WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

シークレット・ポリスマン・コンサート

2012年09月23日 | 今日の一枚(various artist)

☆今日の一枚 334☆

The Secret Policeman's Concert

 昨日、Book Off でスティングの『ソウル・ゲージ』の中古CDを、何と300円で買ったのだが、そういえばスティングのアルバムはカセットテープでたくさんあったよなと思って探してみると、すっかり忘れていた面白いアルバムを発見した。1981年の『シークレット・ポリスマン・コンサート』のライブ録音だ。AXIA GT-Ⅰx(nomal position)というテープに録音されており、やや音の広がりが劣る気はするものの、それほど音質が悪いとは感じない。針のノイズの存在から音源はLPだと思われるが、webで調べてみるとLPの曲順は下の通り。私のカセットテープとは若干曲順が異なっているようだ。あるいは、テープに収まるように編集したのかもしれない。

SIDE 1
1.ROXANNE/スティング
2.MESSAGE IN A BOTTLE 孤独のメッセージ/スティング
3.CAUSE WE'VE ENDED ASLOVERS 哀しみの恋人たち
  /ジェフ・ベック&エリック・クラプトン
4.FARTHER UP THE ROAD/ 〃
5.CROSSROADS/ 〃
6.I DON'T LIKE MONDAYS 哀愁のマンディ
  /ボブ・ゲルドフ&ジョニー・フィンガーズ
SIDE 2
1.IN THE AIR TONIGHT 夜の囁き/フィル・コリンズ
2.THE ROOF IS LEAKING 天を仰いで/ 〃
3.THE UNIVERSAL SOLDIER/ドノバン
4.CATCH THE WIND/ 〃
5.I SHALL BE RELEASED/シークレット・ポリスマン

 『シークレット・ポリスマン・コンサート』は、1981年にアムネスティ・インターナショナルに賛同するアーチスト達によって、ロンドンのシアター・ロイヤルで数回にわたり開かれたコンサートである。アムネスティ・インターナショナルは、政治犯として不当に投獄されている人々、いわゆる「良心の囚人」の解放と人権の擁護を訴える組織だが、当時大学生だった私は、教育学の先生が南アフリカのアパルトヘイトに反対する立場から、投獄されていたネルソン・マンデーラの救済活動をやっていた影響を受け、アムネスティーには特に関心があった。実際、南アフリカに行くことを勧められ、その気になったこともあったのだ。結局、日本中世史の勉強のため断念・挫折したのだが・・・・。

 さて、ギターの2大ヒーロー、ジェフ・ベックとエリック・クラプトンの初競演ということで話題となったこのコンサートだが、今聴いて私の心をとらえるのはスティングがギターの弾き語りで歌う「ロクサーヌ」と「孤独のメッセージ」の美しさである。原曲の芯の部分をこれだけ純粋に抽出されると、感動、万感胸にせまるものがある。ブームタウン・ラッツのボブ・ゲルドフがピアノの弾き語りで歌う「哀愁のマンディ」もなかなかいい。何か心が熱くなる。

 ちょっと前のバングラディシュ救済コンサートはもちろんだか、USA for Africa といい、バンド・エイドといい、少なくともこのころまでは、批判精神をもって社会的活動を行うロック・ミュージシャンは確かに存在したのだな、と改めて思う。最近の若いミュージシャンはどうなのだろう。

 スティングについては、この前取り上げた『ナッシング・ライク・ザ・サン』に収録されている「孤独のダンス」も、チリのピノチェト軍事独裁政権下の人権抑圧を批判したもので、反体制者として逮捕され行方不明となった配偶者・息子の解放を訴える女性たちが、路上で形見の衣服を抱き一人一人踊るさまを歌ったものだった。また、ブラジルの先住民カイヤポ族らとともに熱帯雨林保護活動も行っているらしい。最近では、プーチン政権を批判して逮捕されたロシアのパンク・ロックバンド「プッシー・ライオネット」を擁護し、ロシア政府を批判する発言をして注目されたようだ。この発言をモスクワで行ったことがすごい。さすがに、アムネスティー・インターナショナルの支持者、スティングだ。

「プッシー・ライオットのメンバーが7年も刑務所に入るというのは、あまりにひどい。自分の意見を言うのは、民主主義では合法で最も基本的な権利です。政治家は異なる意見に寛容でないといけない。このバランス感覚やユーモアのセンスは、強さの表れであって、弱さを示すものではありません。ロシア政府は、この誤った起訴を取り下げ、3人のアーティストを普通の生活に戻し、子どもたちの元に帰すべきです。」

 迂闊にも私は、この問題を今日まで知らなかった。アムネスティーは今後もプッシー・ライオットのメンバーの釈放を求めるキャンペーンを続けていくということであり、注目していかねばならない。


スティングの作品におけるブランフォード・マルサリス

2012年09月23日 | 今日の一枚(S-T)

☆今日の一枚 333☆

Sting

Nothing Like The Sun

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 スティングは、1980年代後半にジャズ風味のクォリティーの高いアルバムを連発した。かくいう私もこのころのスティングはよく聴いたし、現在でもたまに聴くことがある。現在という地点から見ても、決して古びていない作品だと思う。しかしどういうわけか、現在私がCDで所有しているアルバムはこの一枚のみである。これ以外のものはほとんどカセットテープである。何枚かLPを所有していた記憶があるがちょっと見当たらない。(実は、昨日、Book Offで『ソウル・ゲージ』の中古CDを買ったので、本当は持っているCDは2枚になった。だから突然スティングの記事を書こうとなどと思ったわけであるが・・・・。『ソウル・ゲージ』の中古CDは、なんと300円だった。)

 スティングの1987年作品『ナッシング・ライク・ザ・サン』。もはや、スティングの名を元ポリスのベーシストなどと修飾する必要はあるまい。それほどまでに彼が切り開いてきた独自の音楽世界は質の高いものであったし、実際それによって、ポリスと同等かあるいはそれ以上の高い評価と大きな名声を獲得してきたからである。スティングは、1984年頃から、ジャズ・サックス奏者のブランフォード・マルサリスや、キーボード奏者のケニー・カークランドらと独自の音楽活動を開始したが、このアルバムはそれらの活動の最もソフィスティケートされた成果といってもいいだろう。例えば、ライブ・アルバムの『ブリング・オン・ザ・ナイト』などと比べると、荒々しさや生々しさ、ジャズ的な面白さは影をひそめるが、彼らの音楽をより整った形で楽しむことができる。スティングのしゃがれ声のボーカルもなかなか味わい深いものであるが、やはりサウンドに特別の風味を加味しているのはブランフォード・マルサリスのサックスであろう。

 後藤雅洋氏の『ジャズ喫茶 四谷「いーぐる」の100枚』(集英社新書)は、1960年代から現在まで、後藤氏が経営するジャズ喫茶「いーぐる」を彩った名演&名曲を紹介した本であり、後藤氏自身もいつになくリラックスした語り口で興味深い。後藤氏は、この本の中でスティングの『ブリング・オン・ザ・ナイト』を取り上げているのだが、ブランフォード・マルサリスとケニー・カークランドの演奏について、「傑作に勘定していい演奏である」と高い評価を与えている。特に、ブランフォード・マルサリスについては多くの紙数が費やされており、次のような記述がなされている。

「デビュー当時、ブランフォードはウィントンの兄としての立場しかなかったが、次第に独自性を発揮するようになった。」

「ジャズ・アルバムとして受け取られることのない作品で、リーダーでもないとなれば、よい意味での自由奔放さが発揮できる。その気ままさがジャズマンとしてのブランフォードに火をつけた。リーダー作では弟のやることに対する対抗意識か、ちょっとばかりコンセプト先行の堅苦しい部分があったが、単なるプレーヤーに徹することのできる場面では、ホンネ出しまくりの、”ブリブリ”テナーマンに変身だ。」

 私も基本的に同感である。

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