痛いほどの太陽の熱を癒すかのように太平洋から海風が吹いた
海は光を反射して白く輝き
船はその海を切り裂くように進む
モノクロームのような記憶
10代最後の夏を南紀白浜で過ごした
2か月程、ホテルの住み込みの従業員として寮で寝泊まりした
ホテルは海に突き出した崖の上にあって
ホテルの敷地からドーム型の橋で海中展望塔と繫がっていた
海から吹き上げる風が松の木の枝を揺らし
鳶は縛り付けられた地上の人間連中をあざ笑うかのように高い空を風にまかせて自由に飛んだ
温泉街を見下ろすと三日月形に砂浜の続く白良浜と遠くに5円玉のような円月島が見えた
ホテル前の坂を下ると海際の立ち寄り湯から白い湯気が上がり
小さな魚港前の短いトンネルを抜けると温泉街があって
何軒かのお土産物屋の並びに鄙びたストリップ劇場とパチンコ屋があった
浜沿いの道路に眩しい陽射しが降り注いで
カラフルな水着を着けた娘達が賑やかにそぞろ歩いた
どこかのラジカセから大瀧詠一のLong vacationが流れていた
「お姉ちゃん、今晩どっかに遊びに行かへん?」
「あほ!どっかへ行けよ」
毎日、ナンパしたけどひっかからんかったな