学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

絵は偉そう…なのかな?

2020-04-24 18:42:26 | 仕事
数年前に同窓会があったときのことです。久しぶりに再会した友人に、私が美術館で働いていることを話すと、美術館はなんであんなに偉そうなのだ、と言われました。彼曰く、それはスタッフの態度ではなく、館内は薄気味悪いほど静かだし、中で食べ物を食べてはいけないし、特に絵をガラスケースや額に入れてあるのがよろしくない、偉そうだと言うのです。

すべては鑑賞と保存という相反することをすり合わせる必要があるため、と私は考えるし、どの美術館もそう考えているからこそ、そういう対応をとっているわけです。でも、確かに彼のいうことも一理ある。もともと、江戸時代までの日本の美術は私たちの生活とともにあったわけで、床の間には掛け軸、部屋の屏風絵、襖絵などの調度品は見事に装飾であふれていたのです。彼がそこまで考えて話をしたとは思えない(失礼!)けれど、そういうことで考えれば、掛け軸をガラスケースで鑑賞するのは違和感があるし、浮世絵を額に入れて鑑賞しても、江戸時代の人たちが楽しんだような絵との付き合い方はできませんよね。

こうしたことについて、私は思い切った展示方法をした展覧会を見たことがあります。ひとつは板橋区立美術館で、掛け軸をガラスケースなしで飾り、鑑賞者は畳の上に敷かれた座布団に座って楽しむという方法。もうひとつは、10年ほど前に府中市美術館で見た、近代版画を壁に飾り、額装なしで楽しむという方法です。もちろん、いずれも作品にさわることはできないけれど、かなり近い位置で楽しめ、それだけで絵と自分との距離が縮まったような気がして面白かった覚えがあります。これなら、彼がいうような偉さはまったくない。ただ、おそらく、セキュリティの部分で相当難しい選択があったと思いますし、私も万が一のことを考えると怖くてとてもできません。

同窓会での彼のひょんな言葉から、私は、美術館の形作られたあまり良くないイメージの一端と、そして、かつては生活に溶け込んでいた絵をどのように見せるのがベストなのかを、ときどき思い出しては考えるのでした。

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