語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【国土】ダム機能を脅かす堆砂 ~ダムと原発に共通するもの~

2012年12月18日 | 社会
 12月2日、山梨県の中央道・笹子トンネルで崩落事故が起きた。死者9人。社会インフラの老朽化は、人命の損失に直結する。 

 (1)球磨川中流に位置する熊本県営荒瀬ダムが撤去される。
 本格的コンクリートダムを代替施設を造らずに完全に壊して自然の状態に戻す・・・・という作業は、荒瀬ダムが日本初の試みだ。
 荒瀬ダムは、熊本県企業局が1955年に完成させた発電用専用ダムだ。貯水容量1,014立米の築57年の中規模ダムだ。
 ダム計画が持ち込まれたとき、地元は大賛成だった。いい話ばかり聞かされたからだ。しかし、ダムができたら大違い。水質が悪化し、川底は下がり、漁業被害も生じた(魚が激減)。球磨川の激変ぶりに衝撃を受けた住民は、ダム撤去の運動を始めた。10年前から本格化した。理由の一つは、発電用ダムとしての役割低下だ。県内電力供給量に占める割合は、完成時の16%から0.6%まで急落していた。発電設備の更新、水利権の問題もあった。

 (2)ダム撤去には大きな壁がある。費用の調達だ。建設には国の財政支援があるが、撤去にはない。原則は管理者の全額負担だが、そもそも国はダムの撤去を想定していない。壊すための制度が確立されていない。
 荒瀬ダムの場合、熊本県の方針が、ダムの存続と撤去とに二転三転した。結論からすると、撤去費用は最終的に88億円と見積もられ、このうち熊本県企業局が内部留保を取り崩して69億円を用意し、残りの19億円は国が既存の制度を援用して支援することになった。
 社会インフラを撤去する際のルールを作るべきだ。撤去費用は、施設を造ったときの出資者が、その割合に応じて負担すべきだ。【五十嵐敬喜・法政大学教授】
 壁は、資金調達だけではない。河川や海に、いかにダメージを与えずに工事を進めていくか。ダムを壊すのは、さほど難しくない。しかし、一気にやると、水や土砂が下流や海に大量に流れてしまう。そのため、治水面や環境面に配慮した工法で撤去を進めなければならない。しかし、前例がない。手探りの工事を余儀なくされる。
 採用されたのが、「右岸先行スリット工法」だ。ダムの基礎部分に水抜き用の穴を2つ開け、ダム湖の水位を下げる。その上で8つの水門用鉄板を右側から一つずつ撤去していく。6工程を6年かけて進める計画だ。ちなみに、建設に要した時間は2年だった。

 (3)撤去作業で厄介なのは、ダム貯水池内に堆積している土砂(堆砂)だ。荒瀬ダムでも、50年間に溜まった堆砂量は80万立米。うちヘドロ10万立米、砂礫10万立米を浚渫し、取り除く計画だ。この処理に費用がかかる。

 (4)インフラの老朽化が問題になるのは、安全性や機能に支障をきたしている場合だ。
 ダムの機能とは、一般的なダムの場合、洪水期に水をため、渇水期に水を放流することで流量調整することだ。この機能を低下させるものが、貯水池内にたまる堆砂だ。
 堆砂容量は、あらかじめ計算される。100年間でたまる土砂量を想定し、この「堆砂容量」と治水・利水容量を合計したものがダムの総貯水量になる。換言すれば、ダムは100年以上使える構築物と想定されている。
 しかし、想定を大幅に上回る速度で堆砂が進むダムが少なくない。中には、完成後わずか10年ほどで実際の堆砂量が堆砂容量に迫っているダムさえある。
 国交省は、「社会資本メインテナンス戦略小委員会」で、ダムもその対象としているものの、なぜかダム堤自体と放流設備などにとどまり、堆砂についてはテーマとして挙げていない。しかし、
 ダムにとって一番のネックは堆砂だ。きちんと対策を取らないとダムの機能は維持できない。堆砂問題こそ、真正面から取り上げるべきテーマだ。国交省も問題意識は持っており、20~30年前から堆砂対策の議論を重ねてきている。さまざまな処理策が考案されたが、ベストな方法は見つかっていない。今では堆砂を除去するために新しいダムを造る、という構想さえ出ている。【宮本博行・元国交省キャリア技官】

 (5)きちんと堆砂対策をとっているダムはある。神奈川県の相模ダムがそれだ。
 総貯水容量6,320立米。県民の貴重な水瓶だ。だが、1947年に建設され、築65年超。ダム湖には堆砂容量を大幅に上回る堆砂がたまっている。このため、神奈川県は堆砂を取り除く事業を継続的に実施し、現在は1993年度から2019年度までの27年間の事業が進行している。今年度は、15億円の予算額で、15万立米の堆砂を取り除く計画だ。
 工事は、特殊な船を駆使して行われる。相模湖上流部で土砂を浚渫し、それをダンプカーでよそに運搬している。一部は侵食の進む相模湾沿岸に運ばれ、砂浜の回復や保全に活用されている。昨年度までに投じたカネは346億円。浚渫した土砂は430立米だ。
 こうした努力も、堆砂量の減少にはつながらない。新たな土砂の流入が続くので、堆砂量は浚渫しても横ばいだ。
 ダムは、原発と同じように、21世紀最大の産業廃棄物だ。【五十嵐教授】

 以上、記事「橋・ダム・高速道路・・・・が危ない 朽ち始めたインフラ」(「週刊ダイヤモンド」2012年10月30日号)に拠る。

 【参考】
【国土】朽ち始めたインフラ ~危ない橋・ダム・高速道路~
【国土】老朽化の進行、破裂、長寿命化への挑戦 ~水道~
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