HIROZOU

おっさんの夜明け

再会

2022-02-16 17:24:36 | メモリー

今日も昼に風呂屋に行ったら洗い場でお客さんが倒れて救急車を呼んでた

最近、よく風呂屋で倒れる人がおるんや

昔、働いていた病院が救急病院だった

人出がいるので医者と看護師だけじゃ無くてリハビリの僕らも事務当直があった

ストレッチャーで患者さんを運んだり、いろんなトラブルに対処したり

テレビでは必然医者と看護師がクローズアップされるがいろんなスタッフの手助けが必要なんだ

ある日、僕の事務当直の晩

ちょうど今頃の時期寒い冬の夜

救急車が駅前で転がっていたおっさんの浮浪者を乗せて来た

救急隊と一緒に処置室に入ってベッドに乗せたら異様な悪臭がする

寒い外ではそれほどでも無かったんだが

暖房の効いた室内に入った途端、長年服に染み込んだ糞尿が溶け出したんだ

もう目に染みるような臭い

看護師が住所とか名前をおっさんに聞いたらぼそぼそとしゃべりだした

「わしは家は高知やきに」

それを聞いた看護師が僕に

「あんたと同じじゃない」

笑いながら言った

「僕は違いますよ僕はこっちに家はありますもん」

おっさんはぼそぼそと何やら言っていたが

僕は浮浪者のおっさんの方言を聞いていてぞっとした・・・

(わしの田舎の人間や・・)

うちの田舎は大阪から船の定期便が昔から就航していてさらに隣町が徳島県だから

関西弁と阿波弁の混じった独特の方言を話していた

僕は恐々浮浪者のおっさんの顔をそっと覗き込んだ

もちろん、おっさんと目を合わせないように

驚いた

(タケにぃ!)

うちの田舎では身内でも親戚でも無いけど近所の若い衆に

名前の後に‘にぃ,を付けて呼ぶ風習があった

看護師から「あんたと同郷ね」と言われたけど

(同郷どころか知り合いじゃ)

タケにぃが僕の顔をチラチラと見るんだけど

たんびにさっと顔をかわして悟られないようにした

タケにぃは僕の顔なんかもう覚えては無かっただろうけれど

僕はタケにぃのしゃべる方言ですぐに分かった

僕はその時、タケにぃの前で完璧な標準語で通した

もちろんタケにぃに

「タケにぃわしじゃわしじゃ・・」

とは絶対に言わなかった

もちろん周りのスタッフにもけっして知り合いだと言わなかった

それにしてもタケにぃ

四国のちっぽけな田舎町からこの関東の街でなにしとるんや・・

と思った

ましてや、わしの勤める職場のわしの当直の晩に

タケにぃ看護師さんやら助手さんに体を綺麗に拭いてもらった明け方

病院から逃げた




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