語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【消費税】増税すると得する大企業 ~輸出還付金~

2012年07月02日 | 社会
 消費税が上がると、利益が膨らむ企業もあるのだ。事実は小説よりも奇なり。

(1)「輸出戻し税」
 輸出に係る消費税はゼロで、輸出で稼ぐ大手企業に得な制度だ。

 <事例1>売上高1,000億円、仕入額800億円の企業
    売上高×5%-仕入額×5%=納税額
    1,000億円×5%-800億円×5%=50億円-40億円=10億円

 <事例1-2><事例1>の企業の海外売上高比率が50%の場合、計算式は次のように変わる。
    (国内売上高×5%+海外売上高×0%)-仕入額×5%=25億円-40億円=▲15億円
     ⇒15億円は「輸出還付金」として企業に還付される。

 大企業上位10社の還付金は、合計8,698億円【注】にのぼる。【湖東京至・税理士/元静岡大学教授】
 消費税が上がれば、輸出還付金も増える。税率8%なら24億円、10%なら30億円になる。
 経団連が消費増税に前向きなのは、輸出還付金の増加が見込めるからだ。

 ●問題点・・・・大企業は本当に下請け企業に消費税分を払っているか。1997年に消費税率が3%から5%に上がった時、大手業者との力関係のため増税分を転嫁できなかった中小企業(売上高5,000万円以下)が6割もあった(日本商工会議所の調査)。転嫁できなければ、還付金は大企業向けの輸出補助金でしかない。

 【注】2010年度有価証券報告書に基づく湖東税理士の推計。ただし、キャノンは12月決算のため2010年のもの。
   ①2,246億円(トヨタ自動車)
   ②1,116億円(ソニー)
   ③987億円(日産自動車)
   ④753億円(東芝)
   ⑤749億円(キャノン)
   ⑥711億円(本田技研工業)
   ⑦633億円(パナソニック)
   ⑧618億円(マツダ)
   ⑨539億円(三菱自動車)
   ⑩346億円(新日本製鐵)

(2)事業者免税点制度
 中小企業にも有利な制度がある。

  (a)売上高1,000万円以下の事業者 → 免税
  (b)資本金1,000万円未満、かつ、設立2年以内の事業者 → 免税

 免税事業者でも、客から消費税を徴収してよい、という点がミソだ。客から見れば、どの業者が(a)~(b)なのか、わからないからだ。

 <事例2>売上高800万円、仕入額360万円の事業者
    売上高×5%-仕入額×5%=納税額
    800万円×5%-360万円×5%=40-18=22万円
     ⇒差引22万円が国庫に入らず、事業主のポケットに入る(「益税」)。

 ●問題点・・・・(b)を悪用し、零細な子会社の設立と解散を2年ごとに繰り返し、課税逃れを図る業者がいる。

(3)簡易課税制度
 もうひとつ、中小企業に有利な制度がある。
 売上高5,000万円以下の事業者には、業種ごとに50~90%が一律に「みなし仕入れ率」が認められているのだ。
 <例>保険代理店・飲食店は仕入れ率60%、不動産業・理髪店・弁護士などのサービス業は50%。

 <事例3>売上高3,800万円、実仕入額1,400万円の保険代理店
    3,800万円×5%-2,280万円【みなし仕入れ率適用】=80万円・・・・納税額
    3,800万円×5%-1,400万円【みなし仕入れ率不適用】=120円・・・・簡易課税制度を適用しない場合の納税額
     ⇒差引40万円が国庫に入らず、事業者のポケットに入る(「益税」)。

 ●問題点・・・・「みなし仕入れ率」は、ほとんどの業種で実態との乖離が大きく、実際の仕入れより過大に設定されているため、税として客から徴収する分の一部が利益となる。だから、例えばドイツは簡易課税の対象を、日本よりぐんと狭い、年間売上高650万円以下の企業に限定している。政府は、みなし仕入れ率引き下げを検討しているが、業界団体は見直しに抵抗している。
 (2)と(3)とを合わせると5,000億円に達する、と言われている。消費税収0.5%分に相当する巨額だ。【佐藤光一・税理士/元国税専門官】

 以上、谷道健太(ジャーナリスト)「増税でトクする人々 輸出還付金を得られる大企業 「簡易課税」が駅用になる中小事業者」(「サンデー毎日」2012年7月8日号)および本田靖明(編集部)「消費税こんなに不公平」(「AERA」2012年7月2日号)に拠る。
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【政治】「新党」結成目前の小沢一郎の前にたちはだかる難問

2012年07月02日 | 社会
 6月26日、衆院本会場。野田佳彦・首相が「(財務省のために)政治的生命をかける」法案に反対票を投じた小沢一郎は、笑みを浮かべて自席に戻った。
 反対は57人(うち小沢グループは44人)、欠席・棄権は体調不良を理由に欠席を事前通知していた羽田孜・元首相を除いて15人。造反民主党員は、72人に達した。
 これまでの小沢は、大きなことを成し遂げたとき、口を一文字に結び、全身から殺気を放っていた。このたびの「小沢の笑み」は「苦笑い」「照れ笑い」に近い。迷いの証か。
 迷いは、本会議終了後の小沢発言の随所ににじみ出た。「本来の民主党に戻すための最善の道を追及したい」
 当面は離党しない、ということを示唆している。
 小沢の政治の師、金丸信は「事を成すには一気呵成に」が口癖だった。
 小沢の側近、山岡賢次・前国家公安委員長が直ちに新党結成に向かう決意を表明していただけに、小沢の慎重さは目立った。
 なぜ小沢は躊躇したのか。

(1)「離党-新党結成」の先に展望がない。
 造反した小沢グループ44人のうち、当選1回組(いわゆる小沢チルドレン)が27人。うち、比例当選者は11人。次の衆院選は、お先真っ暗だ【注】。

(2)小沢自身も袋小路に身を置く。
 (a)刑事裁判を抱えながらの政治活動。
   ①政治資金規正法違反の罪に問われた刑事裁判の控訴審が秋にも始まる。
   ②離党となれば、再び小沢の国会証人喚問問題が浮上する。
 (b)新党を結成しても、
   ①スタープレイターがいない。
   ②参謀も見当たらない。
   ③当面は真正面から連携を取り合う政党や政治団体が見えてこない。

 既に70歳を超えた小沢に、「新党」はあまりに荷が重すぎる。
 ただし、小沢が影響力を発揮する場はまだある。
 今の参院の勢力図は、
  (ア)最大会派の民主党・新緑風会・・・・104人
  (イ)自民党・たちあがれ日本・無所属の会・・・・86人
なのだが、(ア)のうち、小沢が2007年と2010年の参院選で自ら発掘して当選した候補者のうち小沢グループに属する者が、谷亮子ら19人もいる。彼らが(ア)を離れると、民主党は参院第一勢力の座を自民党に明け渡すことになる。ただでさえ「ねじれ」の参院がさらに混迷するのは必至だ。
 だから、次の焦点は参院なのだ 

 【注】小沢らが離党、新党を結成する場合、政党交付金は、①小沢グループの議員が党執行部と合意して円満に分かれるか、②小沢らが集団離党するかで、配分額が大きく異なる。
 ①-(ア)「政党の分党」は、政党助成法上の「分割」に当たる。民主党をいったん解散した後に複数の新党を結成すれば、所属国会議員数に応じて、民主党が受け取る2012年分の政党交付金のうち、未交付分が分配される。毎年4、7、10、12月に支払われる交付金の4分の3、民主党の場合は約123億7,800万円が現在は未交付だ。衆議院議員43人、参院議員14人【要約者注:後藤健次の見立て19人より少ない】、計57人が「小沢新党予備軍」と目される。全員が新党に参加し、7月10日までに分党手続きが終わると、2012年分として17億8,600万円が交付される。
 ①-(イ)離党せず、国会内の会派を新たに結成する場合、会派には議員1人当たり月65万円の立法事務費が支給され、57人分だと月額3,705万円となる。
 ただ、いずれも民主党執行部の了承が必要だ。現実味は薄い。野田佳彦・首相は30日の講演で分党を認めない考えを表明した。
 ②小沢らが民主党を飛び出して新党をつくる場合(「分派」)、2012年分の交付金は年内に衆院解散・総選挙がない限り受け取れない。
 以上、記事「分党なら交付金18億円=「小沢新党」57人の場合」(jijicom)に拠り注す。

 以上、後藤謙次「消費増税法案可決で激化する野田、小沢、谷垣の生存競争 ~永田町ライブ!No.101」(「週刊ダイヤモンド」2012年7月7日号)に拠る。
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