6月25日、ついに消費増税法案が衆議院を通過した直後の記者会見で、野田佳彦・総理は、今回の増税の目的が、
「社会保障を持続可能なものにする」
「すべて社会保障に還元される」
と述べた。しかし、これは真っ赤な嘘だ。その理由は、
(1)おカネには色がついていない。だから、増税分は社会保障にしか使わない、という議論は空虚だ。増税で楽になった分、他のバラマキが増える可能性が高い【注1】。
(2)法案に書いてある。
(a)消費増税法案には次のような趣旨の「景気条項」が入っている。
①2011年度から10年間の平均経済成長率を名目3%、実質2%程度を目指して必要な措置を講じる。
②経済状況を増税間に点検し、必要なら増税を停止する。
民主党は、「ただでさえ景気が悪いのに増税でもっと景気が悪くなる」という批判に対して、②を引用し、「本当に経済状況が悪ければ執行停止できるようにした」と説明してきた。しかし、②はそれのみではなく、①の「成長のために必要な措置を講じる」との関連も重要だ。
「成長のために必要なことをやる」の解釈はいろいろだが、成長のためと称するバラマキが予定されているのではないか、と指摘されていた。3党修正協議で自民党と公明党の要求を民主党が呑み、追加した条項は、その懸念が当たっていたことを明らかにした。追加条項の趣旨は次のようなものだ。
③税制の抜本的改革で財政に多少ゆとりができるので、成長戦略や「防災、減災」などの分野に資金を重点的に配分する。
要するに、消費増税で楽になった分を「社会保障」ではなく、「防災、減災」という名の公共事業バラマキ予算に振り向ける、ということだ。「コンクリートから人へ」は、マニフェストが実現される前に、早くも「コンクリートからコンクリートへ」に化けてしまった。
(b)自民党は、「国土強靱化基本法案」を国会に提出している。そのバラマキ規模は、驚くべし、10年間で200兆円だ。その理屈として出しているのが「防災」だ。(a)-③と揆を一にする。大震災を理由にした悪のりだ。自民党長老が民主党にすり寄ってバラマキ利権のおこぼれにあずかろうと必死なのが、ひしひしと伝わってくる【注2】。
(c)財務省は、(b)の動きを見越し、自民党は絶対に賛成に回る、と読んでいた。と言うより、そうなるように誘導していた。
・・・・ということを財務省の幹部があちこちで話したことに、谷垣禎一・自民党総裁が怒った【注3】。消費増税は、もともと自民党が主張していたのだ【注4】。谷垣総裁、図星を指されては身の置きどころがない。
自民党がいかに必死であるかは、「歳入庁創設」に係る修正に歴然としている。「歳入庁創設のために本格的な作業を行う」という趣旨の文言を削除し、歳入庁創設を事実上棚上げにする修正を行った【注5】。財務省の歓心を買ったのだ。
かくて、消費増税法案をめぐる衆院の闘いは、財務省の完勝に終わった。
【注1】「増税は社会保障のため」という説明はトリック、あえて品のない言い方をすればペテンだ。増税分の使途の限定化や目的税化は、可能なことは可能だ。例えば、このたび新たに需要ができた復興に係る支出だ。ところが、社会保障3経費は、すでに存在し、しかも消費税以外の財源によって手当されている経費だから、ペテンになるのだ。【「【経済】「消費増税は社会保障に充てる」という説明のトリック」】
【注2】「大角連合」が復活しつつある。【「【政治】小沢一郎、妻からの「離縁状」の波紋 ~古い自民党の復活~」】
【注3】記事「谷垣氏「財務省、私をなめるな」 消費増税賛成へ秋波で」【朝日新聞デジタル記事2012年6月10日03時00分】
【注4】「【政治】野田佳彦・ザ・財務省の傀儡、民主党の来るべき凋落 ~歴史はくり返す~」
【注5】財務省は、「歳入庁創設」に最も強く抵抗していた。国税庁を切り離されては、最大の権力の源泉を失うからだ。
以上、古賀茂明「「増税は社会保障のため」は真っ赤な嘘 ~官々愕々第25回~」(「週刊現代」2012年7月14日号)に拠る。
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「社会保障を持続可能なものにする」
「すべて社会保障に還元される」
と述べた。しかし、これは真っ赤な嘘だ。その理由は、
(1)おカネには色がついていない。だから、増税分は社会保障にしか使わない、という議論は空虚だ。増税で楽になった分、他のバラマキが増える可能性が高い【注1】。
(2)法案に書いてある。
(a)消費増税法案には次のような趣旨の「景気条項」が入っている。
①2011年度から10年間の平均経済成長率を名目3%、実質2%程度を目指して必要な措置を講じる。
②経済状況を増税間に点検し、必要なら増税を停止する。
民主党は、「ただでさえ景気が悪いのに増税でもっと景気が悪くなる」という批判に対して、②を引用し、「本当に経済状況が悪ければ執行停止できるようにした」と説明してきた。しかし、②はそれのみではなく、①の「成長のために必要な措置を講じる」との関連も重要だ。
「成長のために必要なことをやる」の解釈はいろいろだが、成長のためと称するバラマキが予定されているのではないか、と指摘されていた。3党修正協議で自民党と公明党の要求を民主党が呑み、追加した条項は、その懸念が当たっていたことを明らかにした。追加条項の趣旨は次のようなものだ。
③税制の抜本的改革で財政に多少ゆとりができるので、成長戦略や「防災、減災」などの分野に資金を重点的に配分する。
要するに、消費増税で楽になった分を「社会保障」ではなく、「防災、減災」という名の公共事業バラマキ予算に振り向ける、ということだ。「コンクリートから人へ」は、マニフェストが実現される前に、早くも「コンクリートからコンクリートへ」に化けてしまった。
(b)自民党は、「国土強靱化基本法案」を国会に提出している。そのバラマキ規模は、驚くべし、10年間で200兆円だ。その理屈として出しているのが「防災」だ。(a)-③と揆を一にする。大震災を理由にした悪のりだ。自民党長老が民主党にすり寄ってバラマキ利権のおこぼれにあずかろうと必死なのが、ひしひしと伝わってくる【注2】。
(c)財務省は、(b)の動きを見越し、自民党は絶対に賛成に回る、と読んでいた。と言うより、そうなるように誘導していた。
・・・・ということを財務省の幹部があちこちで話したことに、谷垣禎一・自民党総裁が怒った【注3】。消費増税は、もともと自民党が主張していたのだ【注4】。谷垣総裁、図星を指されては身の置きどころがない。
自民党がいかに必死であるかは、「歳入庁創設」に係る修正に歴然としている。「歳入庁創設のために本格的な作業を行う」という趣旨の文言を削除し、歳入庁創設を事実上棚上げにする修正を行った【注5】。財務省の歓心を買ったのだ。
かくて、消費増税法案をめぐる衆院の闘いは、財務省の完勝に終わった。
【注1】「増税は社会保障のため」という説明はトリック、あえて品のない言い方をすればペテンだ。増税分の使途の限定化や目的税化は、可能なことは可能だ。例えば、このたび新たに需要ができた復興に係る支出だ。ところが、社会保障3経費は、すでに存在し、しかも消費税以外の財源によって手当されている経費だから、ペテンになるのだ。【「【経済】「消費増税は社会保障に充てる」という説明のトリック」】
【注2】「大角連合」が復活しつつある。【「【政治】小沢一郎、妻からの「離縁状」の波紋 ~古い自民党の復活~」】
【注3】記事「谷垣氏「財務省、私をなめるな」 消費増税賛成へ秋波で」【朝日新聞デジタル記事2012年6月10日03時00分】
【注4】「【政治】野田佳彦・ザ・財務省の傀儡、民主党の来るべき凋落 ~歴史はくり返す~」
【注5】財務省は、「歳入庁創設」に最も強く抵抗していた。国税庁を切り離されては、最大の権力の源泉を失うからだ。
以上、古賀茂明「「増税は社会保障のため」は真っ赤な嘘 ~官々愕々第25回~」(「週刊現代」2012年7月14日号)に拠る。
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