WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

逝ってしまったあんたには

2014年12月25日 | 今日の一枚(C-D)

●今日の一枚 396●

Cannonball Adderley

In Chicago

 彼が亡くなったことを知ったのは、その死から5年も経過してからだった。私より3つ年下の彼とは、職場で一緒になり、同じ傾向の音楽を好み、同じような文化観を持っていたことから意気投合した。我々はまだ独身で、毎日のように飲み歩き、田舎の夜の街を駆け巡った。今よりずっと若い頃、そう、バブルの頃の話だ。一緒に酒を飲み、音楽を聴き、スキーに行き、そして議論した。もしかしたら我々は、周囲の人たちからは「セット」として認識されていたかもしれない。そのうち、お互いに異動し、彼は仙台に、私は現在の街に住むようになった。時折、何かの会合で私が仙台に行けば、酒を飲み、近況を語り、意見を交換した。お互いに仕事が忙しくなり、さらに家庭を持つようになると会う機会はめっきり減ってしまった。年賀状を出し合うような「硬い」関係ではなかったし、またそういったガラでもなかったが、元気でやっているに違いないと思っていた。そう信じて疑わなかった。

 去年のことだ。その頃一緒だった他の友人と飲んだ際、「あいつ残念だったよな」といわれ、彼の死を知った。主任だった職場のセクションの飲み会の後、家に帰って床につき、朝冷たくなっているところを発見されたのだという。

 何を語ればいいのだろう。彼の死について考えると頭が混乱する。自分の中から何かが抜け落ちてしまったようだ。同じ時代を生き、多くの同じ時間を過ごした。年下の彼から本当に多くのことを教えられ、そして考えさせられた。そういう存在だった。

 キャノンボール・アダレイの1959年録音作品、『イン・シカゴ』。コルトレーンを含む、マイルス・ディヴィス・セクステットのメンバーとともに繰り広げたセッションである。パーソネルは、Cannonball Adderley(as)、John coltrane(ts)、Wynton Kelly(p)、Paul Chambers(b)、Jimmy Cobb(ds)である。ジャズらしいジャズだ。正統的ジャズである。①「ライムハウス・ブルース」、④「グランド・セントラル」の疾走感や、②「アラバマに星落ちて」、⑤「ユーアー・ア・ウィーヴァー・オブ・ドリームス」の歌心に魅了される。キャノンボールのアルトはマイルス・グループの時とは違って、自由奔放だ。コルトレーンの即興も素晴らしい。ジャズ史を彩る、あの革命的な1959年の録音作品の中にあっても、光を放つ一枚だろう。 

 ドラムスのジミー・コブ。もう20年以上も前のことだが生の演奏を見たことがある。岩手・一関のジャズ喫茶「ベイシー」でのライブだった。ナット・アダレイのグループでの演奏だったが、理知的でドラムスの求道者然とした風貌にすっかり魅了された。一緒に行ったのは彼だった。彼は「かっちょいい」と語り、私もまったく同感だと思った。

 ジミー・コブの演奏を聴くと彼を思い出す。彼の死を知る前からずっとそうだった。


想い出の救出

2014年12月25日 | 今日の一枚(A-B)

●今日の一枚 395●

Benny Golson with Wynton Kelly Trio

Turning Point

 DVDレコーダーのHDDがピンチである。調子いい時と悪い時があり、悪い時は再生できない。だんだん再生できない時が増えてきており、もう壊れるのは時間の問題のようだ。もうかなりの年数使っているものだからある意味仕方がないが、問題はその中に保存されている子供たちの幼い頃のビデオだ。想い出を救出すべく、機械が調子の良い時に少しずつDVDにコピーを続けてきたが、それももう限界のようだ。コピー不可能な時もでてきた。いつクラッシュしても不思議ではない状況のようだ。一応、USB-HDDにはコピーしたが、DVDレコーダー本体が壊れてしまえばもう再生はできない。USB-HDDからは直接DVDにコピーできない機器であり、そのUSB-HDD自体も他の機器では再生不可能のようだ。業者に依頼すれば数十万の費用を要するらしく、まったく困りはてている。とりあえずは、機械のご機嫌をうかがいながらDVDへのコピーを続けるしかあるまい。

 ベニー・ゴルソンの1962年録音作品、『ターニング・ポイント』である。バックを務めるのは、Wynton Kelly(p)、Paul Chambers(b)、Jimmy Cobb(ds) のトリオだ。"ゴルソン・ハーモニー"と呼ばれる特徴のある編曲で知られるベニー・ゴルソンだが、これは初のワンホーン・アルバムである。得意のハーモニーを封印して、サックスホーン奏者として直球勝負といったところだろうか。ロングブレスを生かしたのびやかなブローが気持ちいい。感情の起伏が少ない、ある意味理知的な演奏は、どちらかというとバラード演奏にその良さが出ているように思う。ウイントン・ケリーのコロコロとしたピアノものびやかなサックスのアクセントとなって面白い。いい作品だと思う。

 Jimmy Cobb・・・・。思い出深いドラマーだ。

 いい音楽聴き、こころ穏やかに過ごそうと思いつつも、私の頭の中はいつクラッシュするともしれないDVDレコーダからどのように想い出を救出するかでいっぱいである。