語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【堤未果】大衆を好戦ムードへ向かわせたマスコミの大罪

2015年09月01日 | 批評・思想
 (1)8月15日、安部総理は戦後70年談話を出した。その内容について、大手マスコミ各社は他国や自社の論評を報道するのに忙しい。
 だが、日本人が過去の戦争を検証する際、忘れてはならないもう一つの要素がある。
 古今東西、時の政府が戦争を始める際、世論を誘導する重要任務を担ってきたマスコミの戦争責任だ。

 (2)ウド・ウルフコッテ・元「フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトング(FAZ)」記者は、オリエンタル誌のインタビューで、同国におけるマスコミの戦争報道を厳しく批判する。
  (a)イラン・イラク戦争で1980年代末にイラン人に使用された毒ガス兵器(ドイツ製)について、彼が現場取材を経て書いた記事は、FAZ社上層部に阻止された。
  (b)コソボで使用された劣化ウラン弾で帰還兵たちに健康被害が出ているにも拘わらず、政府側に立って「劣化ウラン弾は無害」とする記事を掲載したFAZ誌記者は、その後NATO担当特派員を経て出世した。

 (3)ウルフコッテ元記者が、自著『買収されたジャーナリスト』で、かつての同業者たちに投げかける問いは、当局に迎合し、自ら腐敗の道を選ぶジャーナリストそのものの体質だ。
 大手新聞社に属していることで与えられる特権(信じられないような特権)の数々、政府の望む記事を出し続けることで約束される出世の道。
 どの記者も疑問さえ持たず、むしろ互いに協力し合っていたのだ。
 「何よりも、居心地が良かったのです」

 (4)米国で、二つの大波(旧ソ連との核開発競争と原発推進)を全力で後押ししたのも、新聞社だった。
 当時、戦争省に雇用され、原爆投下の現地にすら入らず、「被爆者の死因は放射能ではない」とする記事を書いたウィリアム・ロレンス・「ニューヨーク・タイムズ」記者は、後に原爆推進の記事を評価され、ピューリッツアー賞を受賞している。
 それから半世紀経った2001年、ジュディス・ミラー・「ニューヨーク・タイムズ」記者が書いた記事・・・・イラクに大量破壊兵器があるとする記事は、米国世論をイラク戦争支持へと、一気に向かわせた。
 2004年に同紙が、記事は事実でえはんかった、と謝罪文を掲載したのは、米国・イラク両国から、取り返しのつかない数の犠牲者が出た後だった。

 (5)翻って日本はどうか。
 現在、世界でも類を見ない新聞発行部数を誇り、「マスコミ信頼度ランキング」もトップクラスの日本。
 しかし、満州事変や日中戦争で、日本の新聞は戦争を礼賛、第二次世界大戦中も、先頭を切って、世論を煽っていた。
 8月14日の敗戦後、新聞社は国が降伏するという情報を入手していたにもかかわらず、国民に戦い続けることを促す社説を載せている。

 (6)世界規模でメディアの寡占化が進む今、戦争そのもののみならず、戦争報道の責任所在がますます曖昧になっている。このリスクに、警戒の目を向けるべきだ。
 むの たけじは、敗戦後、マスコミの戦争責任を感じて、たった一人、朝日新聞社を辞めた。彼はいう。
 「あの当時、新聞は読者を忘れていた。しかし軍部は読者を知っていた」

□堤未果「大衆を好戦ムードへ向かわせたマスコミの大罪 ~ジャーナリストの目 第264回~」(「週刊現代」2015年9月5日号)
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 【参考】
【堤未果】【ギリシャ】緊縮財政なのに軍事予算を削減できない理由
【堤未果】地方の介護現場を完全に無視 ~高齢者の「移住」提言~
【堤未果】本当に患者のためか疑問 ~国民健康保険法の改正~
【堤未果】サービス残業は絶対なくならない ~残業代ゼロ法案~
【堤未果】医師不足に拍車をかける国家戦略特区
【堤未果】「イスラム国」掃討と膨れあがる米の軍事費 ~いつか来た道~
【堤未果】格差大国アメリカの後を追う日本 ~金融緩和と年金改革~
【堤未果】米国社会の変質 ~ミズーリ州の武装警察~
【米国】国民皆保険という美名の裏で大増税開始 ~オバマケア~
【食】中国の鶏肉問題--流通のグローバル化で食の安全はますます困難に
【堤未果】「水道の民営化」が招く社会インフラ大崩壊 ~価格高騰に水質低下~
【堤未果】「社会保障のための増税」のウソ ~来るべき医療崩壊~
【堤未果】世界が危惧する日本のジャーナリズム ~「監視大国」米国以下~
【堤未果】アベノミクスと米国経済の危うい共通点
国の鶏肉問題--流通のグローバル化で食の安全はますます困難に」
【政治】国家戦略特区法の危険性
【米国】と日本における民営化の悲惨 ~株式会社化する国家~  
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【詩歌】【沖縄】山之口獏「沖縄風景」

2015年09月01日 | 詩歌
 そこの庭ではいつでも
 軍鶏(タウチー)たちが血に飢えているのだ
 タウチー達はそれぞれの
 ミーバーラー* のなかにいるのだが
 どれもが肩を怒らしていて
 いかにも自信ありげに
 闘鶏のその日を待ちあぐんでいるのだ
 赤嶺家の老人(タンメー)は朝のたんびに
 煙草盆をぶらさげては
 縁先に出て座り
 庭のタウチー達のきげんをうかがった
 この朝もタンメーは縁先にいたのだが
 煙管がつまってしまったのか
 ぽんとたたいたその音で
 タウチー達が一斉に
 ひょいと首をのばしたのだ

  * 養鶏用のかご

□山之口獏「沖縄風景」(『鮪に鰯』、原書房、1964)
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 【参考】
【詩歌】【沖縄】山之口獏「島」
【詩歌】【沖縄】山之口獏「弾を浴びた島」
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