学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

府中市美術館「ガラス絵 幻惑の200年史」展

2017-02-05 20:38:47 | 展覧会感想
そうして、私は小出の著作で予習したあと、府中市美術館の「ガラス絵 幻惑の200年史」展を観に行きました。

簡単に展示構成を述べると、まずガラス絵の制作方法を各段階ごとに実物の資料を使って紹介(制作方法はこれですっきりわかる)。次にヨーロッパ、東南アジア、中国、日本とガラス絵の伝播を辿ります。そして、作家が制作したガラス絵の初期の例として小出楢重、長谷川利行にスポットが当てられ、その後の芹沢銈介、川上澄生、藤田嗣治らの多彩な表現が花開く、といった内容となります。

最も初めに展示されているのは十七世紀ドイツで制作された《寓意画》ですが、その解説にガラス絵は版の制作方法からヒントを得た云々と書いてあります。確かに描いた面が反転したり、ひっかいて線を出したりするところは版の制作と似ているところがある。そういえば、展覧会で展示されている作家に川上澄生、畦地梅太郎、前田藤四郎、清宮質文、深沢幸雄ら版画家の名前が揃っています。とすると、版を扱う作家は、割合ガラス絵に違和感なく入ってゆけたのかもしれません。「版」の視点で観ていくと、なかなか面白いですね。

さて、私はこのあいだのブログで芹沢銈介の作風は明るくてはなやかであると書きました。展示されている芹沢が制作したガラス絵は、おそらく自身のコレクションがモチーフとなっているのでしょうが、《スペインの椅子》、《洋書》、《古玩具群》などの静物が取り上げられています。これらの作品を眺めていくと感じるのは、芹沢のガラス絵には「明るくてはなやか」な要素はほとんど無くて、どうも哲学的というのか、寓意的というのか、型絵染の芹沢作品とは別な世界がそこにはあるようでした。芹沢のガラス絵には詳しくありませんので、これ以上は追えないのですが、気になるところです。

展覧会はなんとガラス絵のみで126点が展示されています。見応え十分で、企画を担当された学芸員の方の努力に敬服します。展覧会は2月26日まで府中市美術館で開催されていますので、興味のある方はぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。