるという見解と、検察庁法は退職年齢に言及したのみであり、勤務延長については国家公務員法が適用される、という二つの意見について、特別法と一般法の優先という考え方を念頭に、どちらの考え方が妥当か、論じなさい。
  2. 検事長は任命権者が内閣であることから、黒川検事長の定年延長については閣議で決定した。安倍首相は国家公務員法の規定が適用されると解釈変更したと明らかにしたが、その解釈変更のプロセスについてはまだ完全に明らかになっていない。人事院や法務省のレベルでの解釈変更で十分なのか、閣議決定が必要な人事案件なので解釈変更も閣議決定が必要なのか、国家公務員法あるいは検察庁法の該当条文の変更が必要であるのか、論じなさい。

      ◇

<余談>このところつれづれなるままに、衆議院サイトの国会審議中継をみている。これがめっぽう面白い。野党議員が声を荒げて激怒して見せたり、妙に冷静な声で答弁する側を油断させようとしたり、答弁する側は意味不明の弁舌を繰り返したり、議事録に残る国会での答弁なので嘘は言っていないと言わんばかりの答えをしたり、閣僚によっては事務方の書いた答弁書を棒読みして、質問者の野党議員に「よく読めました」と褒められたり……。「森友」「加計」「桜」「検事長」と、大量の嘘を重ねてきた安倍政権――という感触は多くの人が抱いているのだが、国政調査権を持つ野党にしても、政府と与党と官僚の壁に阻まれ、その嘘を白日の下にさらすことができないでいる。見ている側にも切歯扼腕の方が多いことだろう。かつて発展途上国の政治過程を研究課題にしてきた私にとっては、今の日本の政治過程が、過去フィールドワークで足しげく訪れたどこかの国と似ていて、郷愁のような既視感がある。

 (2020.2.24  花崎泰雄)

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