(1)地方都市の地元企業の人々と話す機会が多い。それらの企業は圧倒的に製造業が多く、何らかの形で大企業の系列と関連している。彼らの話から強く感じるのは二点。
(a)これまでの事業を、これまでの形態で続けたい、と望んでいる。新しいビジネスを始めようとも思わないし、ビジネスモデルを変更しようとも考えていない。彼らのいう「成長戦略」とは、具体的には補助や保護がほしい、ということだ。
(b)彼らの頭には、2004年~2007年ごろの円安期の記憶が残っている。「あのときには輸出が伸びて利益も増えた。その状況をもう一度再現してほしい」という幻想に取り憑かれている。 ①「デフレ脱却」とは、具体的には「超円安の再現」を意味している。このときの円安がバブルにすぎず、よって永続できるものではなかった、という認識はない。 ②現在の日本の電機産業(<例>シャープやパナソニック)の大赤字は、そのときの過大投資の後遺症であることも理解されていない。
(2)2013年の日本で、製造業にとっての逆風は、これまでにも増して強いものになるだろう。<例>中国への輸出は簡単には増えない。電気料金が上がる。生産拠点の海外移転が続く。親会社の移転によって、系列部品メーカーの受注が減る。
だから、(1)-(a)、(b)のような要求が強くなる。
実際、市場は安倍晋三政権の金融緩和政策を先取りして、円安・株高の方向へ向かっている。円安幻想に応えるため、新政権は金融緩和策をさらに拡大するだろう。
(3)しかし、金融緩和をしても、2004年~2007年と同じような円安を再現することはできない。なぜなら、先進諸国の金利がその当時に比べて低下してしまったため、円キャリー取引(円を売って高金利通貨を買う取引)が起こりにくいからだ。
米国の景気が回復し、ユーロ危機が解決に向かえば、世界的な資金の流れが逆転し、日本からの資金流出が起これば、円安が進む。しかし、そうなると、こんどは金利が上昇し、国債を大量に保有する金融機関に損失が発生する。
他方で、貿易赤字はさらに拡大し、財政赤字も拡大するだろう。
よって、(1)-(a)、(b)のような要求の実現は極めて難しい。
(4)笑わず、泣かず、憤らず見ること(スピノザ)。
(a)これからの日本で、これまでと同じビジネスを同じように続けようとしてもできない。
(b)金融緩和と円安政策で日本経済を活性化することはできない。
(5)1990年代末の通貨危機で、韓国の人々の意識は大きく変わった。他力本願では活路は開けないことを知ったのだ。そのため、教育熱が高まり、若者がグローバルなチャンスを求めるようになった。
日本では、そこまで危機が深刻化していないため、意識が変わらない。
(6)2013年、日本経済の閉塞状況がますます強まるだろう。しかし、考え方、見方を変えればチャンスはいくらでもある。
(a)サービス関連では強い規制が残っている分野が多い。<例>保険業、通信業、医療・介護。・・・・これらの分野で規制緩和を進めればビジネスチャンスは大きく拡大する。
(b)情報関連では技術進歩によって、チャンスが広がっている。
①クラウドサービス・・・・強力な大型コンピュータのサービスをインターネット経由で低コストor無料で広範に利用できる。
②「プラットフォーム」・・・・<例>グーグルマップやグーグルカレンダー(無料)に何らかのサービスを付け加えて自分の事業とすることができる。
(c)金融市場の外では、「明らかに利益を得られる機会」が残っている場合がある。今の日本社会ではとりわけそうだ。新しい可能性を試そうとする人が少ないことは、逆に見れば、非常に大きなビジネスチャンスが手付かずで放置されていることを意味する。ちなみに、金融市場では、「明らかに利益を得られる機会」があれば裁定(サヤ取り)取引によって即座につぶされてしまう。
(d)30年前は資金の壁があったが、今では必要資金の障壁は著しく低下している。(b)-①のように。
(e)20世紀の産業社会は、工場での大量生産を中心とするものだったから、大組織と大資本を必要とした。しかし、1990年代後半以降、この傾向に大きな変化が生じている。それは、新しい事業のチャンスを生む。そうしたチャンスが日本ほど手つかずで転がっている国はない。
以上、野口悠紀雄「閉塞感は強まるが チャンスはいくらでも ~「超」整理日記No.641~」(「週刊ダイヤモンド」2012年29月日/2013年1月5日新年合併号)に拠る。
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(a)これまでの事業を、これまでの形態で続けたい、と望んでいる。新しいビジネスを始めようとも思わないし、ビジネスモデルを変更しようとも考えていない。彼らのいう「成長戦略」とは、具体的には補助や保護がほしい、ということだ。
(b)彼らの頭には、2004年~2007年ごろの円安期の記憶が残っている。「あのときには輸出が伸びて利益も増えた。その状況をもう一度再現してほしい」という幻想に取り憑かれている。 ①「デフレ脱却」とは、具体的には「超円安の再現」を意味している。このときの円安がバブルにすぎず、よって永続できるものではなかった、という認識はない。 ②現在の日本の電機産業(<例>シャープやパナソニック)の大赤字は、そのときの過大投資の後遺症であることも理解されていない。
(2)2013年の日本で、製造業にとっての逆風は、これまでにも増して強いものになるだろう。<例>中国への輸出は簡単には増えない。電気料金が上がる。生産拠点の海外移転が続く。親会社の移転によって、系列部品メーカーの受注が減る。
だから、(1)-(a)、(b)のような要求が強くなる。
実際、市場は安倍晋三政権の金融緩和政策を先取りして、円安・株高の方向へ向かっている。円安幻想に応えるため、新政権は金融緩和策をさらに拡大するだろう。
(3)しかし、金融緩和をしても、2004年~2007年と同じような円安を再現することはできない。なぜなら、先進諸国の金利がその当時に比べて低下してしまったため、円キャリー取引(円を売って高金利通貨を買う取引)が起こりにくいからだ。
米国の景気が回復し、ユーロ危機が解決に向かえば、世界的な資金の流れが逆転し、日本からの資金流出が起これば、円安が進む。しかし、そうなると、こんどは金利が上昇し、国債を大量に保有する金融機関に損失が発生する。
他方で、貿易赤字はさらに拡大し、財政赤字も拡大するだろう。
よって、(1)-(a)、(b)のような要求の実現は極めて難しい。
(4)笑わず、泣かず、憤らず見ること(スピノザ)。
(a)これからの日本で、これまでと同じビジネスを同じように続けようとしてもできない。
(b)金融緩和と円安政策で日本経済を活性化することはできない。
(5)1990年代末の通貨危機で、韓国の人々の意識は大きく変わった。他力本願では活路は開けないことを知ったのだ。そのため、教育熱が高まり、若者がグローバルなチャンスを求めるようになった。
日本では、そこまで危機が深刻化していないため、意識が変わらない。
(6)2013年、日本経済の閉塞状況がますます強まるだろう。しかし、考え方、見方を変えればチャンスはいくらでもある。
(a)サービス関連では強い規制が残っている分野が多い。<例>保険業、通信業、医療・介護。・・・・これらの分野で規制緩和を進めればビジネスチャンスは大きく拡大する。
(b)情報関連では技術進歩によって、チャンスが広がっている。
①クラウドサービス・・・・強力な大型コンピュータのサービスをインターネット経由で低コストor無料で広範に利用できる。
②「プラットフォーム」・・・・<例>グーグルマップやグーグルカレンダー(無料)に何らかのサービスを付け加えて自分の事業とすることができる。
(c)金融市場の外では、「明らかに利益を得られる機会」が残っている場合がある。今の日本社会ではとりわけそうだ。新しい可能性を試そうとする人が少ないことは、逆に見れば、非常に大きなビジネスチャンスが手付かずで放置されていることを意味する。ちなみに、金融市場では、「明らかに利益を得られる機会」があれば裁定(サヤ取り)取引によって即座につぶされてしまう。
(d)30年前は資金の壁があったが、今では必要資金の障壁は著しく低下している。(b)-①のように。
(e)20世紀の産業社会は、工場での大量生産を中心とするものだったから、大組織と大資本を必要とした。しかし、1990年代後半以降、この傾向に大きな変化が生じている。それは、新しい事業のチャンスを生む。そうしたチャンスが日本ほど手つかずで転がっている国はない。
以上、野口悠紀雄「閉塞感は強まるが チャンスはいくらでも ~「超」整理日記No.641~」(「週刊ダイヤモンド」2012年29月日/2013年1月5日新年合併号)に拠る。
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