◎今日の一枚 461◎
Bill Evans Trio
Moon Beams
昨日は、妻と仙台の宮城県美術館で開催されている「奈良・中宮寺の国宝展」を見学に行ってきた。コロナ禍の中,仙台に行くのはやや躊躇したが、決行することにした。双璧の広隆寺の《半跏思惟像》は以前見学したことがあったが、不覚にも中宮寺の《半跏思惟像》の実物をまだ見たことがなかったのだ。予想に反して、会場は大盛況であり、はっきりいって密だった。仕事柄、コロナウィルスに感染しては困る。我ながら馬鹿みたいだったが、マスクを二重に付け、神経質にソーシャルディスタンスを保って見学した。
実物の《中宮寺半跏思惟像》は、写真で見るそれとはだいぶ違った印象だった。《中宮寺半跏思惟像》は、教科書的にいえば飛鳥時代の南梁様式に分類されるものだが、その神秘的なほほえみ(アルカイックスマイル)は、例えば北魏様式の法隆寺釈迦三尊像のそれとよく似ているように感じた。一方、清新な若々しさを感じる筋肉の付き方、ある意味肉感的ともいえるリアリズムは、白鳳時代の薬師寺薬師三尊像などを彷彿させるものだった。また、全体的には柔らかで美しいフォルムだが、接近してみると手足の細部は意外なほど無骨な印象を受けた。
《中宮寺半跏思惟像》を見て、なぜだか無性にビル・エヴァンスが聴きたくなった。帰ってきて聴いたのは、ビル・エヴァンス・トリオの『ムーン・ビームス』である。Chuch Israels(b)、Paul Motian(ds)の1962年録音(Riverside)である。このアルバムは、ずっと以前に(2007年だ)取り上げたことがあったが(→こちら)、ブログをOCNからgooに移行した所為か、以前の記事はフォームが乱れてしまったようだ。
全編にわたって、繊細で美しい演奏である。②Polka Dots And Moonbeams は、珠玉の名演である。曲も美しい。私の生活の中で、ふとした時にこの曲が頭をよぎることがよくある。もちろん、すべてこの演奏である。あまりの美しさに涙が出そうになる。ベースがスコット・ラファロだったら、あるいは違う意味でもっと透徹したすごい演奏が録音されたのかもしれない。けれども、おそらくは、このような、柔らかな美しさをもった演奏にはならなかったのではないか、と思う。チャック・イスラエルズには彼の良さがある。