新幹線の台車に亀裂が生じ,そのことで運行会社の経営トップが調査結果を報告する会見をしました。席上,冒頭で語ったことばでわたしが引っ掛かったのは次のものでした。
「改めてお詫びを申し上げたいと思います」
なんだか奥歯に物が挟まったような。これって,「改めてお詫びを申し上げたいと(いうふうに)思います」のこと。これが精一杯の丁寧さだと思っていらっしゃるのでしょうか。「申し上げたい」には,すでに気持ちが込められています。なのに,「申し上げたい」という気持ちがまた湧いて来たとでもいいたげ。「わたしの思い方によると,お詫びを申し上げることになります」の意なので,これではくどくて説明的過ぎます。
さらに,車両に乗り合わせた乗客や国民がこのニュースを視聴しているのですから,まさに謝罪すべき場なのです。
思うだけならどう思おうと個人の自由。こころを相手に伝えたいのなら内容をズバリいい切ればそれでよいのでは? これがわたしの印象です。
別の場で,製造会社のトップも会見を行いました。同じ文脈を次のように述べていました。
「お詫びを申し上げます」
こちらは歯切れがいいですね。明快です。スパッとしています。しっかり「お詫びを申し上げている」のですから。聞いていて違和感がなし。ことばは短いほど整理づき,内容が端的に伝わります。
同じ日,別のニュースを見ているとこんなことばが出て来ました。
「とっていただきたいと考えております」
なんと回りくどいいい方! 「いただきたい」という表現には,要望・希望の気持ちがすでに含まれています。なのに,「考えております」なんてなぜ付け足すのでしょうか。「とっていただきたいと(いうふうに)考えております」。なんと遠回しな述べ方! 相手に対して「とっていただきたい」というこころがあるのですから,「とっていただきたいです」「とっていただきますようお願いいたします」で充分。
さらに別のニュースの中で,こんなことばも。
「伝えていきたいというふうに思います」
極めつけですね。どうして「伝えてまいります」「伝えていくつもりです」とでもいえないのかな。
ちなみに,こうしたくどいいい回しをする傾向が強いのは議員さん方のように感じます。それで丁寧さが伝わるとでもお考えなのでしょう。これでは実行度,誠実度はまったく伝わってきません。困った日本語です。
高校時代,恩師から言われたことを思い出します。「“思う(考える)”を,そんなふうに使っちゃダメ。皆さんがどう思おう(考えよう)が自由。そんなバカ丁寧な誤用を犯さず,伝えたい内容をしっかり伝えられるようにことばの力を磨きなさい」「英語なら,I hopeで完結。その前にI think that を付けちゃおかしくなるでしょう」と。
以来,そのことばが気になることが度々。今は感謝しています。
【付記】写真は本文とは関係ありません。3月に入ってホシノヒトミで撮影したものです。