●今日の一枚 209●
Nina Simone
At The Village Gate
久々の完全オフだった。妻は持ち帰りの仕事で四苦八苦していたので、子どもたちをつれて外出した。スキーにでも連れて行こうとも考えたが、長男の希望で、隣町の(といっても他県だが……)バッティングセンターへいった。バッティングセンターで、私と長男と次男の3人で5000円分打ち、焼肉屋でたらふく食べ、その近くの公園でキャッチボールをした。太平洋を一望する公共の日帰り温泉で身体を温めて帰宅したのは、PM6:00過ぎだ。思えば、子どもたちとこころおきなく遊ぶのもしばらくぶりのことだった。長男がスキー場ではなく、キャッチボールを希望したのも、私とのかかわりを求めていたのかもしれない。子どもたちは、満足したのか、遊びつかれたのか、8:00には眠ってしまった。
ニーナ・シモンの1961年録音盤、『アット・ザ・ヴィレッジ・ゲイト』だ。ニーナ・シモンがジャズではないといわれればそれでもいい。それでも私はニーナの世界が好きだ。好きだというよりも、引きずりこまれ魅了されるといったほうがいいだろうか。どうすることもできないような吸引力を感じるのだ。私をひきつけるのは、歌やサウンドではなく、その表現の全体性としての「世界」とでもいうべきものだ。その世界は、あまりにも私にフィットしているため、まるで自分のために用意されたものであるかのようだ。世間知らずで内向的な中学生が太宰治を読みふけるように、私はニーナ・シモンに熱中したものだ。それほど遠い昔のことではない。その余韻は今も続いているのだ。ニーナ・シモンの世界から感じるのは、「静謐さ」だ。バラードはもちろんだが、どんなアップテンポの曲を歌う時も、どんな激しい歌い回しをしているときも、その背後には不思議な「静謐さ」が漂っている。
子どもたちが寝静まった後の書斎で、私は安ウイスキーをすすりながら、まるで母親の子宮の中の胎児のように、心穏やかに、ニーナ・シモンの歌とピアノが創り出す世界にどっぷりとつかっている。
[過去の記事] ニーナ・シモン 『ニーナとピアノ』