1981年12月24日 京都四条河原町通りPM7時パチンコ屋を出た
「ちきしょう!あと100円か200円突っ込めば7が揃うたんやけど」
「種銭どころか帰りの電車賃までつぎ込んでしもうた」
「それにしても寒う・・そう言えば今日はクリスマスやな」
リンリンリン~♪ダンシンオーナイト♪言葉にすれば~♪
街にクリスマスソングと、もんた&ブラザーズの‘ダンシングオールナイト,が流れてた
比叡おろしが通りに吹きつけ雪こそ降って無かったが寒い寒いクリスマスの晩
安い革ジャンもどきの黒いジャンバーの襟を立て震えながら河原町をさまよい歩いた
木屋町の飲み屋から暖かい灯りが漏れ店の中から笑い声が聞こえた
「あの店の中は温うて美味しいもん食べてるんやろな」
「わし残金30円じゃ缶コーヒーも飲まれへん・・問題はどうやって大阪まで帰るかやな」
ふと見ると橋の手前に交番があった
「おまわりさん200円貸して貰えんやろか?」
「200円か・・しゃーないな・・やるわ!」
「ほんなわけに行きませんわ今日中に返しに来ます」
「そうか・・そしたら返してな」
四条大橋の上から鴨川を覗くと川面に湯気が漂っていた
(わしこんなんやロクな人生を送らんな)
(将来、どないなるやろ)
川の中に映った自分の顔の横に恐ろし気な幽霊が顔が並んだ
そうしたら川面に自分の小さかった頃の記憶が蘇った
英語にそろばん、習字に進研ゼミ、高い月謝で親は習い事をさせてくれたけど
どれもモノにならなかった。
学校では教師にいつも「あほう、あほう、このボケ」と蔑まされた
隣の幽霊の顔が変わった
川面に映った現在の自分
お金があるとパチンコ屋、無くなると母親に無心
仕事も勉強もやらず、毎日のんべんだらりと、バイトをやってもすぐクビに
また隣の顔が変わった
どこかの貧相なおっさんの顔に
おっさんに聞いてみた・・
「あなたは悪魔ですか?死神ですか?」
「わしか?わしは未来のお前じゃ!」
「えっ!未来の僕僕の未来はやっぱりホームレスか乞食ですか?」
「いや、貧乏は貧乏やけど乞食までは落ちへんな」
「ほんまですか?世間一般並みの未来ですか?」
「まあまあやな、なんとかなるもんや」
そうやって未来の僕の顔は消えて行った
もちろんそんな記憶も消えた
今日はさぶいね・・さっぶい、さっぶい
さっぶいよ、今月はもうクリスマスなんだから
クリスマス・・の思い出ってあんまり良い思い出って無いな
そもそも思い出って誰に聞いても嫌な思い出しか思い付かないそうだね
良い事ってすぐ忘れちゃう
虐めた事はすぐに忘れても虐められた事はずっと覚えてる
僕が小さい頃のクリスマスってまだプレゼントを貰う事なんて無い時代だったけど
それでも普段食べられない鳥のもも肉や安いショートケーキぐらいは食べられた
買って貰えたのか貰えなかったか忘れたけど
サンタの赤い長靴に入ったお菓子の詰め合わせは憧れだった
大人になってバブルな時代
高級ホテルとフランス料理、プレゼントはティファニーのオープンハート
僕には何の話か分からなかった