冬の阿武隈川風景
石は生きている
自分の好きな詩を紹介するのは恐縮するが
高見順さんの詩集『死の淵より』(講談社文庫)が好きである
32歳の頃 重度身体障がい者の介護にかかわっていたときに
『死の淵より』の本に出会った
『死の淵より』は自分の介護観に大きな影響をもたらした
『死の淵より』のなかに「小石」の詩が収められている
小石
蹴らないでくれ
眠らせてほしい
もうここで
ただひたすら
眠らせてくれ
高見順さんは食道癌を患い
癌が進行してゆくなかで
死の淵をみつめ 病室で詩を綴られた
路傍にある小石を
何気なく蹴ったことがあった。
小石は
蹴らないでくれ
眠らせてほしい
と、静かに叫ぶ
高見順さんは
癌よ痛み増さないでくれ
眠らせてほしい
癌を小石に喩えている
小石も生きている
蹴らないで
そっと路傍に
そのまま置いて欲しい
拾年以上も昼夜臥床している老人の
生きてきた凄さに驚く
手足は拘縮し自ら寝返りもできない
躰は硬くなりじっとしている様は「石」のようでもある
老人の手をそっと握り続ける
そうすると手から老人の温もりが伝わってくる
躰を右側に向きを直して頂くと
陽が射す南の窓から季節の風を感じ
生きている、と実感する
寝たきり拾年
不自由さや痛み(傷み)にも耐え生きてきた
生かされたきたことに感謝し
あなたが言葉のかわりに握ってくれた手
目尻から泪が頬伝わり枕を濡らす
わたしはこのまま死んでいっても
また人間に生れてきたい
石のような躰であっても
わたしは生きている