何気に図書館で借りた
はとバスの話
両親を東京に呼んで3人で、はとバスに乗ったのはもう何年前だったか
新幹線で上京した両親と東京駅で待ち合わせた
田舎の無人駅じゃ無いんだから東京駅で待ち合わせても落ち合う場所を決めてなかったから
なかなか会えなくて何度か呼び出しのアナウンスをしてもらって
1時間以上かかってようやく会えたんだ
もちろん携帯電話なんて無い時代
田舎者の年寄り夫婦が心細がってるんだと思うと気が焦った・・・
ってもう僕もそんな歳やん
バスに乗って両親の後ろの席に座ったら僕の後ろの席に
同じように上京した両親を呼んで、はとバスで東京見物をさせている同じ年ぐらいの女性がいた
あの頃は田舎から親が出てくると、はとバスに乗せるのがポピュラーだった
「ここはなあ皇居やけんど陛下はここにはおらんがや」
「あいはなあ不二家にいっぺん入ったけんど値段が高いきにそれっきりや」
あい=自分
たまに知った場所を通ると親に説明するんだけど
田舎者丸出しの方言を他人に聞かれると恥ずかしいからぼそぼそと話した
後ろの席の女性もぼそぼそと親に説明してた
今となってはどんなコースを走ったか記憶にないけど
その日の晩飯は銀座のすし屋に入った
親父が・・
「わしは銀座で寿司を食ってるんだな」
とぽつりと言った
母親が千疋屋に入って田舎のみかん山で作っているポンカンの値段を見て
「たまるか!ポンカン一つ300円で売っとる」
と驚いた
そう言えばこの日がうちの両親共、東京に初めて出てきたんだ
たぶん夫婦で旅に出たのも初めてだったんだろう
その晩は無理をして赤坂プリンスホテルに部屋を取った
大きな窓の眼下に東京の夜景がまたたいてた
僕が生前の両親にした最初で最後の親孝行