語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【古賀茂明】安倍首相の「積極的軍事主義」が根付くとき

2015年09月03日 | 批評・思想
【古賀茂明】安倍首相の「積極的軍事主義」が根付くとき

 (1)8月19日、ヨハン・ガルトゥング博士(ノルウェーの平和学者)が来日し、安倍政権の看板政策「積極的平和主義」を真っ向から否定した。これが話題になった。
 ガルトゥング博士が定義する「積極的平和」は、「消極的平和」と対をなす言葉だ。
   消極的平和・・・・単に戦争がない状態。
   積極的平和・・・・貧困や差別といった構造的な暴力のない状態。
 「積極的平和」を目指すためには、外交や草の根交流などによる対話と和解、そして人道支援や経済協力などが必要だ。これが本来の「積極的平和」主義の意味するところだ。

 (2)ガルトゥング博士のいわゆる「積極的平和」主義は、日本国憲法の前文・第9条と軌を一にするものだ。博士も、日本が「9条が当たり前の世界にしよう」と主張すべきだ、という。
 そのガルトゥング博士に、
   安倍首相の「積極的平和主義」は、本来の「積極的平和」とはかけ離れている。
 と言われてしまった。
 安倍首相の「積極的平和主義」は、米国などとの軍事同盟を拡大し、世界中で軍事力を行使して「平和に積極的に貢献する」という【注1】。誰がどう見てもまがいものだ、ということは明らかだろう。

 (3)実は、古賀茂明は昨年、「積極的平和主義」が平和学の定義とはかけ離れたまがいものであることをすでに指摘していた【注2】。
 今回は、本家本元に看板政策を否定されたのだから、五輪エンブレム盗作問題の比ではない。かなり深刻だ。
 ニュースだけでなく、バラエティ番組などでも大きく扱われてよいのだが、大手メディア、特にテレビ局は、ニュースやインタビューでこの話を取り上げたものの、なぜか「まがいもの」批判というトーンを抑えて地味な報道に終始した。
 安倍政権の看板政策に真っ向から切りつける報道は、支持率が下がったといっても、まだタブーなのだろう。

 (4)かくして、わが国では、一国のリーダーが、非常識なキーワードを世界に向けて厚かましく唱え続けることになってしまった。
 しかも、さらに心配なことがある。
 最近、自民党が保守色の強い教科書の採択を市町村教委に働きかけていることだ。安部総理に近い議員の集まり「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」が、保守色の強い教科書に好意的な評価を載せたパンフレットを地方議員に配り、事実上の圧力を強めている。
 その効果もあり、保守色の強い教科書を採択する自治体が相次いでいる。
 保守色の強い教科書を代表する育鵬社の教科書。フジサンケイグループのマークを堂々と載せているのだが、驚くべき内容だ、当然。
 中学の「新しいみんなの公民」では、集団的自衛権を「解釈改憲」で認めるべきだ、という「超少数説」がわざわざ紹介されている。
 一方、最も標準的な東京書籍の教科書「新しい社会公民」では、ガルトゥング博士の積極的平和の考え方が、しっかり記述されている。しかし、こういう教科書が徐々に使われなくなっていくのだ。

 (5)このままでは、世界の常識を否定し、学会の異端説を妄信する若者が溢れ出すことになるかもしれない。
 その時には、安部総理の目指す「積極的平和主義」が国民の中にしっかり根付き、平和憲法は跡形もなく改正されてしまうのではないか。

 【注1】例えば「【安保】進む武器輸出 急接近する“戦争”と“ビジネス”
 【注2】例えば「【古賀茂明】イスラム国との戦争 ~集団的自衛権~

□古賀茂明「「積極的軍事主義」が根付くとき ~官々愕々第168回~」(「週刊現代」2015年9月12日号)
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【詩歌】【沖縄】山之口獏「がじまるの木」

2015年09月03日 | 詩歌
 ぼくの生れは琉球なのだが
 そこには亜熱帯や熱帯の
 いろんな植物が住んでいるのだ
 がじまるの木もそのひとつで
 年をとるほどながながと
 気根(ひげ)を垂れている木なのだ
 暴風なんぞにはつよい木なのだが
 気立てのやさしさはまた格別で
 木のぼりあそびにくるこどもらの
 するがままに
 身をまかせたりしていて
 孫の守りでもしているような
 隠居みたいな風情の木だ

□山之口獏「がじまるの木」(『鮪に鰯』、原書房、1964)
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 【参考】
【詩歌】【沖縄】山之口獏「浮沈母艦沖縄」
【詩歌】【沖縄】山之口獏「沖縄風景」
【詩歌】【沖縄】山之口獏「島」
【詩歌】【沖縄】山之口獏「弾を浴びた島」

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