30数年前、新聞の文芸欄に掲載していただいた原稿が出てきました。あまりに懐かしくてコピーしてしまいました。長女を授かったばかりの新米パパの迷作です。あの頃は純粋な心の持ち主だったんですよ。(笑)
その後、いろいろあり過ぎて、心も真っ暗な煤に覆われています。ハハハハ。ちなみに登場する子供の名前は、その後に授かった子供の名前の先取りしてます。せっかちだったんだなあ。
「次の日曜日に海へいこうか?」
お母さんが、いきなりてい案しました。
ちょうど晩ごはんの途中だったリューゴは、箸をごはんにつきさしたまま、お母さんの顔を見ました。あまりにビックリしたからです。
だって、家は商売をしていたので、今まで一度も、みんなそろって遊びにいったことがありません。いつもお母さんは、
「みんながごはんを食べられるように、お仕事がんばらないとね。ごめんね、みんな」
と済まなそうに、あやまってばかりでした。
それが、海へいこうだなんて、一体どうしたんだろうと、リューゴは不思議に思ったのです。
同じように晩ごはんを食べていた、弟のショーゴや妹のナツミも、信じられないと言った顔をしています。
「どうしたの?お母さん」
リューゴは思いきってたずねました。
「どうもしやしないよ。なに変な顔してんの、海へいくのが、そんなにうれしくないのかい」
お母さんはガッカリしたようでした。そりゃそうです。お母さんは、きっと子どもたちが、もっと喜ぶときたいしていたのです。
「そんなことないよ。うれしいさ。なア」
リューゴは、あわてて言うと、弟たちにも呼びかけました。
「うん、うれしいな。海って広いんでしょ」
ナツミが、はしゃいで言いました。
「泳いでもいいんでしょ。ぼく少しだけど泳げるようになったんだぞ」
ショーゴも、うれしくてたまらないふうです。スイミングスクールに通って、やっと泳げるようになったからです。
みんなが、とてもうれしがったので、お母さんも、やっとニコニコしました。
「お仕事のほう大丈夫なの?」
さすがリューゴは、お兄ちゃんです。もう新一年生になって、しっかりしてきました。ちゃんと質問もできるようになったのです。
「うん。お父さんが一人でがんばってくれるんだって」
お母さんが、そう言うと、とたんにみんなは元気がなくなりました。家族みんなでいけると思ったのに、やっぱりお父さんはいけないのです。お父さんは、るす番なのです。
「お父さんもいけばいいのに」
お父さんが大好きでたまらないショーゴが、つまらなさそうに言いました。
「そうよ、お父さんだけ、なかまはずれにしたら、かわいそうだわ」
ナツミも小さな口をとがらせました。
「一日ぐらい、お休みとっていけばいいのに。お父さんは、ぜったいいけないの?」
リューゴは、お母さんにききました。
「お店は休めないからね。でも、せっかくお父さんが、みんなに夏休みを楽しんでもらいたいって思ってんのよ。みんなが海へいかないなんて言ったら、きっとお父さん悲しくなってしまうよ。それでもいいかい?」
「……ううーん……」
お父さんが悲しむなんてイヤです。でも、やっぱりお父さんもいっしょにいってほしいのです。だから元気のないへんじになりました。
お母さんも子どもたちのようすに、
「ウーン」
と弱ってしまいました。
「ただいま!」
お父さんが帰ってきました。はたらいてつかれているのに、いつも元気いっぱいです。
「どうしたんだ?みんな」
その場のふんいきがおかしいのに気づいたお父さんは、だれにともなくたずねました。
お母さんが、さっきの話をせつめいすると、お父さんはニヤリと笑いました。
「なーんだ、それでか。おい、リューゴ、お前は海がきらいなのか?」
「好きだよ、とても」
「ショーゴは?」
「大好き!」
「それじゃナツミは?」
「いきたい!」
「じゃ問題はないじゃないか。みんな、お母さんといっしょに海へいって楽しんできなさい」
お父さんは、やっぱりニコニコして言いました。
「でも、お父さんがいかないと、つまらない」
「つまらないよ」
「つまらないもん」
子どもたちは声をそろえて言いました。
そこでお父さんは申しわけなさそうに言ったのです。
「お父さん、ほんと言うと、ぜんぜん泳げないんだ。だから海は大きらいなんだ」
お父さんのいがいなことばに、みんなはキョトンとしてしまいました。
「そんなお父さんを、みんなはムリヤリ海へつれていくつもりかい。どうだ?リューゴ」
お父さんにきかれてリューゴは考えこんでしまいました。
「みんなだって、きらいなところへムリヤリつれていかれても楽しくないだろ。だから、お父さんは海へいかないことにしたんだ。こんど山へいくときは、お父さんもいっしょにいくよ。山は大好きだから、そのときは、山のきらいなお母さんが、おるす番だ」
お父さんは、子どもひとりひとりの顔を見ながら、とてもわかりやすく話してくれました。
「これでも、みんなは海へいかないで、お父さんの仕事をてつだうって言うのかい?」
「ウウン、海へいく」
一番下のナツミが言いました。
「ぼくも海へいって泳ぐんだ」
二番目のショーゴも元気に言いました。
「ぼくも海へいってさ、絵日記にかくんだ」
さいごにリューゴが言いました。
お父さんは、やっぱりヒコヒコして、一人一人に大きくうなずいてくれました。
「それじゃ、もう一度きくわよ。今度の日曜日、お母さんと海へ遊びにいきたい人―!」
「ハーイ!」
「ハイ!」
「ハーイ!」
リューゴも、ショーゴも、ナツミも力いっぱい手をあげて返事をしました。
お父さんとお母さんは、顔を見あって、とても楽しそうに笑いました。
「アレ?これ、お父さんでしょ」
アルバムを見ていたリューゴが言いました。
そばにいたお母さんが、ソーッとのぞくと、お父さんの写真がはってありました。それも海水パンツで砂はまに立っているのです。
「お父さん、泳げないのに、こんなカッコしてるよ。だれか悪い人が、お父さんのきらいな海へムルヤリつれていったんだね。かわいそうな、お父さん」
お母さんはクスリと笑ってしまいました。だって、お父さんをムリヤリ(?)海へつれていったのは、お母さんだったからでした。
その後、いろいろあり過ぎて、心も真っ暗な煤に覆われています。ハハハハ。ちなみに登場する子供の名前は、その後に授かった子供の名前の先取りしてます。せっかちだったんだなあ。
「次の日曜日に海へいこうか?」
お母さんが、いきなりてい案しました。
ちょうど晩ごはんの途中だったリューゴは、箸をごはんにつきさしたまま、お母さんの顔を見ました。あまりにビックリしたからです。
だって、家は商売をしていたので、今まで一度も、みんなそろって遊びにいったことがありません。いつもお母さんは、
「みんながごはんを食べられるように、お仕事がんばらないとね。ごめんね、みんな」
と済まなそうに、あやまってばかりでした。
それが、海へいこうだなんて、一体どうしたんだろうと、リューゴは不思議に思ったのです。
同じように晩ごはんを食べていた、弟のショーゴや妹のナツミも、信じられないと言った顔をしています。
「どうしたの?お母さん」
リューゴは思いきってたずねました。
「どうもしやしないよ。なに変な顔してんの、海へいくのが、そんなにうれしくないのかい」
お母さんはガッカリしたようでした。そりゃそうです。お母さんは、きっと子どもたちが、もっと喜ぶときたいしていたのです。
「そんなことないよ。うれしいさ。なア」
リューゴは、あわてて言うと、弟たちにも呼びかけました。
「うん、うれしいな。海って広いんでしょ」
ナツミが、はしゃいで言いました。
「泳いでもいいんでしょ。ぼく少しだけど泳げるようになったんだぞ」
ショーゴも、うれしくてたまらないふうです。スイミングスクールに通って、やっと泳げるようになったからです。
みんなが、とてもうれしがったので、お母さんも、やっとニコニコしました。
「お仕事のほう大丈夫なの?」
さすがリューゴは、お兄ちゃんです。もう新一年生になって、しっかりしてきました。ちゃんと質問もできるようになったのです。
「うん。お父さんが一人でがんばってくれるんだって」
お母さんが、そう言うと、とたんにみんなは元気がなくなりました。家族みんなでいけると思ったのに、やっぱりお父さんはいけないのです。お父さんは、るす番なのです。
「お父さんもいけばいいのに」
お父さんが大好きでたまらないショーゴが、つまらなさそうに言いました。
「そうよ、お父さんだけ、なかまはずれにしたら、かわいそうだわ」
ナツミも小さな口をとがらせました。
「一日ぐらい、お休みとっていけばいいのに。お父さんは、ぜったいいけないの?」
リューゴは、お母さんにききました。
「お店は休めないからね。でも、せっかくお父さんが、みんなに夏休みを楽しんでもらいたいって思ってんのよ。みんなが海へいかないなんて言ったら、きっとお父さん悲しくなってしまうよ。それでもいいかい?」
「……ううーん……」
お父さんが悲しむなんてイヤです。でも、やっぱりお父さんもいっしょにいってほしいのです。だから元気のないへんじになりました。
お母さんも子どもたちのようすに、
「ウーン」
と弱ってしまいました。
「ただいま!」
お父さんが帰ってきました。はたらいてつかれているのに、いつも元気いっぱいです。
「どうしたんだ?みんな」
その場のふんいきがおかしいのに気づいたお父さんは、だれにともなくたずねました。
お母さんが、さっきの話をせつめいすると、お父さんはニヤリと笑いました。
「なーんだ、それでか。おい、リューゴ、お前は海がきらいなのか?」
「好きだよ、とても」
「ショーゴは?」
「大好き!」
「それじゃナツミは?」
「いきたい!」
「じゃ問題はないじゃないか。みんな、お母さんといっしょに海へいって楽しんできなさい」
お父さんは、やっぱりニコニコして言いました。
「でも、お父さんがいかないと、つまらない」
「つまらないよ」
「つまらないもん」
子どもたちは声をそろえて言いました。
そこでお父さんは申しわけなさそうに言ったのです。
「お父さん、ほんと言うと、ぜんぜん泳げないんだ。だから海は大きらいなんだ」
お父さんのいがいなことばに、みんなはキョトンとしてしまいました。
「そんなお父さんを、みんなはムリヤリ海へつれていくつもりかい。どうだ?リューゴ」
お父さんにきかれてリューゴは考えこんでしまいました。
「みんなだって、きらいなところへムリヤリつれていかれても楽しくないだろ。だから、お父さんは海へいかないことにしたんだ。こんど山へいくときは、お父さんもいっしょにいくよ。山は大好きだから、そのときは、山のきらいなお母さんが、おるす番だ」
お父さんは、子どもひとりひとりの顔を見ながら、とてもわかりやすく話してくれました。
「これでも、みんなは海へいかないで、お父さんの仕事をてつだうって言うのかい?」
「ウウン、海へいく」
一番下のナツミが言いました。
「ぼくも海へいって泳ぐんだ」
二番目のショーゴも元気に言いました。
「ぼくも海へいってさ、絵日記にかくんだ」
さいごにリューゴが言いました。
お父さんは、やっぱりヒコヒコして、一人一人に大きくうなずいてくれました。
「それじゃ、もう一度きくわよ。今度の日曜日、お母さんと海へ遊びにいきたい人―!」
「ハーイ!」
「ハイ!」
「ハーイ!」
リューゴも、ショーゴも、ナツミも力いっぱい手をあげて返事をしました。
お父さんとお母さんは、顔を見あって、とても楽しそうに笑いました。
「アレ?これ、お父さんでしょ」
アルバムを見ていたリューゴが言いました。
そばにいたお母さんが、ソーッとのぞくと、お父さんの写真がはってありました。それも海水パンツで砂はまに立っているのです。
「お父さん、泳げないのに、こんなカッコしてるよ。だれか悪い人が、お父さんのきらいな海へムルヤリつれていったんだね。かわいそうな、お父さん」
お母さんはクスリと笑ってしまいました。だって、お父さんをムリヤリ(?)海へつれていったのは、お母さんだったからでした。