学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

小出楢重の「ガラス絵の話」

2017-02-03 19:25:44 | 読書感想
現在、東京の府中市美術館で「ガラス絵 幻惑の200年史」展を開催しています。ガラス絵とは、ガラスの表面に油絵具や水溶性絵具で絵を描き、描いた面の逆側から鑑賞するという仕組みです。描く順番を間違えるとまずいことになるわけで、例えば背景を一色でベタッと先に塗ってしまうともう何も描けなくなってしまいます。これまで、芹沢銈介や川上澄生のガラス絵を少し観たことがありますが、ガラス絵のみを一同に展示した展覧会はなかなかありませんので、ぜひ行ってみたいと思っていました。

と、その前にガラス絵の予習をしておきたいと思い、『小出楢重随筆集』(芳賀徹編、岩波書店、1987年)収録「楢重雑筆」の「ガラス絵の話」を読むことにしました。書棚から本を取り出して、ページを観るとびっくり。扉がシミだらけになっていました。それほど邪険に扱っていたわけではないのだけれど…。思えば、この本を購入したのは私が大学生のときで、それ以来の付き合いとなれば、まあ私も本も年を重ねたもので仕方がありませんね。

肝心の文字を読むことに関しては支障はなし。「ガラス絵の話」は洋画家小出楢重(1887~1931)がガラス絵の種類、歴史、技法、額縁などについて述べたものです。結論として、府中市美術館でガラス絵の展覧会を観るのなら、ぜひとも事前に読んでおくことをオススメします。なぜなら、まずガラス絵のことが概略としてよく分かるし、図版になっている小出のガラス絵も展覧会に展示されています。もっと深いところでは、『小出楢重随筆集』収録「めでたき風景」の「西洋館漫歩」で述べている小出の好きな風景のひとつである旧大阪府庁舎を描いたガラス絵も観ることができます。このほか、「表現法として真とに思い切った不精なやり方」であるガラス面に芸者の写真を貼り付けた作品もあり、展覧会をより楽しめること間違いなしです。

残念なことに『小出楢重随筆集』は現在絶版のようですが、手に入らなければ図書館で借りられますし、ウェブサイトの「青空文庫」で読むこともできます。時間のある方はぜひ一読してから、府中市美術館へ出掛けてみてはいかがでしょうか。