WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

トム・ウェイツとリッキー・リー・ジョーンズ④

2021年01月02日 | 今日の一枚(S-T)
◎今日の一枚 458◎
Tom Waits
Blue Valentines
 私たちは同じ通りの周辺を歩いているの。私たち2人にとっては、主にジャズのためにこういう状況になったのだと思うわ。私たちは人生のジャズ側を歩いているのよ。
 リッキー・リー・ジョーンズが、トム・ウェイツについて語った言葉だ。《ジャズ》という言葉を使っているところが興味深い。二人の音楽からは、ジャズの濃厚な影響が感じられるからだ。音楽が二人を結び付け、リッキー・リー・ジョーンズの音楽的成功が二人を引き離したということになるのだろうか。本当のところは誰にも分らない。
 離別した後のトム・ウェイツとリッキー・リー・ジョーンズは別々の道を歩んだ。以後、共演したこともないようだ。
 リッキー・リー・ジョーンズは、商業的な意味では、デビュー・アルバムのような大ヒット作には恵まれなかったが、時代に媚びない音楽を作り続けた。1980年代後半には数年間音楽活動を中断したものの、その後活動を再開し、個性的でクオリティーの高いアルバムを発表し続けている。

 一方、トム・ウェイツも個性的な作品を発表し続けた。すでに、音楽業界内では高い評価を得ていたが、1985年の『レイン・ドックス』のヒットによって、その音楽は一般の人々にも広く知られるようになった。初期の作品群も名盤として再評価されるようになり、1993年と2000年にはグラミー賞を受けている。下層の人々をユーモラスに描きながらも温かい目で見つめる作風は多くの支持を集め、2000年代以降も、たびたびグラミー賞にノミネートされている。2011年には《ロックの殿堂》入りを果たし、「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガー」 や、「Q誌の選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガー」 にも選ばれている。
 私は思うのだが、《トム・ウェイツ》という言葉は、その個性的で独特の音楽ゆえに、もはや人名ではなく、一つのジャンルとしてもいいのではなかろうか。
  
 今日の一枚は、美しいジャケットが際立つ、トム・ウェイツの1978年『ブルー・ヴァレンタイン』である。全編にわたりジャズ・テイストが色濃く反映したアルバムだ。時にビートに乗り、時にしっとりと繊細に歌うトム・ウェイツを堪能したい。最後の曲、⑩ Blue Valentines が終わった後の、どうしようもなく深い静寂感が、この作品の素晴しさを表している。このアルバムは、リッキー・リー・ジョーンズと恋人同士だった時期のアルバムであり、ジャケットの裏に使われた写真は、トム・ウェイツとリッキー・リー・ジョーンズのものだという。