学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

過去へ未来へ

2018-02-05 22:45:53 | その他
何となく気持ちがどんよりしているなあ、と感じるとき、私はたいてい過去のことを考えていることが多い。自分では後悔のない人生を歩んではいるつもりだけれど、あのときああすればよかったなあ、とか、あのときああすれば失敗しなかったなあ、などとくよくよ考えるのです。もう過ぎ去ったことなど、考えたところで、時間は元に戻らないし、考えるだけ時間の無駄なのだけれど、その無駄なことをしてしまう。

こんなとき、私は気分を切り替えるためにこんなことをします。

①現代の若い作家たちの著作や美術、音楽などにふれる。
 →エネルギーを分けてもらえるのはもちろんですが、「今」という時代にふれているような気がするのです。

②科学、化学、物理、地学などの理系の本を読む。たまにフィールドワークもする。
 →思考回路が切り替わり、感情に流されにくくなる感覚が得られます。フィールドワークは主に地質。石を拾ってきて、凝灰岩だの石灰岩だのと図鑑を引きながら調べるのが楽しい。

①、②とやっていくと、「今」にふれている安心感、そして、どんな「未来」が広がっているのだろうと考えるだけで希望が満ちてきます。過去のことは過去のこと。私たちは今に生きていて、未来に向かっているわけで、あまり過去にこだわっていてもしょうがない。さあ、また明日もまた新しい一日。おやすみなさい♪
 

西洋美術がブーム

2018-02-03 21:28:25 | その他
今、ビジネスパーソンのなかでは西洋美術を理解していることが重要なスキルのひとつになっているそう。その火付け役になった本が、木村泰司さんが書かれた『世界のビジネスパーソンが身につける教養「西洋美術史」』(ダイヤモンド社)のようで、amazonのベストセラー1位に選ばれています。

もちろん、西洋美術を先入観なく鑑賞するのも絵の楽しみ方です。でも、もう一歩、踏み込んで見るためには、ヨーロッパの社会や風俗、宗教などの背景を知っておく必要があります。また「寓意」というのも、特に静物画に多くて、ひとつひとつ描かれているものに意味があり、まさに絵を解く、という感じ。そして、絵を解くには鍵すなわちルールを知っていなければならないわけです。

私はまだ木村泰司さんの著書は読んだことがないので、何とも言えないのですが、私がもし西洋美術の入門書を紹介するとしたら、E.H.ゴンブリッチの『美術の物語』(ファイドン)をお勧めします。ゴンブリッチの柔らかな語り口で、先史時代からモダニズムまで、美術の物語が語られます。内容は西洋美術が中心ですが、視点は世界中の美術に及ぶというスケールの大きいもの。美術に対する人間の考え方が歴史を振り返るとどのように変わってきたのか、小説のように楽しんで読むことができます。ただ…本のボリュームがあるので、持ち運びが大変なのが難ですが…。

『美術の物語』には、先にご紹介した西洋美術を読み解く鍵は書かれていないものの、その前段階をたどる上で非常に最適かと思います。そういえば、今年は国立西洋美術館と兵庫県立美術館でプラド美術館展が開催されますね。こうした本で、予習をしておくと、さらに楽しめること間違いなし!ではないでしょうか。

学芸員のための本

2018-02-02 21:56:56 | 読書感想
書店の美術コーナーに足を向けると、作家の画集はもちろんのこと、全国各地の美術館を紹介するもの、日本美術・西洋美術の楽しみ方を記したもの、果ては専門家が書いた難しい学術書などが並んでいます。そうした数ある本のなかで、実は学芸員のために書かれた本、というのはあまりありません。それはそのはずで、日本で学芸員を仕事にしている人の数はそう多くはないのですし、出版社としても売れる本を世に広めたい思いがあれば、ターゲットを学芸員に絞りすぎるのはリスクが高い。でも、そうした状況が想定されながらも、出版された本があります。それは安村敏信氏がお書きになった『美術館商売』(智慧の海叢書)です。

安村氏は、板橋区立美術館の館長を長年お勤めになった方で、現在は日本美術の研究者としてご活躍されていらっしゃいます。『美術館商売』は、安村氏の泉の如く湧いてくるアイディアが、実際に板橋区立美術館でどのように実現していったのか、が記されています。安村氏の視点は、常に観覧者の立場に立ち、前例に疑問を持ち続けることで新たなアイディアを生み出します。キャプションの大きさはどれぐらいがいいのか、お固い解説文は誰のために必要なのか、ガラスケースに入った作品に親近感を持ち得るのかなど、主に本のなかでは展示についてのさまざまな工夫が紹介されています。

私はどちらかといえば頭が固いほうなので、この本を読んだ時に「こういう手もアリなんだ!」と目から鱗が落ちました。『美術館商売』から、私は様々な影響を受けましたが、実際に何度か板橋区立美術館に足を運び、展示の方法を勉強させていただきました。例えば、畳の上に屏風を展示し、それを座布団に座りながら鑑賞する。こうしたアイディアは頭の中で出ることはあっても、セキュリティ上の問題でなかなか現実的に実現しにくい。けれども、それを安村氏は実現していくわけです。学芸員が学ぶべきスキルは数多くあり、日々勉強は続きます。

現在、日経新聞には安村氏による「諸国の奇想絵師」のコラムが連載されています。それを読んでいて、『美術館商売』について思い出した次第です。私にとって大切な本の一冊になっています。