1616 青木新門 『納棺夫日記』 文春文庫 生死をみつめる❶
『おくりびと』の映画を想い出した
一人暮らしの死から衝撃的な出来事を知った
死を見つめ、死に対峙する時間を持つことの意味を思い知らされた。
54頁~56頁を開いていきたい
今日も異常な現場に出会った。
古い平屋の一軒家で、一人暮らしの老人が
何ヵ月も誰も気づかず死んでいた。
物置のような部屋の真ん中に布団が敷いてあった。
「目の錯覚のせいか、少し盛り上がった布団が動いたような気がした。それよりも、
部屋の中に豆をばらまいたように見える白いものが気になった。
よく見ると、蛆(うじ)だと分かった。蛆が布団の中から出てきて、部屋中に広がり、
廊下まで這い出している。」
「お棺を置き、布団をはぐった瞬間、一瞬ぞっとした。後ろにいた警察官は顔をそむけ
後退り、箒を届けに来た男はなどは、家の外まで飛び出していった。
無数の蛆が肋骨の中で波打つように蠢(うごめ)いていたのである。」
「蛆を掃き集めているうちに、一匹一匹の蛆が鮮明に見えてきた。そして、蛆たちが
捕まるまいと必死に逃げているのに気づいた。柱をよじ登って逃げようとしているの
までいる。
蛆も生命なのだ。そう思うと蛆たちが光って見えた」
警察に「お棺を持ってきてくれ」、と連絡を受け
現場に出向いた青木さん
警察官と布団の端をもって、蛆ごとお棺の中へ遺体をそのまま流し込んだ。
老人の遺体に蛆が棲息し、蠢ていた様を見、青木さんは「蛆も生命なのだ」、と
蛆を愛おしく光って見えたと捉える。
この場面にもし自分が遭遇したら、蛆が蠢ている遺体を見つめることができたであろうか